汚れたヒタイ
『こちらマイヤーシティ所属治安維持軍第3分隊のグエスだ、そちらは無事か?』
ロイドが彼らに向かってビルの間を走り抜け、残り数ブロックというところで通信機から治安維持軍からのメッセージを受信したのか音を発した。
そしてその声と所属からロイドは彼らを自身の元同僚だった事を思い出しこちらからも通信を入れようと走りながら通信機のボタンを押した。
『無事です、ビルから脱出し終えた所です、8時の方角ガラス張りのビル前の救急車の側からそちらへ接近中です』
手短に伝えるとロイドは一度立ち止まった。
通信を切り腰のホルスターから銃を取り出し落ちていた壊れたドアミラーを足元に置き物陰から顔を出さずにドアミラー越しに彼らを確認した。
彼らの内数人は先程ロイドが言っていた救急車のそれぞれ両端に銃口を向け静かに待機していた。
他の数人は他の物陰等に銃口を合わせて不測の事態に備えてるようだ。
もちろんロイドは元同僚だと完全に信じたわけでは無く彼らに偽の情報を与えていた。
この世界でたとえ元知り合いだったとしてもそれは余所者となる、そして余所者と関わる上で最も必須なスキルはとことんそいつを疑う事である。
そもそも所属部隊なんて物は調べる事など容易いだろう。
軍の機密文書や紙幣に紙の書籍なんて物は今時火を起こす為に使われる道具でしか無い。
ゾンビにさえ気をつければどこからでも取りたい放題なのだ。
声も変えようと思えば簡単に変えられる事の出来る技術もある。
顔が全員隠されている為本当に本人なのか分からず、なりすましている可能性も捨てきれなかったロイドなりの判断である。
そしてAT05G3は声や体格、佇まいから彼らが本物である可能性は86%ですとロイドに伝え今来た道を引き返した。
ロイドは数ブロック引き返した後彼らに伝えた場所である救急車の影に向かった。
そして救急車の影に駆け足で入り込むと再度曇ったガラス越しに彼らを見た。
めざとくこちらに気が付いた1人がガラス越しのロイドの頭に銃口を向けた為慌ててロイドは声を上げた。
「うたないで!」
ロイドの声につられて他の隊員も銃口を向けてきた為ロイドは手を上げながら恐る恐る彼らの前に姿を表した。
「っ!…子供か?」
どうやら子供だとは思ってなかったらしき隊員が驚きの声を漏らした。
オートマトンの現役で活躍する事の出来る平均期間は10年、そしてAT05G3の身体が造られてから13年、人間に換算するとおばあちゃんと言える年に足を突っ込んでいた。
ちなみに最新のオートマトンが製造される為による現役からの引退の為や大破による消失を除けば、メンテナンスを欠かさずに運用すれば200年近くは行動が可能なカタログスペックをもっている。
200年前のオートマトンなぞ未だ存在した事はないが。
そしてそもそも古い機械を使い続けるほどのメリットが無かった為スペアのパーツなども新たに製造されないのである。
そしてロイドは言わずもがな40間近のおっさんだ。
何が言いたいかというと見た目は確かに15、6程の傷だらけの少女だが実際の身体はおばあちゃんだしそのおばあちゃんの身体を動かしている精神もおっさんな為ただひたすらに外見詐欺なのである。
「腕がねぇ…」
ロイドは今現在右手と左目を欠損している状況だった為初期にキャンプに閉じ込められた彼らにはそこまでの怪我は新鮮だったのか1人が呟いた。
「あ…これはちょっと噛まれちゃったので切り落としてもらったんです」
そしてロイドはあっけからんとした様子でAT05G3と先程来るまでに走ってる間決めた設定から抜粋して返答した。
役一年程をまさにシェルターの様な軍のキャンプ内を少しずつ隔壁ごとに解放し使用可能な部屋のゾンビを掃討する事で物資を集め生存してきた彼らはゾッとした。
食料庫には難民用の食料や飲み物がたっぷりあったし、飲めない汚れた水を綺麗にする濾過装置も食堂に存在していた為割と部屋を解放する以外は危険も無く、怪我する者もいなかった。
そしてこんな大人には到底見えない少女が腕を無くした事をとても軽く、まるで散歩に朝行った事を報告するかのように説明するのだ。
外の元々あった常識や倫理観なんて物は見つからず、少女を見ていると自身達と比べ外の世界はここまで残酷な世界になってしまっていたのかという事を実感させられた。
彼らの予想より遥かに世界は早く、そして色濃く崩壊へと向かって変化していた。
一見そう見えただけで割と前向きに楽しくこの世界を過ごしている人も存在しているのを流れの商人から聞いたこともあり、絶賛はぐれた仲間と思い出を新たに作る為行動しているロイドはゾンビ化する事が無いので割と楽しんでいる者筆頭である。
そんなロイドとAT05G3の事など梅雨知らず1人ビルに閉じ込められていたと判断した治安維持部隊の面々はロイドに脅威は無いと判断した。
「銃口をさげろ!だが周囲の警戒は怠るなよ!」
「「「はっ!」」」
「貴方がグエスさんですか?先程はありがとうございまし…!?」
魔改造されたパワードスーツを着た人物から先程無線機から聞こえてきた声が聞こえた為ロイドはお礼を言いながら彼らに近づこうと歩き出した途端側で異音が響いた。
まるで金属を叩いたような音だった。
そしてロイドが銃を構えるより先に異音の響いていた救急車の患者搬入用の後部ドアが歪みながら開いた。
そして飛び出してきたゾンビが自身に覆い被さるのを正確に細部まで機械の目は捉えた。
そしてロイドは飛びついてきたゾンビと共に衝撃を和らげる為後ろにゾンビと共に倒れ込み勢いそのまま回転しながら救急車から離れた。
数秒後救急車の後部ドアから次々とゾンビが五体飛び出し一匹はロイドに、残りの四体は治安維持部隊の面々に向かって走り出した。
「あぁもう!」
ロイドはどこか余裕のありそうな口調でゾンビからの噛みつきから逃げながらどう切り抜けようかと片手がない為ゾンビを殺しあぐねていた。
ちなみに襲ってきたゾンビもドアを開けた衝撃でか片腕がもげていた。
新鮮じゃないゾンビは意外と脆いのだ。
治安維持部隊の方から銃声が聞こえてきた。
「くそ!少女が!!このままでは撃てません!」
彼らの方に向かったゾンビ四体は倒されたようで隊員の1人の切羽詰まった声が聞こえてきた。
さてどうしようかとロイドは悩んだ、噛まれたり引っ掻かれたりしたら人間では無いのがバレてしまう、と。
『頭突きをするのはどうでしょうか、頭部のフレームは特別硬く造られている為一撃で腐った頭や劣化した頭骨なら砕けるでしょう』
AT05G3からの有難い助言を受け力一杯目の前にある汚ったない頭部目掛けロイドは頭突きをした。
前髪と額に腐ってつぶれた腐肉やら脳ミソ、凝固しかけている黒い血液がベッチャリとついたロイドは顔を思いっきり顰めた。
そしてナイフを腰から抜いたロイドはむかってきていた二体目のゾンビの首を刎ねると転がっていった生首の目にナイフを突き立てた。
ゾンビは首だけでも生きられるのである。
そして死ぬ程臭いニオイをAT05G3が気を使い鼻の機能を停止させてくれたおかげで行動に支障はほとんど出なかった。
一応ロイドはAT05G3に感謝の言葉をかけておいた。
『ありがとう、でももう少しスマートな汚れないやり方がよかった』
『他に方法はありませんよ』
ロイドは最悪とぶつぶつ言いながらバックから取り出したぼろぼろのタオルで汚れを拭き取り汚くなったタオルはその辺にポイっと捨てた。
誰も注意する人などいないのは崩壊してよかった事かなと見当違いな考えを巡らしながらロイドは治安維持部隊の面々に向かって歩いていくのだった。




