鈴森会長へのプレゼン
鈴森会長の部屋に案内され、セキュリティプログラムのデモを行う。
会長室に呼び出された技術本部ネットワーク担当の山田部長が、セキュリティプログラムを大絶賛する展開……前世と同じだ。
秋葉原のビルはまだ建て替えていないので、鈴森会長が東京に来るのに合わせて東京支店を訪問し、セキュリティシステムや他に進めている研究についてのプレゼンをすることが決まった。
会長とお別れした後、あの美味しかった会席料理をご馳走になる流れも同じだ。
前世と違う展開になったらどうしようかと思ったけど、鈴森会長訪問イベントを無事終わらせることができた。
***
東京支店を訪問する日が、来月下旬に決まる。
当日のプレゼンは、セキュリティソフトの開発を一緒にやっている村岡優子という子供とともに行うことを、会長に返事しておいた。
訪問当日は、会長が用意してくれた大会議室で、まずセキュリティシステムの説明を行い、次にセキュリティシステムにどうAIを活用しているかについて説明し、最後に開発しているAIプラットフォームと、それを使ったデモを見せる予定にしている。
プレゼン当日は、俺と優子それぞれの家にK社のお迎えの車が来ることになった。
「連絡した日時にお迎えの車が家にやってくるので、必ずお父さんとともにK社に来てほしい」と、メールで優子に連絡しておく。
優子から話を聞いた裕太さんは、有名なK社の鈴森会長に娘が呼ばれていると聞き、久々の笑顔だ。
「しかし、なぜ優子が呼ばれたのだろう」
疑問には思うものの、「たくさん子供が呼ばれるイベントでもあるのだろう」と勝手に思い込む。
でもうれしい……娘の晴れ舞台だ。
ここのところ嫌なことばかり続いているからな。
会社には有休届を提出した。
行ったことのないK社を訪問するのも楽しみだ。
***
2006年4月――
プレゼンの日がやってくる。
匠たちの到着を待っている間、鈴森会長と技術本部長が会長室で話している。
「匠くんが作ったセキュリティシステムですが、どうしますか? 我が社はセキュリティシステムを使うことはあっても、販売とかメンテナンスをするようなノウハウはありませんが!」
「Sシステム社と我が社で共同出資の会社を作るか? 名前は“KSセキュリティ社”にしてはどうだろう」
「匠くんとの関係はどうしますか? 9歳ではKSセキュリティ社の社長になってもらうのは無理ですよ」
「今回は匠くんに、KSセキュリティ社の大株主になっておいてもらう。そして将来は、そこの社長をやってもらおうじゃないか。彼ならできると思う」
「……まず、セキュリティソフトの研究開発部隊を作ろう。新会社設立のための準備室を本社に作っておいてくれ。未来技術研究所とは、技術コンサルタント契約を結ぼうじゃないか」
「良いですね。あの天才児を何としてもK社で囲い込みましょう。彼は金のタマゴですよ」
「そうだな。匠くんはいろんな分野に見識が深そうだ。彼がいれば、停滞気味のK社の技術レベルをブレイクスルーさせることができるに違いない。久々にワクワクするじゃないか!」
「会長、匠くんたちが到着しました」と、会長秘書が告げに来る。
「天才児たちが来たか! プレゼンが楽しみだ」
匠たちは車を降り、秘書に案内されて大会議室に向かう。
会議室のある階までエレベーターで移動する。
やっとここまで来たか。
場所と時間は違うが、デモ内容も発表者も同じだし、プレゼンは前世の流れをトレースして無難にこなそう。
K社の会議室には、技術本部ネットワーク担当の山田部長が絶賛したという天才児を見ようと、技術担当役員や上席研究員、技術開発リーダーなどが大勢集まって来る。
大きな会議室が満タン状態だ。座れなかった社員は立ち見になっている。
「やっと会えたね。我が妹よ」と、優子に小さい声で話しかける。
「やっと会えたわ。兄さん」と、優子もニコッとして小さい声で返してくれる。
裕太さんと母は、プレゼンの邪魔にならないようにと、会議室の入口近くに遠慮がちに立っている。
なかなか状況が理解できない裕太さんは、ずっとキョロキョロと周りを見ている。
天才児……優子が? セキュリティプログラムを作った?
この会議室にK社の頭脳が集結しているのはなぜだ?
そもそもこんなところに、他社の私がいてもいいのか……機密漏洩?……いや、娘を置いて帰るわけにはいかないだろう……いくつもの疑問が頭の中をぐるぐる駆け巡る。
母は、『匠のやることにいちいち驚いてもしかたない』と泰然としている。
俺はプロジェクタースクリーンの前で冒頭の挨拶を済ませると、さっそくプレゼンを開始する。
プレゼンの最初に、「この開発はここにいる村岡優子と一緒に行った」と告げる。
会場がざわめく。
天才児が2人もいるのかという反応だ。
まずは、開発しているセキュリティシステムについての説明。
次に、セキュリティシステムへのAIの利用についての説明をする。
最後に、AIプラットフォームを用いたデモとその解説だ。
画像処理で特徴点を抽出した画像データを読み込むことで、ニューラルネットワークの閾値を自動的に変えていき、推定値の精度を高めるオンライン学習の解説を行う。
次に、相手の打ったテニスボールがどこに飛んでいくかを推定するデモだ。推定誤差も画面に表示する。
オンライン学習をしているので、推定誤差がだんだん小さくなっていく。
自らが学習して、AIシステムが賢くなるのだ。
前世でやったのと同じ内容だ。
もちろん、もっと高度なこともできるのだが、この時代のAIのレベルを大きく飛び越えるのは不自然なのだ。
ここまで、お読みいただきありがとうございます。
励みになりますので
ぜひブックマークや評価などをお願いします。




