安全圏に逃げきったか?
お祖父ちゃんが病気で亡くなった。
父が会社を継いでくれたことで、お祖父ちゃんも安心したのか、すっと気が抜けてしまったのだろう。
結局、前世と同じように、お祖父ちゃんの設備工事会社を父が引き継ぎ、社長になる。
ところで――倒産時の借金は一体どれくらいあったのだろうか。
秋葉原の自社ビルは間違いなく銀行の担保に入っていたはずだ。
30坪の土地に、銀行はいくらまで融資していたのだろう?
もしかすると、倒産時には銀行と消費者金融を合わせて、負債総額は1億を超えていたかもしれない。
将来、あの秋葉原の土地には、自分の会社を建てたいんだけどな。
だからこそ、借金のカタとして土地を奪われてほしくはない。
(……前世で、借金の総額をきちんと聞いておけば良かったな……)
***
2004年12月――
株式投資の資金が、ついに約1億円に到達した。
やった――これで悲惨な未来はなんとか回避できる。
だが、倒産時の借金がいくらになるのか分からない以上、もう少し増やしておくに越したことはない。
それでも、昨年までのように「稼げ、増やせ」と、胃が痛くなるような思いはしなくて済む。ありがたい。
5歳児の俺、よくここまで頑張った。――君は偉い!
これからも株は続けるが、勉強や技術の習得に軸足を入れていこう。
***
2005年4月――
ソフト関連の会社、“サ……”を1億円分買えるだけ買った。
さすがに金額が大きいので、前のように成り行きで一発購入するわけにはいかない。
株価が乱高下しないよう、3日ほどかけて慎重に買い集めていった。
とはいえ、1億円の投資でもノーリスク投資だ。
気を付けるのは、場を荒らさずに売り買いすることだけ。
思い返せば、初めて株を買った時――ネット関連株の“デ……”を40万円で全力買いしたあの瞬間――あの時の緊張感と興奮は、今となっては懐かしい思い出だ。
それにしても、父の会社は相変わらずうまくいかない。
逆に考えれば、2008年のリーマン・ショックまで、倒産せずに持ちこたえたのは、父が必死に踏ん張ったからなのかもしれない。
***
2005年8月――
買った株が順調に値上がりしている。
このままいけば、年末には投資資金は6.4億円に達するだろう。
売るときも、場を乱さないように注意しなければならない。
6.4億円あれば、父の会社がどんなに酷い状態で倒産しても、もう問題はない。
これで悲惨な未来は完全に回避できた――そう言っていいだろう。
父の会社が抱える負債も、最大でも1億を超えることはないはずだ。
秋葉原の狭い土地に、それほどの価値はない。
銀行だって、古びたビルの資産価値以上の融資をするはずがない。
(安全圏まで逃げ切った……バンザーイ……!)
転生した意味があった。転生して良かった!
「金を稼げ、増やせ」と追われる日々は、これでようやく終わりを告げる。
となれば、次に直面する課題は――小学校。
俺はどうしても行きたくない。6年間、丸ごと不登校にしたい。
近所の子供たちは来年の4月から当然のように入学し、ランドセルを背負って大喜びしているはずだ。
だが俺は……行きたくない。本当に行きたくない。
入学式だけ出席し、その後6年間は「体調不良」で不登校にするしかないのか。
しかし、そんなことが日本で通用するのだろうか?
学校に行く前から「それでいいでしょうか」とは、とても言えない。
頭が良すぎて学校に行きたくない子供なんて、日本にも少数はいるはずだ。
だが、そういう子供たちは一体どうやって暮らしているのだろう?
何かうまい方法を見つけなければならない。
そして、もう一つの懸案事項――。
自分の将来だ。
オール不登校の先に、安定したサラリーマン人生は絶対にない。
俺は起業し、自分の会社の利益で生涯を食いつないでいくしかない。
もちろん、選択肢としては「6歳から死ぬまで5.4億円を食いつぶして、ただ引きこもる」という道もある。
だが、それでは幸せな人生とは呼べないだろう。
結局のところ、起業するしか選択肢はないのだ。
父の会社の倒産対策に6.4億円から1億を充てても、まだ5.4億円が残る。
だが、この万年不景気の日本で起業するなら、さらに資金を厚くしておきたい。
父の会社が倒産しなくても、自分の会社が潰れてしまえば意味がないのだから。
だから――株式投資で、もうひと勝負して資金を増やす。
2006年には“ラ……ショック”がやってくる。
もし信用売りが可能なら、1ヶ月で資産を4倍にできるのに……悔しい。
代わりにゲーム会社の“ニ……”を6.4億円分買っておけば、2007年まで持ち続けるだけで7倍になるはずだ。
それだけあれば、起業して2回くらい派手に失敗しても、まだ立ち上がれるだろう。
***
2005年11月――
証券口座の残高は予定通り6.4億円に到達した。
これで父の会社が倒産しても、対策の目処は完全についた。
準備は整った。
あとは――「会社を畳みましょう」と父を説得するだけだ。
仮に父が聞き入れなくても、その時は倒産後に「お金ならある」と言えば済む。
だが、それは最後の手段にしたい。
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