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TSして昔の声を取り戻したボクは女性シンガーの歌を熱唱したい!  作者: 武藤かんぬき
第二章

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49――最適化と格ゲー大会

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。


 案件配信の打ち合わせの前に、事務所が手配してくれたダンスの先生によるはじめてのレッスンがあった。


 学校でやってるダンスの授業って、『どうやって与えられたテーマを表現するか』みたいな部分に重きをおいていて、技術を上達させるというのとはまた違うんだなとレッスンを受けてみて強く思った。


 なんだかそんなエラそうな感想を言っているけど、学校のダンスの授業なんて何をやっていたかはほとんど覚えてないんだけどね。中学時代なんてちょうど声変わりで、何事に対してもやる気や興味が起きない時期だったし。ただ指示されたことをロボットみたいにやっていただけだった気がする。


 実際にレッスンで踊ってみて思ったのは、女子になってから色々と感覚的な部分で違いがあって、時々体が動かしにくいこともあったんだよね。でもそれからしばらくの時間が経って体が馴染んだのか、『男子だったころよりも上手に動けるようになっているかもしれないな』という確信じみたものを感じていた。


 単純に手足を上げたり下ろしたり、そういう単純な動作でも必要なエネルギーが少なくて済むというか、うまく説明できないけどより省エネなのに今まで通りの動きができる感じ。

 後日達也に相談してみたら、『デフラグみたいなものかもしれないな』とポツリと呟いていた。


 聞き慣れない言葉にきょとんと首を傾げていると、それがパソコン用語だと教えてくれた。難しい言葉がたくさん並んでいてよくわからなかったけど、最後に『簡単に言うと、データを整理整頓して読み込みを早くする作業だ』と言ってくれてなんとなくわかった気がした。


 つまり病院の検査では結果として表示されない体の動かしやすさとか力の入れ方とか、そういう細かい感覚の部分が最適化された結果なんじゃないかというのが達也の予想だ。感覚の話だからもしかしたら脳みそも女の子の体を動かしやすいようにとか、女の子っぽい考え方になるように調整されていたらと想像したら、ちょっとだけ背筋が寒くなった。


 でもまぁ、痛かったり苦しかったりするようなマイナス要因があるわけではないし。元の体に戻る可能性があっても、この大好きな声を失うような選択肢は絶対に選ばないのだから。

 これからも女子として生活していくんだし、ありがたい変化なのかもね。


 それはさておき、案件配信の評判も結構よくて僕の動画を観に来てくれる人もかなり増えた。彼らが期待しているのはあの配信の時みたいに、僕がワタワタと慌てたりしている姿を見ることらしく、アクションゲームのプレイ配信を増やしてみたらどうかとマネさんに提案された。


「そういうゲーム……に、苦手なんですけど」


「それがいいんじゃない!」


 僕の抵抗も虚しくマネさんの意見が通り、高速道路でレースをするゲーム配信とかやってみたよ。まさかブレーキのボタンを押せなくて、壁にぶつかって車が大破するなんて思わなかったけど、マネさんの狙いどおり受けはよかったみたい。


 僕が漏らす声が絶妙にえっちだったという先輩たちの感想を聞いて、めちゃくちゃ恥ずかしくなったんだよね。恥ずかしがっている僕が『かわいい、かわいい』とからかわれている間に、なんと有志の先輩たちがあっという間に運営さんに許可を取って、箱企画として格ゲー大会を企画する事態に。


 当然ながら格ゲーもまったく得意じゃない僕としては応援側に回りたかったんだけど、なんと最強と最弱を決める企画内容のために強制的にエントリーされてしまった。


「はい、はじまりました。突発企画、格ゲーで一番強いヤツと弱いヤツを決めろ! すとらい杯~!」


 画面上では司会進行を買って出た格闘ゲーム大好きVtuberの、1期生『志田みるき』先輩がテンション高くタイトルコールした後、グッと右手を突き上げていた。


 今日はスタジオからの配信なので、緑色の壁と床に囲まれた撮影セットの上に僕を含めた8人のVtuberがみるき先輩の声に答えて拍手したり声を上げたりしている。


 最強と最弱を決めるのにたった8人の参加者なのかと思う人もいるかもしれないけど、突発的に決まった企画だからスケジュール的に参加できるのがこのメンバーしかいなかったらしい。


 コメント:参加者8人の中で勝ち抜いても最強ではないだろw


 コメント:個人的には最弱が誰になるのかが気になる


 コメント:最年少のゆうひちゃんだろw


 うぅ、コメントでも最弱候補だって言われてる。小学生のころは達也とか真奈とゲームしていたけど、うまく自分のキャラを動かせないという弱点をそのころからずっと抱えているような気がする。反射神経がにぶいのかもしれない。


 プレイする人がそれぞれの椅子に座って、前に置かれた机の上の画面を見ながら戦うみたいだ。僕たち出番待ちの人たちは壁に掛けられた大きなスクリーンに映し出された映像を観ながら応援することになる。


「さて、それでは早速第1試合からはじめていきましょー! 組み合わせは配信前にくじ引きで決めましたが、なんと最初の試合から実力が拮抗しているふたりです!!」


 煽るように言いながら、対戦者の名前を告げる。なんとソレイユ先輩とアメリ先輩という同期対決だった。


「アメリとはたまにご飯に行った後で、ゲーセンで対戦する仲だからね。負けるわけにはいかない!」


「……マイコントローラーを持ち込むとか、気合入りすぎじゃない?」


「最強王になって、優勝商品の温泉ペア旅行にゆうひちゃんと行くんだから!」


 突然名前を呼ばれて、びっくりして思わず顔を上げる。温泉なんて、元男子高校生の僕が一緒に行くのは問題ある気がする。もちろん変な目で見る気はないけど、なんとなく罪悪感がジワリジワリと。


 おっと、僕のコメントを待つようにいつの間にかみなさんの視線がこっちに注がれていた。ただ僕にとってはどちらもお世話になっている先輩なので、どちらかを贔屓するようなことは言えないよね。


「ど、どちらも頑張ってください!」


 僕がそう言うと、ふたりは笑顔でグッとガッツポーズを見せてくれた。ただその後でソレイユさんのマイコントローラーは大会レギュレーションで没収されていたのだが。


 ソレイユさんがそういうズルをするとは思えないけど、コントローラーに細工をしてチートツールを使う悪い人もいるらしい。そういう疑いをかける視聴者もいるかもしれないということで、今回はみんな平等に運営さんが用意したコントローラーを使うルールになっているそうだ。


 高いレベルの攻防の結果、勝利はソレイユさんの手に届けられた。今回採用されている格ゲー『スーパーバウト アタッカーズ』はよくあるコマンド入力形式の格闘ゲームではなく、ボタンを組み合わせて押すことで技が出る。


 矢印の方向にレバーを動かしてコマンドを入れるゲームだと、残念だけど僕は基本技すら出せないぐらい下手っぴなのだ。でもこうしてパンチ・パンチ・パンチ・キックみたいにリズミカルにボタンを押すだけのゲームなら、それなりには操作できる。


 2回戦は僕と3期生の『カリーナ・キャンベル』先輩の試合だ。カリーナ先輩は女子高生の制服を身にまとった人族の女の子アバターで、ちょっとギャルっぽい喋り方をする。


「よろよろー、後輩ちゃんにも手加減しないからねー」


「よ、よろしくお願いします!」


 ギャルピースしながら宣戦布告してくるカリーナ先輩に、ゆうひちゃんのアバターが垂れ耳をぴょこぴょこ跳ねさせつつ挨拶をしているのが画面に映っている。このかわいい子の中身が本当に僕でいいのかなと配信するたびに思うのだけど、コメント欄も『がんばれー!』とか『参加することに意義がある!』とか僕への応援がいっぱいだからまぁいいかという気持ちになる。


 ん? 後者は応援なのだろうか、最初から負けると決めつけてない?


 勝てないかもしれないけど、せめていい試合を見せられるように。僕としては精一杯頑張ったつもりだったのだけど、結果はストレート負け。まぁ……なんだ、パーフェクトで負けなかっただけ良かったと思うことにしよう。

 そのまま負け残りして最弱王になってしまったのは、まぁ多くの人たちの想像通りの結果だったのではないだろうか。罰ゲームは公式番組のMCを1年間担当すること……あれ、これって知名度も上がるしご褒美なのでは?


 そんなわけでまったくもっていいところは見せられなかった格ゲー大会だけど、これまで絡みがなかった先輩とも挨拶やお話ができていいこともたくさんあった企画だった。

 ちなみに優勝したソレイユさんと一緒に一泊二日の温泉旅行に本当に行ってきたよ。無料招待はソレイユさんと僕だけだったんだけど、そこにアメリ先輩とかクラリス先輩も自腹で一緒についてきて、結構な大所帯になった。


 さすがにそれだけの人数がいるとお風呂に一緒に入っても、落ち着いて誰かの裸を観察するとかはできない。いやいや、元からそんなことするつもりはないんだけどね。

 ご飯もおいしかったし、のんびりリラックスして過ごすことができてよかった。学校がはじまったらこんな風に突発的な旅行にはなかなか出かけられないし、時間があるうちに今度は達也と真奈たちを誘って旅行にいきたいな。


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