優子の両親の交通事故の原因は?
優子がお父さんの裕太さんのことを、もっと詳しくメールで連絡してきた。
裕太さんは、新薬開発の優秀な研究員だった。
担当していた新薬開発が、昨年から臨床試験段階フェーズⅠに進んでいる。
その新薬開発に成功すれば、会社にとって莫大な利益が見込まれる開発である。
会社の上層部も裕太さんに大いに期待し、本人も毎晩遅くまで張り切って新薬開発を進めていたそうだ。
しかし、残念ながら臨床試験で良くない結果が判明する。
少ない確率ではあるが、被験者に悪い影響が出る可能性があることが分かったのだ。
だが、成功すれば莫大な利益が見込まれる新薬開発だ……。
会社の上層部は「中止してしまうのは勿体ない」と判断。
上層部から裕太さんに、試験データの改ざんが指示されるようになる。
それは製薬会社が絶対にやってはいけないことだと、裕太さんは強く拒否する。
何度説得されても拒否を続ける裕太さん。
ついに臨床試験の担当を外されてしまう。
別の研究者がフェーズⅠの担当として任命された。
担当が変わった途端に、良好な試験結果が出始める。
当然だ。上層部から、そうせよと指示されているのだから。
新薬の組成をまったく変えていないのに、担当が変わっただけで違う試験結果が出てくるのは、絶対におかしいことだ!
裕太さんは、新たに担当となった研究者を問い詰める。
やはり、試験データを改ざんしていることが判明する。
データ改ざんがどういう結果を生むか、裕太さんは担当者を必死で説得する。
「上に指示されたことなので逆らえない。転職先が見つかれば、自分は退職するつもりだ」
苦しそうに、そう答える担当者に、それ以上のことを言えなかった。
試験データ改ざんの事実を知った日から、裕太さんの悩みが深くなる。
このまま新薬を世に出せば、少ない確率とはいえ、犠牲者が出ることが明白なのだ。
意を決し、試験データ改ざんの事実を社長に直訴することを決断。
社長は「分かった」と返事をするが、臨床試験は中止にならない。
数日後、裕太さんは人事異動で研究所から本社の営業部門に移動させられてしまう。
さっさと会社を辞めろという意図が含まれた人事だ。
このまま進めば――薬害が起きるかもしれない。
そんなことになれば、被害者が出るだけでなく、会社そのものが崩壊する。
裕太さんは、その事態を恐れて監督官庁への内部告発を真剣に検討したという。
悩みに悩んだ末に、「会社には居られなくなるかもしれない」と覚悟を固め、それでも内部告発を決断したらしい。
現在は、そのための証拠を必死にまとめている最中だというのだ。
……その話を聞いたとき、俺は前世で鈴森会長から耳にした言葉を思い出していた。
「A製薬の康之社長が主導してきた新薬開発で、社長の指示により長年データ偽装が行われていた」――あの件だ。
もしかすると、裕太さんが携わっている新薬開発こそが、そのデータ偽装事件の発端なのではないか?
もし裕太さんが内部告発すれば、会社は窮地に追い込まれる。
それを恐れた誰かが、裕太さんを脅せ、あるいは消せと命じた……そう考えるのが自然ではないか。
両親が乗った車が“事故”に見せかけて襲われたのも、そのためかもしれない。
そして、その命令を下したのがA製薬の社長――保の父親、康之である可能性が極めて高い。
(……もし推測が正しければ、康之はとんでもない極悪人だ)
考えを整理し、メールに書き込んで優子に送信した。
***
優子からはすぐに返信が届いた。
俺と同じ考えだという返事だった。
もちろん証拠など何もない。ただの推測にすぎない。
だが、優子もまた怒りの気持ちをどうすればいいのか分からず、心を持て余しているようだ。
俺自身も同じだ。
(どうすればいい……?)
神様からは「前世のことは話すな」と釘を刺されている。
だから裕太さんに「康之が命を狙っているかもしれない」とは言えない。
たとえ約束を破って「A製薬の社長に殺される危険があります」と伝えたとしても――。
そんな突拍子もない話、誰が信じるだろうか。
(何か……別の方法を考えなければ……!)
そうだ……
解決に結びつきそうなプランが浮かぶ。
やってみるしかないな。
「前世でK社の鈴森会長にプレゼンしたセキュリティプログラムを作れるか?」と、優子にメールを送る。
「お母さんのノートパソコンを借りて、すぐに作れる」という返事がくる。
「今回は母さんと俺の2人で、鈴森会長を突撃訪問する」と返信する。
優子なら、俺が何をやろうとしているか分かるはずだ。
俺はノートパソコンを2台購入し、優子から送られたソフトを2台のノートパソコンにセットして、プレゼンの準備を進める。
「K社の本社まで行きたいのだけど、一緒に行ってくれる?」と母に聞いてみる。
「私が連れて行くに決まっているでしょ! 子供1人だけでそんな遠くまで行かせられないわ」と、前世と同じ答えが返ってくる。
(何で行くのかを聞かないでくれるのも、前世と同じだ。ありがとう、母さん!)
母と共に、K社にアポなし訪問だ。
受付でのやり取りを終えて、ここから前世と同じ展開で進んでくれるのか少し心配だったが、なんとか会長室までたどり着けそうだ。
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