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最後の抑止

まえがき


はじめに

本作はフィクションです。


登場する人物、国家、企業、組織、技術、出来事はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。


また、本作は軍事的提言や未来予測を目的としたものではありません。


これは一つの思考実験です。


もし将来、核抑止の前提そのものを揺るがす技術が登場したらどうなるのか。

例えば自爆型潜水艦が見つからずその場で核を作動させたら・・・


それは人類が長年信じてきた「報復による均衡」が成立しなくなることを意味します・・・

それだと国家はどのように行動するのか。


そして、その先に待つのは平和なのか、それとも新しい恐怖なのか。

本作は、その問いを小説という形で描いた架空の寓話です。


ここで描かれる技術や戦略は、現実に存在するものではなく、あくまで物語上の仮定として扱われています。


どうか一つの空想として読み進めていただければ幸いです。

西暦2089年。


世界から「核戦争」という言葉が消えた。

人類は長い間、核抑止という均衡の上で生きてきた。


誰かが撃てば全員が死ぬ。

だから誰も撃たない。

それが文明の常識だった。


だが、その常識は一つの発明によって終わった。

無人潜航体。

AIによって制御される深海ドローンだった。


それは攻撃兵器ではなかった。

報復兵器だった。

各国は数千機の潜航体を海底へ沈めた。

平時には何もしない。

命令も受け取らない。

ただ世界の終わりを監視する。

国家が消滅したと判断した瞬間だけ起動する。


誰が最初に撃ったかなど関係ない。

誰が正義かも関係ない。

人類が限界を越えたと判断された瞬間、海底で眠る無数の装置が動き出す。


その存在が知られてから戦争は激減した。

理由は単純だった。


勝者が存在しないからだ。

征服も意味を失った。

国家を滅ぼした瞬間、自分も終わる。


軍人たちは失業した。

戦略家たちは職を失った。

核抑止理論は歴史書の中へ消えた。


誰も撃てない世界。

誰も勝てない世界。

誰も支配できない世界。

それは平和と呼ばれた。


しかし百年後。

ある若い歴史学者が疑問を抱く。


「なぜ私たちは生き残ることを目的にしなくなったのだろう」

古い記録を読む。


そこには人類の夢が書かれていた。


繁栄。

開拓。

挑戦。

未来。


だが現在の世界には何もない。

誰も戦わない代わりに、

誰も賭けない。

誰も挑戦しない。

誰も変化を望まない。


失敗が文明の終わりにつながるから。

歴史学者は海を見つめる。


遥か深海には、今も無数の機械が眠っている。

人類を守るために作られた機械。


そして人類を永久に恐怖へ閉じ込めた機械。


彼は論文の最後にこう記した。

「核戦争は消滅した。

しかしその代償として、


人類は未来そのものを失ったのかもしれない。」


あとがき


この物語で描いた世界では、人類は戦争を終わらせようとしていました。

しかし、その方法は人類の理性を信じることではありませんでした。


むしろ逆です。

人類は互いを信用できないからこそ、絶対的な恐怖を作り出そうとしたのです。


もし報復されない攻撃が可能になると人々が信じたならば、抑止の仕組みは揺らぎ始めます。

そして抑止が揺らげば、それを防ぐためにさらに強力な抑止が求められます。

恐怖を消すための仕組みが、さらに大きな恐怖を生み出す。


歴史の中で繰り返されてきた安全保障の逆説です。


もちろん、本作は現実の未来を予言するものではありません。

ここで描いた世界が実現する保証もなければ、そうならない保証もありません。


ただ一つ確かなのは、人類はこれまでも「絶対の安全」タイトル:最後の抑止

を求め続けてきたということです。


そして不思議なことに、絶対の安全に近づこうとするほど、人々はより深い不安を抱えるようにも見えます。


本作が描こうとしたのは兵器ではありません。


恐怖です。

人類は恐怖から自由になれるのか。

あるいは恐怖そのものを制度化しながら生きていくのか。


その答えは、物語の中ではなく、私たち自身の中にあるのかもしれません。

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