#6 甘酸っぱい心は熱を帯びて
春。それは別れと出会いの季節。
悲しい別れとときめく出会いが同居する季節。
窓の外を見ると大きく広がる青空。久しぶりの暖かい陽気に俺は眠たい目をこすっていた。
4月から俺は高校3年生になる。卒業後の進路とか考えないといけないのはもちろんだが、俺は残された青春のひとときを謳歌したかった。しかし、俺が今、お付き合いをしている優紀さんはまたイギリスへ行ったきり帰ってこない。本人いわく「本場で英会話の勉強がしたい」なのだそうだ。
そんなことに非常にやきもきしつつ俺はベットの上でマンガを読んでいた。
プルルル……!
机に無造作に置いた携帯が鳴り響く。
誰だろうと思い出てみる。
「あ……。私私。分かる?」
いや、そう言われても分かる訳がない。その時、俺は冷静にそう判断した。
「いや、私と言われてもわかりませんよ。誰ですか?」
「あなたって本当に鈍感ね。そこは声で気づきなさいよ」
謎の突っ込みが俺に飛んでくる。その言葉でなんとなく誰かわかったような気がした。
「あっ……。もしかして橘梓さん?」
「そう。正解!ご名答。ちょっとさ今日私に付き合ってくれない?西緒海参道に男女二人で行くと3割引になるワッフルのお店があるの!私の友達みんな今日用事があるみたいで……。そこであなたに私の白羽の矢がたったの」
嬉々とした様子で彼女はそう言う。
西緒海参道。俺が暮らすここ緒海市の中でも抜群のオシャレスポットだ。江戸時代、お寺に参拝する人達を目当てにした店屋がたち始めたのがその起源らしいが、今ではオシャレでカジュアルな服屋やイケてる男子女子が馴染みにしているカフェなどが立ち並ぶ。余りにもオシャレな場所なので、俺にとっては無縁な場所でもあった。
「西緒海参道ですか。俺行くのがちょっと恥ずかしいです!」
「いや、なんで町に行くのに恥ずかしがってんのよ。自分に自信持ちなさいよ!午後2時に西緒海新幹線北口で待ってるからね。女の子を待たせたらダメだからね!」
そして電話は切れた。いや、おい急だなおい。優紀さんといい橘さんといいどうして俺の周りにいる女の子は強気の性格が多いのだろうか?まぁ、俺もそんな女の子が好きなのだけれども。
よし、オシャレな格好をしていこう。
久しぶりにジーパンを履こう。
お金も少し多めに持っていこう。
突然の誘いではあったが、どこかウキウキしている俺なのであった。