第十二話 勇者クラス
少し短いかもです。すみません。
魔王が存在する。このことを世間に公表した時、政府は対になると言っても過言ではない情報を公表せず、最大限に利用することを決断した。
そう、魔王と対になる存在、勇者だ。
この世界が侵食され多くの人々が何も分からないまま死んでいった時、一際盛り上がる学生達がいた。全世界で七つの教室、それこそが魔王を攻略する為に力を授けられたクラス丸ごと勇者だった。三十人のクラスが七つ、つまり総勢二百十人の勇者が世界に誕生するはずだった。誕生した勇者の数は二百十人、しかし七つの教室の内、日本の埼玉県のある高校の教室では落ちこぼれの劣等生が誕生していた。
彼の名は天塚 瞳也。
勇者の能力を横取りされ、得たジョブは『旅人』。武蔵第六天神社を管理する家の落ちこぼれの兄であった。
その少年は力を持たずして今、魔王攻略の為赤黒い空の下にいた。
決して人道的とは言えない、一国の命運をたった三十人の高校生に全て丸投げしたこと。それは世間に公表されず秘密裏に行われていることだ。
勇者一人に付き魔王一体と言った二次創作のお決まりを知らない者などいないであろう。いたとしたらその人は人生の三割を損していると言っても過言ではない。この俺、天塚瞳也もそんな主人公に憧れた少年の一人だからだ。
だから今の状況は面白くない、どうせなら俺の知らない所でやって欲しかった。
「大丈夫か瞳也? あまり顔色が良くないぞ」
心配したクラスメイトが声をかけてくる。高校一年生の十月、まだ完全に仲良しグループというものは出来上がっていなかったが、この一件でクラスメイト達とのあいだに壁を感じるようになってしまった。
「大丈夫、心配させてごめんな。戦闘も任せっきりだし」
しまった、一言多かったな。
「まだそんなこと気にしてたのか、戦闘は任せろ! もしもの時は一人で逃げてくれよ」
そう言い残し先頭の方に走っていった。
ジョブ『旅人』の能力は一度行ったことのある場所に行けることだ。しかし頭に刻み込まれた、簡単に言うといつも行っている場所とかに瞬間移動出来るのだ。
しかしそれだけ、どれだけレベルを上げようともスキルが増えないことはAEWで判明している。
俺も人並みにはプレイしたからな。
そんなこの世界を少しは知っている俺から勇者達の性能を判断してみた。結果は当然というかなんというか、完璧だった。
なんと言っても圧倒的な二つのスキルがある。
一つは『擬似聖剣』『擬似聖杖』『擬似聖盾』。この三つの内の一つを勇者達は持っている。能力はどんな武器でも聖なる最上級の唯一の武器に変えること。即ちゲームの中の聖剣レベルの武器を二十九人が持っているのだ。まさに敵なしであろう。
もう一つは『主人公補正』。これは俺も持っているスキルだ。このスキルの能力は、自分のステータスより敵のステータスが高い時に発動する。敵より劣っているステータスを敵のステータスまで引き上げるパッシブスキルだ。
つまり、純粋な数字だけでは絶対に負けることはないという事だ。
そんな彼らが巨額の富を約束に魔王攻略を言い渡された。その挑戦は順調もいい所、まさに敵無し。遂に変貌した自宅にたどり着いた。本殿は何倍にも拡大し、鳥居の前には門番のようにモンスターが配置されている。
父親と母親はもう無事では無いだろう。出来のいい跡取りであった弟は無事だということは判明している。『無事、探すな』というメールを一通残し行方不明だ。
心配かと言われると心配と答えるしかないが実のところほとんど心配はしていない。彼の方がこのゲームのことを知り尽くしているはずだからだ。
なぜなら彼は……
「遂に本殿前だ! みんな行くぞ!」
負けることはないと分かってはいても流石に恐怖は感じるようだ。それもそのはず、門番はAEWの中でも難関ダンジョンのボスとして配置されていた酒呑童子だ。ゲームを知っている人ならば酒呑童子の強さを耳が痛くなるほど聞いただろう。それほどの強敵に対峙したのは初めてだ。
初めての命懸けの戦闘が始まろうとしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「また全然いないな」
この前のホームスーパーの時と同様に敵の数がありえないほど少なかった。先客がいるのだろうか。
「楽なことに越したことはないか」
敵が侍型のモンスターであった為、刀の素材が多くドロップした。ちまちまと敵を倒し何とか一本作れる分の素材は集まった。よって今は一本の日本刀を装備している。
「ちっ! またか」
どうやら先客のペースは俺よりも早いらしい。背後にモンスターがポップすることが多くなった。気づくのが遅れただけで命取りになるので中々厄介だ。
「魔王の敵って割には弱いな」
魔王攻略と意気込んでいたものの大した強さではない。
ピロン! レベルが三十に上がった事が画面に表示されている。えっと、なになに
スキル『吸血鬼化』が追加されました!
効果を見ようとしてタップしようとすると、それを遮るように轟音が前方から響き渡った。大きな土煙が上がりここからでも目視出来た。
「行ってみるか」
スキルを読むことを後回しにし約三百メートル先の土煙に向かって駆け出した。
天塚瞳也!




