第十二話:魔道祭!
どうも、サツキ・ハタノです。200年前にこの世界にやってきて、小売の魔女の名を継ぎ、小売業を生業としてきました。しかし、ここ最近短い間ではありますが、サステンシア魔道学校に編入し、そこで勉強させてもらっています。
『これは接戦ですね、あの二組が、一組に追いついています!』
魔道学校の一大イベント、魔道祭に選手として参加しています!
「先生、上手く行きました!」
「おう、こういうのは頭を使わないとな」
そう、私たちは魔術や魔法の正面勝負ではそうそう勝てない。なら、搦手や頭を使って勝つというのが私たちの作戦だ。
『魔力相撲』と呼ばれる、若干気の抜ける名前だけではどんな競技なのか分からない競技。鉄の塊を、魔力を使って相手陣に押し込むという競技だ。
「いいか、お前らは魔術をそれぞれ両端に分断しろ」
「で、でも、先生!こういうのは真ん中に集中させるのがセオリーじゃ…」
「だからだよ。よく見ろ?」
カツカツと先生は黒板に四角形を描き、下向きの矢印を上に描き、そしてその四角形の下の両端に二本上方向に伸びる矢印を描いた。
「初めに言うと、これは魔力を念動力に変換する魔術だ。ちなみにこの鉄は念動力を通しにくい物質でできている。そこを逆手にとる」
「と言いますと?」
「ゴムをイメージしろ。一定の力までは伸びて耐えるが、限界値を迎えると弾ける。相手が引く力だとすれば、お前らは抑える側にまわればいい。そうすれば、どうなるか分かるか?」
「ん…?」
何を言っているんだろう、よく分からない。別に私の出る競技じゃないけどさ…。
「恐らくこの鉄はふたつに割れる。相手は混乱し、隙が生じる。そこでお前らは鉄塊をそのまま相手陣に押し込め。場外まで行ったら勝利だ」
「なるほど!」
「さすが先生、考えることが違うぜ!」
「そうだろうそうだろう!あはははは!」
なるほど…。確かに、多少割れにくい物質に両端とその反対側の真ん中に圧力をかけたら、否が応でも折れるだろう。硬いゆえに割れやすいのだ。
というか先生やけに楽しそうだな。
その作戦や、その他アインツ先生直伝の戦略が見事に甲を制し、私たちは勝利を目前にしていた。
「私の生徒があなた達に負けるわけが無いでしょう」などと鼻につく言い方をしていたエリート講師を気取った先生も、あんぐりと口をアホみたいに開けていた。開いた口が塞がらないとはまさにこの事か。
「さぁ、午後の部に備えて六人は準備しとけ。あいつらに赤っ恥をかかせるもとい、お前らの魔術座学を守るために!」
(後者はあんたが言い出したことだろ)
誰もがそう思っただろう。しかし、誰もそう言わなかった。もう、私たちは勝利に王手をかけている。ほとんどの一位二位を一組二組が独占しているからだ。これならもしかして…?と誰もが思っている。
「フラン、リッセィ。凄かったね!」
「こっちの作戦勝ちだよ、あっぱれ!」
フェイルが二人を賞賛する。私もそれに続けて二人に賛美を送った。今まで先生のような考え方をした人はいなかったのか、司会席も困惑していたが、きちんと私たちが勝利したので問題は無い。
「おう!次はお前らだぞ。気負わずいけよ、無理に緊張したらそれこそいい結果出ないからな」
リッセィはルグラ達、体術の出場選手に声をかける。
「はい、ご心配なく。差をつけられるようなヘマはしませんよ」
「自信満々だな」
「心配いらないよ、こいつアホみたいに強いんだもん。男だって歯が立たないんじゃないかな?」
「ほんとなー。って、ルグラさん怒ってらっしゃる!?」
「当たり前です!」
ルグラは顔をフグのようにふくらませ、顔を赤くした。あれはまだ本気で怒ってないな。前はもっと一周まわって冷徹さを感じられるような、そんな怒りだった。
「ふふっ」
「セッキ、どうかした?」
フェイルが、不思議そうに不意に笑いだした私を見つめる。
「いや、なんだかんだルグラも楽しそうだなってさ」
前まではあんなに人を見下していたのに、今はもう一週間足らずであんなにクラスに馴染んでいる。
「ほんと、楽しそうだね」
さっきまで怒っていたのはどこにやら、今度はシャロ達と一緒に笑ってる。とても、楽しそうだ。
「それとさ。これからも敬語じゃなくていいからね」
「な、何でですか?」
驚いた途端、敬語に戻るフェイル。確かに、私の方がはるかに年上ではあるのだけど…。
「だって、短いとはいえ、同級生でしょ?先輩でもなんでもないなら、敬語じゃなくていいじゃない?」
「…、確かに、そうですけど」
「それと、弟子の件は学院を卒業するまで保留ね」
「わ、わかった、セッキ」
「うん、それでいいよ」
「ユニにも敬語じゃなくていい」
私の隣にいたユニがくいくいと、フェイルの袖を引っ張った。
「そうだね。ユニ」
ユニには最初から敬語じゃなかった気がするのだが…。まぁ、彼女なりのユーモアだろうか。
すると、遠くからシャロが声をかける。おや、ルグラも一緒だ。シャロはというと、出場種目では快勝を飾った。そこから勢いに乗り、二組の快進撃が始まったのだ。いわゆる戦の女神、御旗の乙女。ジャンヌ・ダルクだ。
「セッキさーん、ご飯食べましょー!」
「お弁当作ったのー!一緒にどう?」
「うん、今行くー」
そうして、午前の部は終了!二人の手作り弁当を頂き、元気を注入!
「美味しー」
「うまー」
「美味しいですね!」
私たちは、割り箸を貰い、シャロの重箱のような弁当を頂いた。五人で食べてもまだ余りそうだ。
「ほんと、美味いな」
と、先生がシャロを賞賛する。だよな、美味しいよな…って!
「先生!?」
「おう、お前ら。ちゃんと食っとけよ?全員午後からだろ?それよりこれフェイルが作ったのか?祖先と違ってお前はほんとにできた娘だなー。シャロも見習えよ?」
先生は、なんの疑いもせず、これはフェイルが作ったものと決めつけた。あわあわと慌てるフェイルに対し、無言で拳を固めるシャロ。
「ん?どした、シャロ」
『余計な・お世話・です!』
ドカーン!とシャロが先生を魔拳でぶっ飛ばす。なるほど、さっきのは改訳詠唱か。彼女も改訳が板に付いてきたというか…。
「さ、四人とも、ランチを再開しましょ?」
スッキリしたように、シャロはにっこりと笑った。その笑顔が、私には酷く恐ろしく見えた。
結局、ランチに先生が戻ってくることはなく、午後の部が開始間近となる。
と、その前にトイレ…。緊張してるからかな?その帰りに、事件は起こった。
「もう時間ないや、急がないと…あっ」
「痛っ!ごめん、大丈夫!?」
「う、うん。こっちこそごめん…って、シェルカ!?」
こ、この女より女っぽい男の子は間違いない!何故か前髪をくいくいとしてるけど…。あ、もしかしてフード被ろうとしてる?元々被ってたみたい。
「ひ、人違いだよ?」
「誤魔化せてないよ…」
「あ、ほんとだ。わはー、通りですぐバレるはずだー」
シェルカは笑顔を振りまく。すると、少し離れた位置にいたフードを深々と被った人物がシェルカをぶん殴った!
「ふにゃ!辞めてよー!」
「とっとと行くぞ、そんな奴に構うな!」
「叩かないでよー、バカになるよぅ」
「安心しろ、お前は十分バカだ」
「バカって言った方がバカだよー!」
「お前が先に自分のことバカだって言ったんだろうが」
「まだバカじゃないもーん!」
な、なんだろう、喧嘩は同レベルの人たちでしか起こらないというか、どんぐりの背比べというか…。でも、どちらかと言うともう一人の方が大人びている感じはある。
手を上げるのはどうかとは思うが。
「というか、その声ナンディ?」
「…ったく、バレたか。言っておくが、なぜここにいるのかという質問には答えんからな」
フードとマフラーを解き、顔を露わにするナンディ。うぅ、先手を打たれた。二人は何やら用事があったらしく、魔道祭には出場しないはずだが…。
「フェイルの監視だよー!あだっ、また叩いたー!」
「アホ、なんでお前は毎度毎度…!これならフィリアと組んだ方がまだマシだ!」
「フェイルに何か!?」
やっちまった…とでも言うように額に手を当て、ナンディはため息を着く。
「お前はとっとと会場に戻れ、お前なんぞにはどうにもならん」
「何言ってるのさー、この子かの有名な小売の魔女でしょ?」
「だが、こいつがやってきたのは小売業のみだぞ!それがなんの役に…!」
「君が大好きなフィリアの一番弟子だけど?」
「あ、アホ、あんなやつのどこが!…こほん。それより、こいつを危険に晒すとフィリアが黙っちゃいねぇよ、そういう理由でもこいつは連れてけない」
「そっかー、ちぇー」
そんなことを言いながら、二人はローブをはためかせて、去っていこうとした。まるで旅人が砂漠を歩くような絵だ。…って、そうじゃなくて!
「フェイルが…、どうかしたのー!」
「離せ!シェルカ、お前は何も言うなよ!」
先手を先に打つというか、口封じというか。口が軽そうなシェルカを先に黙らせにかかった。
「言わないよ!フェイルに危険が迫ってるなんて絶対に言わないよ!」
「お前もう何も言うな!」
「フェイルに…危険!?」
もはや口止めが機能しないシェルカをよそに、私は1人愕然としていた。
さて、午後の部が始まった…のはいいのだが、サツキ様が帰ってこない。
「ユニ、セッキさんは今現在ニーズヘッグをひり出しているところなのでしょうか?」
「何その言い方」
「隠語です」
「逆に卑猥になってる。こういうところで気品のなさが出てる。あーあ、残念な人ー」
「誰が残念な人ですか!」
全く、失礼しちゃいます。後でサツキ様に叱ってもらわないと。あ、もう出番か。私は、大将を務めることとなった。
ダリル、レイの後ろに並び、歩き出す。対戦相手は1組。仕込まれてるのかと思うくらい、二クラス対抗の種目では1組と当たる。
「ルグラー、セッキに恥じ掻かせないように頑張れー」
後方からそんな、声援か罵倒か分からない声が聞こえてくる。言われなくともわかっていますとも。
勝負の結果は、ダリルは勝てたのだが、レイは負けてしまった。相手もなかなか手強いな。私は負けないが。
「ごめん、ルグラ…」
「いいですよ、ここで勝てばいい話です。では、行ってまいります」
相手は筋肉質な男。なるほど、力にものを言わせてくるか。まぁ、相手にとって不足なし。
『対戦カードは、昨年圧倒的な力の差を見せつけたアーチ選手、対するは期待の新生ルグラ選手ー!』
そんな熱の入ったアナウンスが聞こえてくる。圧倒的な力の差?ダリルと同じくらいの強さの気がするけど。見た目では。
「降参するなら今のうちだぜ?」
「どうやら夢でも見られているようですね。戦う前から降参など、する訳ないでは無いですか。ビンタいっときます?」
「けっなめやがって。後悔しても知らねぇぞ!」
私たちは所定の位置に着き、開始の合図を待つ。会場のボルテージも上がってきたな。
二人がかなり接戦を繰り広げたからか。しかしだ。こちらは相手が子供だからと容赦はしない。
ホイッスルが鳴り響き、大きく一歩を踏み込む!一瞬で決めさせてもらおう!相手は何やらブツブツと呟いている。なにかの呪いか?
「ふっ!」
「は…?」
私は思わず立ち止まる。相手は魔拳を繰り出してきたのだ。
「驚いたか?何も、魔法や魔術を使ってはならないというルールはないからな!」
ならば体術の名目の意味が…。そんなことを言う前に、彼はバンバンと連続で魔拳を叩き込んできた。
「もう一度提案する。降参しろ」
「命令形ではないですか。それと、一つ気がつきませんか?」
「あ?」
「あなたは今まで、私を一歩も後退りさせてないんですよ」
アーチだっけ?この人弱いな。まだ模擬戦でやったダリルの方が歯ごたえあった。ダリルはカウンターを駆使してくるからな。私も防御に回らなければ不利だった。しかしこいつは力任せに殴ってくるだけ。それならまだ攻撃に転じ辛いダリルのほうが強いというものだ。
「何っ!」
「今度はこちらです。あなたのプライド、粉々にさせてもらいますよ」
私はグッと力を込め、思いっきりアーチに鉄拳をぶち込んだ!
「ごふっ!」
アーチは空気の塊を吐き出し、酷く不細工な顔をして、後方に吹き飛んでいく。そして場外でバウンドし、気を失う。
「この程度の小細工で、私を倒せると思わないことです」
私は、くるりと方向を変え、皆の元に戻る。さて、サツキ様は帰っているのだろうか。
『まさに鎧袖一触、雲泥の差!ルグラ選手、アーチ選手の連撃をものともせず、逆に一撃でノックアウトしてしまいました!』
ったく、あの程度サツキ様にかかればちょちょいのちょいだろうなー。それに比べ、私は思いっきり殴らないと倒せないから、まだまだ修行が必要だな。デコピン位で倒せるようにならないと。
「すげぇな、ルグラ、一撃じゃん!」
「これでほぼ優勝は貰ったみたいなもんだな!」
私は二人とタッチを交わし、待機所に向かった。
「確かに、このままでは優勝も固いでしょう。まぁ、次の三人のうち二人が負けてしまったら勝てるものも勝てなくなりますけどね。ねぇ、ユニ?」
「嫌な言い方しないで」
「あらごめんなさい、応援したつもりが、お気を悪くさせてしまいました?」
「ふ、二人とも落ち着いて!」
バチバチと火花を散らせる私たちの間に、フェイルが割って入る。はぁ、今回はこのくらいで勘弁するか。
「でも、ルグラの言う通りだね。次の試合で私と二人のうち一人が負けちゃったら私たちの負け…」
「まずなぜあなたが負ける前提なんですか。あなたの弱点はその弱気の虫です。パニックを起こしてしまえば、勝てるものも勝てなくなります。何時いかなる時でも、落ち着いて対処すればいいのです。それに、あなたは一番手でしょう?他の二人がやってくれる、そう思えば少しは楽になるはずです」
幸い、大トリはサツキ様だ。負けることはない。となれば…。
「もし私たちが負けたら、そこのちんちくりんのせいだと思いなさい」
「へ?」
「むー!」
抗議のつもりか、ユニはその短い腕を振り回し、私に向かってきたが、それを片手で受け止める。
「要するにこいつはこう言いたいのさ、『他のふたりが絶対勝つから、お前は気にするな』ってな」
「そこまで気の利いた話ができるほど私は優しくありません。ただユニをからかいたいだけです」
「先生…!どうしたんですか、それ」
言ってること自体はかっこいいのだが、ずぶ濡れでさらに頭にカエル乗っけてるせいで全く格好がついていない。ゲコっと、カエルは一声あげたあと先生の頭から飛び跳ね、地面に着地する。
「いやー、あそこに噴水がなければ即死だったな」
そういや、先生は昼休みにシャロにぶっ飛ばされてたんだっけ。すっかり忘れてた。
で、サツキ様はまだお帰りになられないのか。あの方のことだから、きっと大丈夫と思いたいのだが、流石に次のプログラムに出場するのだから、心配になってきた。
「ついでに言うと、こいつ迷ってたから連れてきたぞ。全く、いくら土地勘がないからってこんなとこで迷うかよ」
「ごめんなさい、トイレに行ったものの、帰り道がわからなくって」
あ、サツキ様!良かった、きちんと間に合った…。のに何故だろう?いつものサツキ様とは少し違うような。緊張してるのか?にしては何やらテンションがおかしい気が…。
元々、あんなに女の子っぽい仕草してたっけ?いや、普段が可愛げがないという訳ではなく、今が異様に女の子っぽいというか…。女の子っぽすぎるというか。
あんなにあざとそうにウィンクとかしてなかったし、明らかに変だ。
「んー、ほんとにセッキ?」
「そうだよー、セッキだよー、わはー!」
やはりテンションがおかしい。「わはー!」なんて普段は使わない。この人は…、一体誰だ?




