一人と孤独の違い
今夜中に目的地へと着くために、夜に片足を突っ込んだ薄闇の空の下を歩く。見上げた空には大きな満月があって、なんとなく自嘲の笑みが漏れた。本当は、オニキスの様子を見に行こうと思っただけだった。
あの時、「オーウェンにいさま」と喃語を喋って数日の赤子が流暢に発音した時に。悪魔だと叫んだことは後悔はしていない、ただ少しほんの爪先ほどの罪悪感が今もあるだけだ。
なぜなら、自分のたった一言のせいでオニキスは乳母一人を付けられこの島に押し込まれた。躑躅なら与えられて当然のものを全てオーウェンが奪ったのに等しいのだ。自分の発言の影響力をわかっていなかった、愚かな子どもだった自分が。
でも、この島に来てあの見知らぬ娘の側で感情豊かにしている様子を見ると、安堵と同時に苛立ちが支配する。自分でも押さえつけられないのだ。ぼんやり月を見ながらそんな事を考えていると、いつの間にか足は止まっていた。後ろを振り返ると息を切らしているウェルナイアに追いつかれた。早足で、置いてきてしまったのだろう。
何はともあれ、躑躅にオニキスの側に見知らぬ人間がいたことを伝えねば。せっかく自分の発言には影響力があるのだ、放置して問題ないと添えよう。
無意識にまた足早になりかけるオーウェンに、ずっと黙り込んでいたウェルナイアが重い口を開く。
「……あの子達のことを、報告するのかい?」
「当たり前だ。あの悪魔の側に何も知らない人間が居るなど……報告しないわけがない」
「……オーウェン、頼む。お願いだ、あの子達を引き離さないでほしい」
「は」
「厚顔な願いだ、わかっているよ。だけど少しでもオニキス嬢を思う心があるなら、チャロア嬢のことは僕が手配したことにしてくれないか」
「何を……そんなことをしたらお前も責任を!」
「彼女たちは孤独なんだよ。どれだけ一緒に居ても、言葉を交わそうとお互い孤独なんだ。その事に気づいていて、寂しくて寒いから寄り添うことで二人になろうとしてるんだよ。オニキス嬢に一人を強いた僕たちが、本当に今更だけど。それでも。人形から人になった子どもと、大人にならざるをえなかった子どもから、孤独を溶かす方法を奪わないでほしい」
オーウェンの。オーウェンの知っているウェルナイアという人物は、いつも穏やかだった。おどけ、忠告はするけれど、ここまで強くオーウェンに意見することはなかった。満月の月光が照らす中、ウェルナイアのアーモンド色の瞳が光る。顔をくしゃりと歪めて、泣きそうな、迷子になった子どものような声で。
「一人ぼっちの僕が、君という孤独と二人になったように」
その言葉に、今も孤独から解放されない二人の少女の顔が浮かんだ。




