薄まる円
まえがき
これはフィクションです。
しかし、この物語は、日々感じていた小さな違和感を形にしたものです。
私は経済の専門家ではありません。
この考えが正しいのか、間違っているのかを証明することもできません。
ただ、ある疑問が頭から離れなくなりました。
もし、国によってインフレ率に大きな差が生まれ、その差が為替に十分反映されない時間が長く続いたなら、一体何が起きるのだろうか。
インフレによって通貨の購買力が変化していく中で、為替という数字だけが同じ場所に留まり続けた場合、世界で見た通貨の価値はどう変化するのだろうか。
考えれば考えるほど、単純な数字の裏側に、見えない変化が存在しているように感じました。
これは、その疑問から生まれた一つの物語です。
男は、毎朝ニュースを見るたびに同じ疑問を抱いていた。
「なぜ、物価の差は為替に反映されないのだろう」
アメリカでは、何年も物価が上がり続けていた。
一つの商品に必要なドルの数は増え、生活するために必要な金額も膨らんでいった。
一方、日本では長い間、大きなインフレは起きなかった。
数字だけを見れば、日本円は安定しているように見えた。
しかし、男は海外の商品価格を見て違和感を覚えた。
昔なら買えたものが、今では高く感じる。
海外旅行の費用は増え、輸入品の価格は上がり、世界「物価差による通貨価値の調整が起きるはずなのに、それが十分起きていないなら、低インフレ国の国際購買力が徐々に失われているように見える」でで使える円の力が少しずつ弱くなっているように感じた。
「もし、高いインフレを経験した国の通貨が、本来なら下がるべきなのに……為替が十分に動かなかったら?」
男は一つの仮説にたどり着いた。
それは、低インフレの国が何もしていないのに、相対的な購買力を失っていく可能性だった。
通貨は、ただ紙の枚数では決まらない。
しかし、物価の差が積み重なり、その差が為替に反映されない時間が長く続けば、数字の裏側では静かな変化が起きる。
国内では変わらないように見える。
銀行口座の数字も同じように見える。
だが、世界という市場に出た瞬間、その通貨が持つ力は少しずつ変わっている。
「これは円が弱くなったのか……」
「それとも、世界の中で通貨の価値というものが再計算されているのか……」
男には答えが分からなかった。
ただ一つ分かったことがあった。
通貨の価値とは、数字そのものではない。
世界中の人々が、その数字でどれだけのものを交換できると信じるかで決まる。
そして、その信頼の差が積み重なった時、誰にも見えない場所で、通貨の重さは変わっていくのだった。
あとがき
この物語を読んだ後、何を感じるかはあなた次第です。
しかし、もしこの物語の中で描いたような状況が現実に起きるなら、一つの疑問が生まれます。
それは、インフレを経験した国の通貨価値が変化しているにもかかわらず、為替の調整が十分に起きない場合、低インフレの国は相対的な国際購買力を失い続けることになるのではないか、という疑問です。
それは、どの国が悪い、どの国が正しいという話ではありません。
通貨とは、国同士の信頼と市場の期待によって成り立つものだからです。
しかし、もし物価差による調整が起きない状態が長く続くなら、「インフレをしている国が得をしているように見える」という、直感とは逆の現象が生まれる可能性があります。
そして、インフレをしていない国であっても、世界の中で使える力が少しずつ低下しているように見える。
その考えにたどり着いた時、私は少し怖くなりました。
なぜなら、通貨の価値とは、目に見える紙や数字ではなく、世界中の人々が信じることで成り立っているものだからです。
もし、その均衡が崩れる時が来るなら、それは突然訪れるのか、それとも誰にも気づかれない小さな変化の積み重ねの先に訪れるのか。
答えを出すことはできません。
ただ、この疑問を持った瞬間から、数字を見る目は少し変わりました。




