ありがとうの痛み
帰り、ウェルナイアが用意してくれたバスに乗って、探偵所へと帰る途中。
外見ていたはずのオニキスが、抱えきれないように呟いた。
「わたくし、『ありがとう』が、こんなにも痛いなんて知らなかったの」
「ボクも、お礼は言われて嬉しいものだと思っていました。でも、歓喜で流される涙があるなら、悲しい『ありがとう』もあるんじゃないかなって。少なくとも、千種さんにとっては悲しい意味じゃなかった。他人が勝手に価値を決めてはいけないのかなって。そうやって自分を納得させました」
「自分を、納得」
「そうですよ。人はそうやって生きていくんですから」
ごとん、石に引っかかった車体が揺れて、ぽろりと溢れた涙はどちらのものだったのか。
大きく揺れ終わった車内では、もう先程の話題は出ず。帰ったら食べたいものなんかを話しながら、チャロアとオニキスは街に帰っていった。
後日、警察のもとに我竜点から一本電話があった、我竜点の元に惑星のオルゴールと共に蔵から刀身と思われる残りが発見され届けられた、という内容だったらしい。
探偵所に一応報告に来ていたウェルナイアから聞いたが、ウェルナイア自身は出された温かい紅茶を一口含み、ため息を付いていた。
「どうかしたんですか?」
「あぁ、すまない。オーウェンがどうやってオルゴールが盗まれたのかわからないって荒れていてね。現場には警察官も張っていたから、形無しで」
「うっわー」
「オーウェン従兄様はわからないの?」
大人なら内心荒れていても心のなかで留めておくだろうに。子どもっぽい人だな、チャロアの「うっわー」の後に続けられたわかって当然とでも言いたげなオニキスの言葉に、チャロアとウェルナイアがオニキスを見る。
驚いた瞳に、困惑で返すオニキスにウェルナイアが尋ねた。
「オニキス嬢は、わかるのかい?」
「古典的な方法よ。中身が欲しいけれど時間がないなら箱ごと持っていけばいいのよ。最初の箱には本物が入っていたわ。でも暗い中で二つ目の箱に入れ替えた、ただそれだけよ」
「……証拠は?」
「電気が消える前と付く前で光の屈折の仕方と小キズの位置が違ったわ。ああいうのは同じ傷が入ってることなんてないのでしょう? そう、本にあったわ。でも傷を真似るには時間がなかったんじゃないかしら?」
「あ、そういえば予備がなんとか喋ってましたね」
そういえばそうだった、と言わんばかりのチャロアと、それよと同意するオニキスに一つため息を付いて。
目がいいなんてものじゃない着眼点、発想、知識。自分にはないものにぐっと唇を噛んで。
その情報はなかったから、千種さんに確認するよ。と言い残して、ウェルナイアは探偵所を出たのだった。




