第十七話 この究極の恐怖に耐えられる?
ミシリ、と床が軋ませて知也はフーデンの前に立った。
それだけで。
「うぅぅぅ」
フーデンは冷や汗を流し始めた。顔色も悪くなり、体も微かに震えだす。
「どう。ボクの質問に答える気になった?」
ギムレットが尋問を始めるが、フーデンは歯を食いしばって答えない。
「ふーん。トモヤ、1歩前に出て」
「あ? ああ」
ギムレットに言われた通り、知也は1歩前に出た。
するとフーデンの顔からはボタボタと冷や汗が滴り落ち、顔色は真っ青になり、体が小刻みに震えだす。
が、それでもフーデンは口を割らなかった。
「ふうん。それじゃあトモヤ。しゃがみ込んでフーデンの目を見て。さあ、この究極の恐怖に耐えられる?」
ギムレットに悪意がないのは分かる。
しかし、分かるからこそ何となく面白くない。
が、それでも知也はギムレットに言われた通りにした。
「ひ! ひ! ひ! ひ!」
フーデンの口から断続的に小さな悲鳴が漏れ、滝のように冷や汗が流れ落ち、顔色は死人と同じになり、熱病で死ぬ寸前の患者のようにガクガクと震えだした。
「やめてくれ……助けて……」
「ふ。さすが恐怖を超えた恐怖の顔。心をへし折ったようね」
「む」
ほくそ笑むギムレットに、知也が不満そうな顔になると。
「わひぃいいいいい!」
何かカン違いしたらしく、フーデンが悲鳴を上げながらギムレットの足にしがみ付いた。
「言う! 言うから! 何でも喋るから、た、助けてくれ!」
「ふん。始めから素直にそうしていれば、死んだほうがマシなほどの恐怖を味わわなくて済んだのに」 「死んだほうがマシって……」
ギムレットの追い討ちに、知也は更に不満顔になるが。
「じゃあ、話して。全てをね」
ギムレットに言われて喋り出したフーデンの話に、知也は不満を忘れてしまったのだった。
フーデンの正体は人間界で1番の人口、39億人をほこるミドラス神聖帝国のスパイだった。
ミドラス神聖帝国は人口こそ世界一だが、国民を奴隷のように扱って、王家と1部の貴族だけが裕福に暮らしている独裁国だ。
10年前、魔王軍に敗れた世界最大の軍事国家でもあるが、世界征服の野望を全く諦めるつもりはなく、今でも軍備拡張に躍起になっている。
かつて鬼によって軍隊を壊滅させられたミドラス神聖帝国は、鬼に勝つ方法を必死に研究していたのだが、ある偶然から仙人界への扉を開く事に成功し、仙界の技術を手に入れる為に1億人の特攻兵士を送り込んだ。
特攻兵士とは生き残る事を全く考えず、敵との相打ちだけを狙ってひたすら突進するという恐怖の兵だ。もちろんそんな戦法がとれるのは、洗脳されて人格を失っているからだが。
仙人は仙器と呼ばれる強力は武器を持っている。
仙人がその修行によって得た霊力を込める事によって、仙器は絶大な威力を発揮する。
しかし仙人へと進化出来る人間など、ごく僅か。当然、仙人の人口は少ない。
それゆえ仙人界は強力な仙器を持ちながらも、地を埋め尽くす特攻兵士の圧倒的人海戦術の前に敗北し、ミドラス神聖帝国に仙器も、そしてその技術も奪われてしまう。
ところで。
仙器は元々修行を重ねた仙人だけが使えるモノだ。
言い換えれば、仙人以外の者に使いこなせる代物ではない。
なので技術を奪ったものの、結局ミドラス神聖帝が開発できたのは、高速で敵を撃ち倒すムチ=暴風鞭と、敵を撃ち抜く焔の短槍を打ち出す武器=火仙槍の2つだけだった。
2つだけとはいえ暴風鞭と火仙槍という強力な武器を手に入れたが、それでもミドラス神聖帝国にとって、魔王軍の戦士養成学校であるルシファー学園の存在は脅威。
そこでスパイを送り込み、壊滅させる工作を行っていたのだが、今回の侵略の理由はもう1つ。
歴史上、絶大な富と権力を得た者の望む事は、不老不死に行きつく。
ミドラス神聖帝国の皇帝も、それは同じだった。
そして、食べた者に不老不死をもたらすと伝説にある龍樹の存在に気付いて血眼になって探し回っていたところ、ルシファー学園のどこかにあるらしいとの情報を得、今回の侵略作戦に踏み切ったらしい。
「つまりミドラスの目的は龍樹を手に入れる事と、ルシファー学園の壊滅ってことだね」
ギムレットが確認してみると。
「違う。最初に生徒を操り兵に変えるというのが、ミドラス神聖帝国の計画だ。その後、我々の操り人形と化した生徒達を使って龍樹を探し出すともりだった」
フーデンは、壊れた人形のような表情で答えた。
あまりの恐怖体験に思考能力が一時停止を起こしてしまったらしい。
「フーデン、操り兵にするって具体的にどうやるの?」
「まずは薬を使って思考能力を奪う。その後、呪術的な手術を施して脳に遠隔操作の呪符を埋め込んで、術師の操り人形にするのだ」
「それは教室で出来る事なの?」
「いや、そんな高度な改造が出来る符術者など、いくらミドラス神聖帝国といえども数人しかいない。ルシファー学園を完全に掌握し、安全を確保した時、本国から符術師がやって来る手筈になってる」 「それなら生徒達の事は当面、心配しなくてイイってコトだね」
ギムレットがホッとした表情を見せてから、更に尋問を続ける。
「ミドラス兵は全員、暴風鞭と火仙槍を使いこなせるの?」
「もちろんだ。ただ、霊力など持っていないから、生命力を霊力の代わりに消費して使用している」 「聞いた!?」
ギムレットが目を輝かせて振り返った。
「長期戦に持ち込めば仙器に生命力を食われて、勝手に自滅せてくれるかも!」
そんなギムレットにフーデンが淡々と告げる。
「今ルシファー学園を攻めている兵は、5000万人の兵士が5000人になるまで蠱毒の洞窟で殺し合いをさせて創り出した呪術兵。1人当たり1万人分の生命力を得ている計算になるから、少しくらいの戦いではビクともしない」
「ち! 1万人分の生命力となると、強さもかなりのモノね」
「人工的につくりだした勇者レベルの兵士、人工勇者だ」
「人工勇者……」
ギムレットの顔が曇る。
人間は魔族と比べて貧弱な肉体しか持たない。
しかし時に、最強生物と言われたドラゴンを倒すほどの人間が現れる。
その驚異的戦闘能力を持つ人間は、勇者と呼ばれている。
「今回の侵略の戦力は、暴風鞭と火仙槍で武装した人工勇者が5000人。そういう事?」
「そうだ。ルシファー学園にある全教室、3000を制圧するのに3000人。そしてルシファー学園全体に、力を100分の1に低下させる封印結界を守るのに2000人。計5000人だ」
「指揮官はどこ?」
ギムレットの目が鋭くなる。
軍隊を相手にする場合、指令系統を叩くのが1番手っ取り早い。が、フーデンは首を横に振った。
「そこまでは知らされていない。5か所が候補となっていたが、臨機応変に対応する計画だったから、実際には不明だ」
「その5か所ってどこ?」
「理事長室、図書館、職員室、武器庫、管理室だ」
フーデンの答えを聞くなりギムレットはキャスに振り返る。
水晶版で見てみろ、と目で語るギムレットにキャスは首を横に振る。
「ムリ。図書館以外、風紀委員が監視する対象になっていないわ」
当然だ。生徒である風紀委員に、理事長室や職員室を監視する権限などあるワケがない。
「ふう。とりあえず現状は理解出来たみたいだね。じゃあ、今度はこちらの戦力の確認だね。キャス、今隊員は何人いるの?」
ギムレットの言葉にキャスは粛清部隊の生徒を整列させる。
「粛清部隊50名中、今ここにいるのは30名よ」
続いてギムレットはヴリトラに目をやった。
「ドラゴン教室6年生、50名だ」
「そして世界最強の剣士、ムサシ先生と格闘コース1年1組、それに……」
ギムレットはそう言いながらミサキに視線を向けるが。
「あ、植物園のガードシステムは役に立たないわよ。植物園の中でしか魔力が供給されないシステムだから。でも植物園事自体はルシファー学園で最強の要塞よ。大切な龍樹を守る為のモノだから。あ! ちなみにアタシの役目は龍樹を守る事だから戦力に入れないでね」
アッサリとそう言うミサキに一瞬だけ不満そうな表情を見せたものの、直ぐにギムレットはフーデンに確認する。
「人工勇者は符術者の到着を、教室で待ってるの?」
「薬で思考能力を奪ってからルシファー学園の闘技場に全生徒を集め、頭に符を埋め込んで操り兵に改造する計画だ」
ギムレットのフーデンの説明を聞いて考え込んだ後。
「ミンナ聞いて」
全員に計画の説明を始めたのだった。
2020 オオネ サクヤ Ⓒ




