第十八話 味方発見~~
ミドラス神聖帝国の計画は、教室で生徒に無理やり薬を飲ませて思考能力を奪ってから闘技場に集めて、操り兵にするというモノ。
しかし、当然ながら生徒も素直に飲まないだろう。
仮に薬を飲ませる事に成功したとしても生徒は15万人もいる。
闘技場に収容するには、それなりに時間がかかるはず。
そして3000もの教室の状況を全て、敵の指揮官が把握しているとは考えられない。
だからまずは、教室を1つずつ奪還していき、人質を解放すると同時に、こちらの戦力を増やす。
敵の指揮官に気付かれる前に、どれだけの戦力を解放できるかが勝負だ。
それに各教室にいるはずの教師達は、どうせ生徒を人質に取られて身動き出来ないでいるだろうから、教室を解放するという事は教師という強力な戦力を確保する事でもある。
そしてある程度の戦力を確保したところで、ルシファー学園全体に張り巡らされている、力を100分の1にする封印結界を解く。
そうなれば、いかに人工勇者といえども1人で教室を制圧する事は不可能。
なにしろココは戦士養成学校、ルシファー学園なのだから。
しかし問題は、この計画が敵にバレた時だ。
もしミドラス軍が計画履行困難と判断した場合、生徒に何をするか分からない。
なにしろ平気で女子供まで皆殺しにする国だから。
「さて、どうしよう……」
ギムレットが呟いた、その時。
「味方発見~~」
いきなり空間から現れたルシファー学園の理事長、ユイコがユルい声を上げた。
「現在、どういう状況なのでござるか、理事長?」
流石にムサシの反応は早い。
「あら、驚かないのね~~。ユイコつまんない~~」
マイペースなユイコにギムレットが詰め寄る。
「ユイコ、話は簡潔に」
「あらギムレットちゃんたら怖い顔~~。副理事長なんだから、もう少し落ち着いたらどうかしら~~ 『えええ!? 副理事長!?』
この場にいる全員の声が揃うのを平然と眺めながらギムレットが言い放つ。
「何、知らなかったの? ボクの父さんはヴァンパイア族の王、つまり魔王なんだよ。だから魔王軍が管理するルシファー学園の管理者の一人として、ボクは派遣されてるんだ」
「その副理事長が、何で格闘の1年にいるのよ」
キャスがギムレットに尋ねるが、そこにタイラントが口を挟む。
「それはラノベを読んだお嬢が、自分もこんな学園生活を楽しみたいなんて言いだして……」
「よけいなコト喋るな!」
「ぶへっ!」
顔面にギムレットの蹴りを食らってひっくり返るタイラントだったが、完全にスルーしたユイコが全員を見回して喋り出す。
「理事長室を襲撃してきた兵士がいるの~~。封印結界も張られちゃったし、全教室も未知の敵に占領されちゃったから、どうしようかな~~って悩んでいた時、植物園にいるミンナを発見しから、来ちゃった~~」
ユルい笑顔でエヘヘと舌を出すユイコに、ギムレットが大声で問い詰める。
「理事長室を襲撃して来た!? それってひょっとしたら、ミドラス軍の指揮官の部隊じゃないの!?」「分かんないわ~~」
「話になんない! ユイコ、全員を理事長室に転移して」
業を煮やしたギムレットに、ユイコはノホホンと笑う。
「いいわよ~~。じゃ」
その瞬間、ミサキを除いた全員が理事長室へと転移していた。
これほどの人数を転送装置も使わずに1度に転送できるとは、さすが理事長といったトコか。
転移した理事長室では、20人を超える人間が血塗れで倒れていた。
「こ、これは!」
ムサシが倒れている人間達を、1人ひとり確認する。
「もう息をしていないでござる。さすがルシファー学園の理事長、この程度の相手など敵ではござらぬか」
ムサシの言葉に知也は驚く。
人工勇者は生徒50人を簡単に倒していた。
そして理事長室を襲ってきたという事は指揮官クラス。
当然、人工勇者よりも強力な兵士のはずだ。
そんな人間を1度に20人も倒したというのだろうか。
このユルい笑顔のユイコが。
それは知也だけの感想ではなかっただろうが、今は誰もそれを口にしない。
そんなコトを話している場合ではないから。
「フーデン、コイツ等が侵略軍の指揮官でござるか?」
ロープでグルグル巻きにして連れてきたフーデンに、ムサシが鋭い声で訊く。
「多分、そうだ」
フーデンの答えを聞いて、ギムレットがニヤリと笑う。
「指揮官を失ったという事は、ミドラス軍の侵略が失敗したという事だね!」
「人工勇者達は、教室を制圧して、薬で生徒の思考能力を奪ってから闘技場へと連行する様に命令されている。指揮官を失っても計画通りに行動する」
「ち!」
ギムレットは舌打ちするが、直ぐに気を取り直す。
指揮官を討ち取ったという事は、教室を制圧している人工勇者に新たな命令が下される事はないという事だ。という事は、いきなり生徒を処刑する心配はないと判断してイイ。
だからギムレットは。
「侵略軍は命令系統を失った! 計画を察知されて反撃される心配はなくなったから、安心して教室を1つずつ取り返すよ!」
明るい声で叫ぶと。
「まずは1番戦力として期待出来る、ドラゴン教室から取り戻すよ!」
先頭を切って走り出したのだった。
「トモヤ君、これは本物の戦争でござる。敵を殺す覚悟は出来ているでござるか」
と、そこで。ムサシが知也に尋ねてきた。しかし。
「……戦争と言われても、まったく実感がわかないです」
そう答えるしかない知也だった。
体は鬼かもしれないが、中身は平和すぎる日本の高校生。
戦争と言われても、全く現実味がない。
ただ言える事は、理事長室で切り刻まれた死体を目にした時、体が震えて止まらなかった事と……。
とても人間を殺すコトなど出来そうもない事だ。
「そんな怖い顔しておきながら、何ノンキな事を言ってるんだよ!」
そんな2人の話を聞きつけて、ギムレットがキッと知也を睨み付けた。
「そんな事、言われても……じゃあ逆に聞くけど、ギムレットは何でそんなに必死になってるんだ? 逃げて救援を求めるのが普通じゃないのか?」
知也の質問に、ギムレットが迷いのない瞳で答える。
「ボクは魔王軍を創立した、ヴァンパイア族の1人なんだ。そしてルシファー学園は魔王軍が運営している以上、そしてボクが学園の副理事長である以上、生徒をほっておいて逃げるという選択肢なんてない! 魔王軍は、絶対に仲間を見捨てないんだい!」
揺るぎない決意を口にしたギムレットに、知也は素直に感動した。
「見た目は子供のクセに、王の誇りを持っているんだな」
知也の呟きに、ギムレットが頬を赤く染める。が、すぐに怒りだす。
「誰が子供だい! そのうち絶世の美女に育つんだからな!」
「静かに。敵に気付かれてしまいます」
ミユの冷静な声に、ギムレットが黙り込んだところで。
「ここが、5年のドラゴン教室でござる」
ムサシが押し殺した声でそう告げ、立ち止まった。
「敵は1人の様でござる。さてどうしたモンでござろう」
教室の中の様子を伺いながらムサシが考え込む。
「敵の戦闘力が分からない以上、持てる最強戦力で一気に戦いを終わらせるのが1番だね」
即答するギムレットにミユが口を挟む。
「それはトモヤ様の事でしょうか」
「当たり前じゃん。最強の鬼神なんだから」
コクコクと頷くギムレットに、ミウが首を横に振る。
「それは無理でしょう。トモヤ様は、まだ敵を殺す覚悟をしてません」
「こ、殺すのか? 別に殺さなくても、気絶させるだけでイイんじゃないか?」
ミユの言葉に知也がアタフタと答えるのを目にして、ギムレットはハフウとため息をついく。
「確かに今のトモヤは当てにならないね。思わぬ事態に遭遇した時、即座に敵を殺せないと味方に被害が出てしまう」
「こればかりは、変われ、と言われてハイ、と変われるモノではござらぬからな」
ムサシの言葉にギムレットが知也の目を覗き込む。
「ちぇ。恐怖の化身みたいな顔してるクセに、目は優しいんだ。今まで気が付かなかったよ」
そう言う自分の目も知也と同様、優しい光を放っている事に、ギムレットは気付いてないようだ。
が、すぐに厳しい目になると、ムサシに向き直った。
「じゃあ、ムサシ先生とエウリュアレの2人で急襲。それでイイかな」
「そうでござるな。それで行くでござる」
「了解」
ギムレットの言葉にコクリと頷いたムサシとエウリュアレに、ヴリトラが焦った声を上げる。
「力が100分の1に低下している今の状況で2人だけの急襲とは、無理があるのではないか? 我らドラゴン6年生も一緒に突入した方が良いのでは?」
そんなヴリトラにムサシが微笑む。
「全員で突入するには、ちと手狭でござる。まあ、ルシファー学園の教師を信じて見ているでござるよ」
ニッコリと微笑むむと、ムサシはエウリュアレと視線を交わし、教室へと飛び込んでいった。
「ムサシ先生!」
ヴリトラが慌てて教室を覗き込む。
少しでもムサシが苦戦する様だったら、自分達も突入するつもりで。
しかしヴリトラが目にしたのは。
「さ、次の教室に向かうでござる」
余裕の笑顔で振り返るムサシと、真っ二つになった人工勇者の姿だった。
「す、凄い。あの一瞬で人工勇者を斬り倒すとは!」
呆然と呟くヴリトラだったが、直ぐに教室のドラゴン達に声をかける。
「皆、無事か?」
「ヴリトラ様! ドラゴン教室5年生全員、戦闘態勢は整っています」
5年生代表らしき生徒がヴリトラに報告してきた。
「よし、次行くよ!」
ギムレットが再び駆け出し、そしてムサシが扉を開けると同時に勝負は終わっていった。
こうして4年生、3年生、2年生、1年生とドラゴン族の教室を取り戻した結果。
ドラゴンの生徒250人と教師5人が新たに戦力に加わったのだった。
「これなら、ムサシ先生なら1人で全教室を解放できるんじゃないか?」
そんな呑気な感想を口にする知也だったが、その直後。凄まじい殺気が叩き付けてきた。
『な!』
全員が殺気の方向へと視線を向けてみると、そこには1人の人工勇者の姿があった。しかし。
「コイツは先ほどまでの人工勇者とは桁違いでござるな」
ムサシが警戒心を露わにしながら、刀を抜き放った。
「こやつは強敵でござるぞ」
「でも勝てない相手じゃないよね」
ムサシの緊張を含んだ言葉に、ギムレットはドラゴン達にチラリと視線を走らせると、余裕でそう言い放つ。
何しろルシファー学園に入学できるドラゴン族は、ドラゴン・ホールで100倍の力を得た者のみ。
つまりステータスは赤文字で100と表示される者だ。
たとえ100分の1に力を封印されていても、そのステータスは赤文字の1。
そしてルシファー学園での訓練で、遥かに強くなっている。
対して人工勇者は1万人分の生命力を得ているが、そのステータスを表示したなら、せいぜい黒文字で10000程度だろう。
つまりステータスでは圧倒的に、ドラゴン族は人工勇者を上回っている。
そう判断してギムレットは命令を下した。
「全ドラゴン、かかれ!」
「ま、待つでござる!」
ムサシが焦った声を上げるが、その時は既に、ドラゴン族300人は人工勇者へと襲いかかった後だった。
たかが人間1人に、地上最強生物と言われたドラゴン300。
絶対に負ける筈などない戦いだったが、ギムレットは大事な事を忘れていた。
なぜたった1人の人間に、教室が制圧されたかを。
バシバシバシバシバシバシバシバシ!
「そ、そんな……」
その名の通り、まるで暴風が吹き荒れるように暴れ回るムチにより、一瞬でドラゴン族300名は打ち倒されてしまう。
思いもしなかった結果に、ギムレットは言葉を失って、立ち尽くす事しか出来なかった。
2020 オオネ サクヤ Ⓒ




