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そして、新たなる本当の始まり




「……ヒーローになる、か」


 背後で崩れ落ちている美祈と聖――レイヤー・シュバリエールとレイヤー・プリスティエール、そして叶夢から目を背けた紘人は、誰の耳にも届かないような小さな声で独白する。


 幼い頃に母に語った夢。

 そして、キメラとなってから、美祈達に支えられて見付けた目標。戦うための理由。


 真実を胸に秘め、人類を救うためにあえて敵となるその生き方が英雄的であるのかは分からない。

 しかし、そのために多くの犠牲を強いることは避けられない。

 自分を救えず、涙を流している美祈の顔を痛みと共に心に刻み付けた紘人は、小さく空を仰いで目を伏せる。


「これじゃあ、たとえ世界を救ってもヒーローにはなれないかもしれないな」


 自嘲交じりに呟いたその言葉は、紘人以外の耳に届くことなく風に攫われて消えていった。


 こうして、紘人は自分を救い、人々を守り続けるために戦う聖なる天使たちと決別し、世界を救うために彼女達と戦う道を選んだ。



 ――そう。これは、人が忘れてしまった約束を、人のために叶えんとする者達の戦い。


 人を人として守るため、自ら罪を被る道を選んだ者と、人を守る聖なる天使たちの戦い。


 かくして罪を負った者と聖なる天使たちの戦いは加速していく。





 アメリカ合衆国。そのとある場所――都市から離れた広大な平原の一角に設けられたその施設は、厳重に隔離され、軍によって常に最大級の警戒が敷かれている。


「大統領」


 その施設の地下深くにある中枢を訪れたアメリカ合衆国大統領である初老の男は、険しい表情を浮かべてそこにあるものに視線を向ける。


 特殊な強化ガラスから見えるその広い空間には、全長十メートルを超える獣の亡骸が安置され、管理、研究されていた。

 獅子の頭に、山羊の角、蛇の尾、鷲の翼を持つ獣――それは、南極事変の際に出現した最初のキメラだった。





 紘人が去ってから一週間。洋上に浮かぶ船――「ノアズアーク」の中で、東雲美祈と円城寺聖は、一人の少女と対面していた。


「今日から私達の仲間に加わる子よ」


 叶夢の紹介を受け、深く一礼した少女は、緊張した面持ちで美祈と聖に向かって言う。


「よろしくお願いします。『レイヤー・メイジェール』、『美崎(みさき)灯花(ともか)』です」


 そう言って自己紹介をした美崎――美崎灯花の胸には、緑色の宝玉が嵌め込まれたペンダントが輝いていた。





「準備はいいかな?」


 黒い仮面で顔を隠したZTOAからの問いかけに、紘人は閉じていた瞼を開く。


「――あぁ」


 一息でその姿を白い人狼へと変えた紘人は、ZTOAの傍らを通り抜ける。


 人類を守るため、その身に罪の十字架を背負い、世界の敵になることを選んだ少年の歩みの先に何があるのか、今はまだ誰も知らない。




 〝約束の刻〟まで、あと――





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