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第十五話  これから一日中、一緒


                 

「トモヤ」

     

 ミウに知也が告白した、次の日の朝。

     

 教室へ向かおうと、特別寮の部屋から出てきた知也に、いきなりエウリュアレが抱きついてきた。

     

「エ、エウリュアレ?」     

「ワタシはもう格闘コース1年1組の生徒。これから1日中、一緒」

     

 そんなエウリュアレを、ミユはキッと一睨みすると。

     

「トモヤ様、ミユは急用を思い出しました。先に教室に向かってください」

     

 それだけ言って、どこかへ走り去ってしまった。

     

「どうしたんだろ?」

     

 ミユを見送る知也の手をエウリュアレが引っ張る。

     

「邪魔者は消えた。さあイチャイチャする」

     

 エウリュアレも究極的美少女だ。悪い気はしないが。

     

「いや、まずは教室に行こうよ」

     

 知也は必死に理性を振り絞ってそう言うと、エウリュアレと別れて格闘コース1年1組の教室へと向かった。

     

 しかし。

     

「ええ、あーその、ごほん。今日から格闘コース1年1組に通う事になったエウリュアレさんとミユさんでござる」

     

 この日の朝1番。

 教室に入って来たムサシの第一声に、知也はひっくり返りそうになったのだった。

     

「ミユです。よろしくお願いします」

     

 ミユの挨拶はシンプルだったが、それだけで教室が一気にざわめく。

     

「か、可愛い!」     

「可憐だ!」     

「やた!」     

「でも、あの角は?」     

「ひょっとして……鬼」     

「鬼でもイイ!」     

「ぜひ俺の隣の席に!」

     

 大騒ぎの中、ミユが爆弾投下。

     

「あ、私はトモヤ様に身も心も捧げていますので、トモヤ様の隣に座らせていただきます」     

「ええ!?」     

「ト、トモヤ!?」     

「そ、そんな……」     

「もう鬼の毒牙に……」     

「うう、チクショウ……」     

「お、おれに力があれば救い出せるのに……」     

「うう、オレは無力だ……」     

「身も心も……身の心も……身も……身も……」

     

 たちまち教室中の男子生徒が悲壮な声を漏らす中、ミユは勝手に知也の隣の席に腰かけてしまった。

     

『ううぅぅぅぅ』

     

 男子生徒が悔し涙に暮れる中。

     

「……エウリュアレ」

     

 エウリュアレが一言、自分の名を口にした。

      

 今のエウリュアレは人間バージョン。当然。

     

「うおおおおおお!」     

「何と美しい」     

「無口なトコもイイ!」     

「無表情なところもな!」     

「ほ、惚れた!」     

「お、おれとゼヒ!」     

「と、隣にどうぞ!」

     

 懲りもせず、またもや大騒ぎを始める男子生徒達。

     

 が。


「ワタシが好きなのはトモヤだけ」

     

 それだけ口にして、エウリュアレも、さっさと知也の隣の席に座ってしまった。

     

「ま、まさか美少女2人共……」     

「そ、そんな理不尽な……」     

「こんなコトがあっていいのか……」     

「神よ、彼女たちを救いたまえ……」     

「誰か根性を見せろよ」     

「そんな恐ろしいコトが出来るか! 言い出しっぺがやれよ」     

「オレに死ねと言うのか!?」     

「……泣くなよ……」

     

 そんな男子生徒を見る、女子生徒の目は氷のように冷たかった。

     

「バカじゃないの」     

「あほ」     

「かす」    

「サル」     

「見っともない」     

「最低」

     

 そこにムサシが苦笑しながら声を上げる。

     

「本日の授業は前回の続きでござるが、教室ではなく植物園で行うでござる。さあ皆、転移の魔方陣に移動するでござるよ」






     

 こうして転送した先にあったのは氷山を思わせる巨大な建物だった。

 壁はクリスタルのように透明で、高さは3キロを超えているだろう。

     

「皆、驚いた様でござるな。さあ、入るでござる」

     

 ムサシの案内で、植物園の入り口に到着するとそこには。

     

「よく来たわね、ミンナ。アタシが植物園の責任者、ミサキよ」

     

 派手な美女が仁王立ちで待っていた。

     

 真っ赤なジャケットの下に真っ白なシャツを身に付けているが、その胸元が大きく開いていて、見事なボリュームの胸の谷間が覗いている。

 キュッと引き締まったウエスト、ミニスカートからスラリと伸びた綺麗な脚。

     

 そんな美し過ぎる教師の出現に、男子生徒達は大騒ぎを始める。

     

「ミ、ミサキせんせぇ~~」     

「ホ、惚れた~~」     

「やったー」     

「ルシファー学園に入学して良かった……」

     

 が、そんな男子生徒を見る女子生徒の目は氷よりも冷たい。

     

「バッカじゃない!!」     

「あほ!!」     

「かす!!」     

「サル!!」     

「見っっともない!!」     

「超最ッ低!!」

     

「ハイハイ、静粛に~~。植物の授業をムサシ先生から受けたと思うけど、実物を知っているのと知らないのとでは天と地の差よ。だから、今日は食べられる植物、薬草、毒草をしっかり見て覚えてね」

     

 大騒ぎする男子生徒には慣れているのか、ミサキはパンパンと手を叩くと、植物園へと全員を招き入れる。

     

 知也は最初、植物園の壁をクリスタルみたいだと思ったが、近くで見てみると驚くほど透明度が高い金属で出来ているようだった。

     

 そんな知也に気付いて、ミサキがニヤリと笑う。

     

「この建物は全てクリアスチール製なの。レベル10のフレアにだって耐えられるし、ドラゴンの体当たりにだって傷一つ付かないわ。キミ、目が高いわよぉ」

     

 どうやら知也が植物園に興味を持ったコトに気を良くしたらしく、ミサキは上機嫌で説明を始めた。

     

「ここは、ルシファー学園で使う全ての野菜やハーブやスパイスや果物、薬に使用する薬草や毒草、酒やジュースの原料を生産しているの。あ、そうそう。酒やジュースを作るのもここよ。世界中の約96パーセントの植物がここにあるわ。特に貴重なモノは、100パーセント栽培に成功してるわよ。幾つもの区画に分けて魔法で温度管理をしながらね。で、植物園がここまで巨大なワケが、あれよ!」

     

 マシンガンのように説明するミサキが、誇らしげに前方を指差す。

 そこには、植物園の頂上近くまで伸びた巨大な木が立っていた。

     

「こ、これは……ラピュ……」

     

 名作アニメに出てくる、天空の城の中心にある木を思い出して、そう呟いた知也に、ミサキが得意そうに口を開く。

     

「龍樹よ」

     

 ミサキがそう口にした途端、ミユやエウリュアレを含めた全生徒が息を飲んだところを見ると、この竜樹というモノは有名なのだろう。

 しかし日本で生まれ育った知也が知っているハズもない。

     

(聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、っていうし、ここは素直に聞いてみるか)     

「龍樹……って何ですか?」

     

 知也の質問に、ミサキは嬉しそうに答える。

     

「地下深くに根を下ろし、星の生命力が凝縮した奇跡の果実を、2000年に1度実らせるという伝説の木よ。龍樹を護る為に、ここはクリアスチールなんてとんでもない金属で造られているの。世界の秘宝を護る為にね」

      

 ミサキが胸を張ったところでムサシが声を上げた。

     

「さあ、残念ながら授業の時間はここで終わりでござる。では1度、教室に戻るでござる」     

「ええ~~、もっと説明させてよ~~。あんまり人が来ないから、めったに自慢出来るチャンスがないのよ~~」     

「教師が駄々をこねてどうするでござる」     

「せめて、そこの大きい鬼くんだけでも置いていってよ。ね、イイでしょ?」     

「そんな勝手、出来る訳がないでござる。ユイコ殿の耳に入ったら、折檻されてしまうでござるが、それでも良いでござるか?」     

「はう! ち、しょうがないわね。鬼くん、名前は?」

     

 引き留めるのを諦めたミサキがト,ト、ト、と知也に駆け寄る。

     

「お、俺ですか? 松本知也といいます」     

「ともやクンか。お姉さん、気に入っちゃったわ。いつでも来てね」

     

 そう言うなりミサキは知也の首に手を回して引き寄せる。

     

「ミ、ミサキ先生!?」

     

 焦る知也の唇に。

     

 チュ。

     

 ミサキが素早く唇を重ねた。

     

「ああああ!」

     

 これはミユの声。

     

「む」

     

 これはエウリュアレの声。

     

「教師のクセに何してんだよ!!!」

     

 この1番大きい声の主はギムレット。

     

「さっさと離れろ!」     

「トモヤ様!」     

「こっち」

         

 怒鳴るギムレットと一緒になって、ミユとリュアレがミサキを引き剥がすが。

     

「何よ。先生に対して乱暴ねぇ」

     

 もう1度知也に抱き付いてキスしようとするミサキに、ギムレットがキレた。

     

「こんのクソ教師~~! キャス! ヴリトラ! ヴァンパイア族の姫として命令する! 手下を引き連れて植物園に来い!」

     

 ギムレットが口にした『ヴァンパイア族の姫として』という言葉は、魔王軍の幹部としての命令を意味する。

 そしてルシファー学園が魔王軍の管轄である以上、この命令は絶対だ。

     

 だからギムレットの強制思考介入を受けたキャスとヴリトラは魔王軍の責務を果たさんと、それぞれ粛清部隊とドラゴン教室6年の生徒を率いて、直ぐに植物園へと駆け付けてきたのだった。

     

「何事よ!」     

「何が起きた!」

      

 大声を出すキャスとヴリトラに、ギムレットがミサキを指差して怒鳴る。

     

「このバカ教師を、学園内の風紀を乱した罪で取り押さえろ!」     

『はぁ?』

     

 ギムレットの命令に、キャスとヴリトラが声を揃えて顔を見合わせる。

     

 ルシファー学園の教師と生徒の関係は、魔王軍の教官と訓練兵。

 つまり教師は、生徒という新人兵をシゴキまくる鬼軍曹みたいなモノ。

 新兵が鬼軍曹に逆らえるワケがない。

     

「ふう、これだからお子ちゃまは困るのよねぇ。ちょっとキスしただけじゃない」

     

 ミサキは大げさに溜め息をついてみせると、知也の首にもう1度、手を回そうとするが。

     

「ダメです」     

「あっちいけ」

     

 ミユとエウリュアレが知也の前で邪魔をする。

     

「……こんなコトでヴァンパイア族の姫として命令されちゃ、困るんですけど」

     

 遠慮がちに苦言を呈するキャスに、ギムレットが怒鳴った。

     

「こんなコト!? 重大な規則違反でしょ!」     

「いや、そんな規則ないし」

     

 大騒ぎするギムレットにキャスが呆れた声を上げた、その時。

     

 ピキィン!

     

 とてつもなく巨大な何かがルシファー学園全体を包んだのだった。




2020 オオネ サクヤ Ⓒ

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