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第十話 ホームスーパー

お久しぶりです!

 見慣れた通学路、ほんの二週間前まで毎日のように通ってきた道だ。昼間なのにも関わらず人気は全くと言っていいほどない。万が一の為、ほとんど家から出ないようにしているのが普通だろう。

「案の定やってねぇか……」

 いつものスーパーにしっかりと無期限運休の張り紙が貼られている。

 ダンジョン化していないだけましな方だろう。


「初級レベルのダンジョンか」

 有名な近所のホームスーパーが当時の面影を微かに残したままダンジョン化していた。

「君! そこで何をしている? 危ないじゃないか」

 ダンジョンの入口前に門番のように立っているのは自衛隊か、警察か、見た感じでは分からないな。

「……」

 確かに変な事をしている奴はいる、しかし警備員が見ている方向とは別の方向だ。

「君しかいないだろう? こんなとこで何してるんだって聞いたんだ。何も無いなら家に帰りなさい」


 聞こえてないと思ったのか近づいてくる。

「聞こえてる?」

「いや、俺よりあいつに言ってるのかと」

 警備員が入口から離れた事を好機だと判断したのか、入口に向かって全力疾走する影があった。


「何してる!? 入ったらだめだ!!」

 警備員が叫ぶも虚しく、少年は一瞥してダンジョンへと飛び込んだ。

「初級レベルってもあれじゃ死んでもおかしくないぞ!」

 慌てて俺もダンジョンに入ろうとする。

「君まで何しようとしてるんだ! ここで待ってるか家に帰りなさい、私には拳銃もある。少年の事は任せて帰りなさい」

 そう言って急いで中へと走っていった。

「はぁ、行くか」

 無関係でも、命ぐらいを掛けて助けられるなら助けるという選択を簡単に取ってしまうという難儀この上ない性分なのだ。自覚があっても、ここで見捨てる、他人に任せるという選択を取れないのだ。

 鞄から包丁を取り出し後を追った。


 双剣と呼ぶにはあまりに不格好な料理用の包丁を両手に構えダンジョンに入った。

 血、床には多くの血とボロボロに破けた衣類と骨の残骸が転がっている。ダンジョン化した時に店内にいた人達のものだろう。

「初級レベルで間違いはなさそうか」

 二階建てのホームスーパーの構造にそってダンジョンは作られているため迷うこともない。先行した警備員が倒してしまったのか敵も現れない。

 パン!パン! 突如銃声が鳴り響いた。この階にまだいるようだ。


 日用品コーナーをダッシュで駆け抜ける、角を曲がったところで不意に足が止まる。

「ゴブリンか、よく見るとほんとにきめぇ顔してやがんな」

 三匹一組で行動する雑魚モンスター筆頭だとしても決して油断は出来ない。ライフは高いが防御が低い、ほかの人のステータスと比べないと分からないが高性能では無さそうだ。

「さぁ初陣だ、はりきっていくぜぇ!」


 ポキ、…………おっかしぃーなー

「やっちまったな」

 ゴブリンの槍を斬った時の衝撃で根本からポッキリ折れていた。しかし、それは片方のみ、左手に持った包丁の刃先は首筋をしっかりと捉えていた。

「武器生成!」

 折れた包丁を材料に新たな剣を作る。二本を一本にまとめ強度を上げる、一撃で折れることは無いはず……そうであってくれ……

「行くぞ!」

 突き出された槍を横に体を捻り避ける。狭い通路は相手に味方をしているが、それでも避けることは造作もないことだ。

「全く、俺は何をビビってたんだか」

 現実と混濁して当たり前の死の感覚が無くなっていた上での戦いは普通じゃない、死と隣り合わせのこの状態が普通だった。全員が同じなら自分がビビって怖気づいている訳にはいかない。


 もう後悔はしたくない、誰かに代わりに辛い思いを背負って貰うのは許されない。あいつがやってくれたことを、あいつの代わりに過ごしていることを忘れないためにも。


 槍を切りそのまま首筋を狩る、もう一体も冷静に始末した。

 そして死体が消滅した時のエフェクトを背に走り出した。一人の少年、一人の警備員を助けるために。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 数分前、一人の少年がダンジョンに飛び込んだのと同時刻、同じダンジョン内にもう一人の人間がいた。

「近所でちまちま稼ぐのも飽きてきたな、さてどおすっかな」

 極々普通の少年とは言い難い、金髪にピアス、その割には整ったいいとこ育ちの顔付き。

「レベルは二十か、全く効率悪いぜ」

 ゲームの時はもうちょい早かったぞ、とため息混じりに呟き、初級レベルのダンジョンに登場する経験値モンスターに剣を突き刺した。ポップするタイミングは不特定だが場所は決まっている雑魚モンスターだ。

「誰か入ってきたか」

 彼は手馴れた手つきで剣を鞘にしまう、すると業物の覇気を纏っていた剣は初期装備のみすぼらしい剣へと姿を変えた。

「裏のやつが勇者でいいのかねえ?」

 family 人類 job 聖剣使い

 いかにも勇者といった表示だがジョブが聖剣使いとなっているため勇者とは断言できない。

「政府だったらめんどくさいか」

 そう言って目の前のボス部屋の扉を開け中へと姿を消した。

 数分後、ちょうど凰雅が二人と合流した時、ホームスーパーの前に突如その少年は姿を現した。

「ギルメンに連絡とるか」

 残っていたギルドのメンバー表をタップしながら路地へ歩いていった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ぼ、僕が倒すんだ」

 炎の玉を手の平に浮かべ、今にも泣きそうな顔でゴブリンに突っ込んでいく。

 その時、銃声が響き彼の右手を銃弾が貫いた。



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