〜手から閃光が出るけど、チョコレート食べて頑張ってます〜
あまり細かい事を気にせずに読んでいただけると嬉しいです
この国には、代々、清き光で闇夜を照らし、悪しきものから国を守ってくれる力を持つ者が生まれる。
清き力を持つ者の性別は男性の時があれば、女性の時もある。そして、その者が滅したからといって、すぐに次の清き力を持つ者が生まれるとは限らない。
清き力を持つ者を『高台の光』と呼び、灯台や時計台、教会などにその力を宿す玉を置き、悪しきものを防いできた。
現在この国では、約100年、高台の光は生まれていない。
◇◇◇◇◇
月が沈み、そのかわりに東の空がうっすらと色づいてきた。
東の空が少しずつ明るくなり、静かだった木々が風に吹かれザワザワと音を出す。
その音で鳥が目覚めさえずり出す。
そんな爽やかな朝の事。
「いゃぁぁぁぁぁ!!!!なんで????ありえないんですけど!!どうして??」
高台にあるラテイン公爵家の屋敷から、激しい叫び声が聞こえた…ような気がした。
ラテイン公爵家は、海に面した温暖な領地の高台にたっている。
広大な敷地の公爵家は、マナーハウスや母屋、大きな屋敷が敷地内にゆったりと建てられており、大きな声が聞こえたのは屋敷にある海に面した公爵家の5人兄妹の三女であるリリアンナ嬢の部屋からである。
が、海に面しているので聞こえたのは、リリアンナのお付きの侍女ハルくらいである。
「どういたしました?リリアンナ様!」
大きな声を聞いたハルが部屋に飛び込んだ。
そこにはナイトドレスに身を包んで、ベッドの横のランプの前で四つん這いになって床を凝視しているリリアンナがいた。
「どういたしました?今流行りの小説に書いてあるように前世の記憶が蘇りました?
異世界からやってきたの!とか思いました?
それともお腹が空きすぎて夜中にお菓子を食べすぎました?」
ハルは幼い頃からリリアンナに仕えており、リリアンナの事をよく知っている。
リリアンナは夢見がちな、食い意地のはったお嬢様である。
そしてちょっと運が悪く、いつもハズレくじを引く羽目になっている。その証拠にリリアンナは18歳だというのに、まだ婚約者が見つからない。
なので社交界や夜会に出るのもエスコート役を探すのが一苦労である。
他の兄妹は5歳にしてすでに婚約者がいたのに、リリアンナだけは婚約者が見つからなかったので今に至る。
兄弟達は、普段から婚約者の家に遊びにいったり、遊びに来てもらったりしているのにリリアンナだけ婚約者がいないのでいつも暇である。
暇だから趣味であるロマンス小説を読みながらお菓子を食べる事が自由にできるので婚約者がいないのは楽でいいとリリアンナは考えていた。
そんなちょっとおっとりした考えのリリアンナは今四つん這いでプルプルしている。
「ハル…どうしましょう…手から変な光が出るの…なんか呪いにかかったのかしら…」
そういうと、リリアンナは、泣きながらこっちを見た。
悪い夢でも見て寝起きが悪いのかな?そう思いながら、ハルは声をかけた
「リリアンナ様、手から光が出るところをこのハルにお見せくださいませ。大丈夫です、もう治っているかもしてませんよ?」
優しい顔で微笑みながら、リリアンナ様に近づこうとしたが
「ダメ!ダメダメダメダメ!こないで!その窓を空けて、バルコニーに出て!お願い!」
バルコニーはお隣の侍女の間につながっており、もしもハルが締め出されても自分の部屋に行けばよいので大人しくリリアンナの要求に従うことにした。
ハルはリリアンナの様子を観察できる位置のバルコニーの中央に立った。
リリアンナの様子をうかがっていると生まれたての子牛のようにプルプル震えながら、地面に付いている手をどうにかパーからグーにして、ベッドのシーツを足を使ってたぐり寄せ、口と足でシーツを手に巻きつけて隠すとベソをかきながらバルコニーに近づいてきた。
「お嬢様…」
普段とは違うリリアンナの様子に戸惑いを見せながらハルが声をかけると、リリアンナはゆっくりゆっくりバルコニーに出で来て、ハルの横に立った。
リリアンナは海をじっと見て、そしてシーツを巻き付けた両手を海の方へ向けた。
次の瞬間激しい閃光がリリアンナの手があるであろうシーツの位置から出で、目の前を飛んでいたカモメを丸焼きにした。
さらにその手を海へ向けると、激しい閃光を受けた魚が大量に浮かび上がって来た。
「あぁぁぁぁぁぁぁ」
リリアンナは激しく叫ぶと泣き出した。
手に巻きつけていたシーツは黒コゲだ。
「こんなんじゃお嫁にいけない!スプーンが持てないからスイーツが食べれない!アイスは私の手の光で溶けちゃうわーーー!」
そう言うと、リリアンナは泣き崩れた。
手はグーにして。
「お嬢様、とりあえずナイトウエアから着替えてご飯を食べましょう?そうすると少しはいい考えが思い浮かぶかもしれませんよ?大丈夫!このハルがお嬢様のご飯のお世話をしますわ」
ハルはこの異常な状態がなんともならないとは思うが、リリアンナを落ち着かせることが先決だと考え、取り乱す様子を隠し、リリアンナの部屋の椅子を取りに部屋に入った。
よく見ると、ベッドの天蓋が所々黒コゲだし、部屋の壁も壁紙が焼けている。
でも焼けた匂いはしなかった。
普段、リリアンナの髪を結うために使っている椅子を持ち上げてバルコニーへ向かおうとしたら、そこには、最初に見た四つん這いのリリアンナ…ではなく腹這いのリリアンナが居た。手のひらはパーにして床にぴったりくっつけている
「お嬢様…なぜ腹這いに…」
「手をグーにするとね、昨日してもらった…ネイルアートがね…指の間から漏れ出てくる光で…焦げてしまうのではないかと心配なの。
それにね、ずっと手をグーにしているのは力が入って疲れるの」
グズグス泣きながら答えるリリアンナ。
「でも腹這いなのは…」
「四つん這いが疲れるし、この硬い大理石の床で膝が痛いからよ。
なんでうちはどこもかしこも大理石なのよぉ。成金趣味すぎるのよぉ…」
とまた泣き出してしまった。
「お嬢様…わかりました。ハルにお任せください。」
そう答えると、部屋にあるクッションやマットの類と、ドレスを持ってバルコニーへ出た。
「お嬢様、お着替えだけは立ち上がってくださいませ。ここは海しか見えませんのでお嬢様の着替えを覗く不届き者はおりませんよ」
グズグス泣くリリアンナをなぐさめて、立ち上がるよう促すと、
リリアンナはまた生まれたての子牛のようにプルプルしながら手のひらを地面から離さないようにグーにしてゆっくり立ち上がった。
ハルは早着替えで、リリアンナを着替えさせると、マットレスやクッションの間にリリアンナを寝かせた。
リリアンナはまたうつ伏せで寝ようとしたため、仰向けで寝るように促した。
「お嬢様、仰向けでも、手を床にぴったりくっつけることは可能でございますよ?それにうつ伏せではご飯を召し上がっていただくことができません」
リリアンナはハルに促され、仰向けで寝てみた。枕はちょうどいい高さで、ハルが準備してくれた敷物は背中が痛くならず、床から2センチのマットレスなので
手を床につけるのは簡単である
「ありがとうハル…」
というと同時に大きな音でお腹が鳴った
「リリアンナ様、今急いで朝ご飯を準備いたしますね」
そう言って、ハルは急いで部屋を出ていった。
ハルは走って厨房に行くと、一口で食べられるリリアンナ用の朝ご飯、もちろん落ち込んでいるリリアンナの好物のみで作ってもらうようにお願いして、
「5分で作ってね?」
と言うと、すぐに執事のハンスの執務室に行った。
ハンスは、帳簿をつけていたが手を止めてハルを見た。
「何かあったのかい?ハル?」
ハンスは齢75歳、ハンスの家系は代々ラテイン公爵家に執事として仕える家系で、ハンス自身は10歳から見習いとしてこのラテイン家に仕えている。
「おおお嬢様、リリアンナお嬢様の手から光が!」
ハルはそう言って続きを話そうとした瞬間、ハンスの顔色が変わった
「リリアンナ様から?すぐ旦那様を起こしてリリアンナ様の部屋に行くから、ハルはリリアンナ様と部屋で待つように。この事は誰にも話してないね?」
「はい。」
「よろしい。では行きなさい」
そうハルに指示すると、
「こうしちゃいられない!」
と先に執務室を出ていってしまった
ハルはまた急いで厨房に戻ると、カートにリリアンナ用の朝ごはんが乗っていることを確認して、カートを押してリリアンナの部屋まで行った。
部屋に入ると、リリアンナはさっき準備したマットレスやクッションに体を預けてウトウトしていた。
ウトウトしたリリアンナはうっかり海側を向いている右手を床から離してしまい、激しい閃光が、リリアンナの手から海の向こうへと消えていった
その衝撃でリリアンナは微睡んでいたはずの眠気が覚めてしまい、またグズグス泣き出した。
部屋側を向いている手が床から離れなくてよかった!
そう思いながらハルは声をかけた
「リリアンナ様、朝食の準備ができましたよ。起き上がらずにそのままお待ち下さい」
そうハルは言うと、リリアンナに近づき、顔の横に座ると、カートからお皿やカップを下ろしてスプーンを手に取った。
「リリアンナ様、あーんしてください」
あーんと口を開けると、一口に切ったフレンチトーストが入ってきた。美味しい…
そして、フルーツに、苺味のヨーグルト、オムレツ、どれも寝たままで食べれる一口になっていた。
食べ終わると、ストローのついた子供用のカップでアイスティーを飲ませてくれた。
ある意味これも天国かも!!!
寝たままで食事はできるし、学園の宿題もしなくてもよい、ましてや面倒な社交界やお茶会にも参加しなくてよい!これはまさに天国!
そう思っていたが1時間もするとヒマになってきた。ただし、手をグーにしてから寝返りをすれば危険ではないとわかり、寝返りをうってごろごろしていた。
そんな時、ノックの音がした。




