元軍属の2人
『で、これからどうしますか?』
窓は割れず部屋の外はゾンビで溢れており脱出は出来ず、部屋に立て篭もってから半日ほどが経過していた。
機械の身体故に飲み食いする必要が無く、差し当たって特に危機があるわけでも無い為この崩壊後の世界では珍しくゆっくりとした時間が流れていた。
『暇だしトラのコールドスリープ解除しない?開け方もわかったことだし』
『やめてください』
ロイドは暇すぎることに嫌気が差しトラのコールドスリープを解除しようと躍起になっていた。
あとはパスワードさえわかれば開けられるところまで来ていた。
パスワードはAT05G3であればサッと開けられるセキュリティだった。
なにせ100年前のプログラムである。
『ねぇエーティ、ちょっとハックするだけでいいから、ね、お願い』
『嫌です』
即答だった。
『そもそも解除してどうするんですか』
死んでなかった場合良くて襲ってくる、悪くてゾンビ化して襲ってくる事がありありとAT05G3の電子頭脳に訪れるであろう未来が正確にシュミレーションされた。
『その、外のゾンビを蹴散らさないかなって』
『不可能でしょうね、私達含め見境なく襲うと思います』
『そっか…でも!』
『でもでは無いです、まるで子供みたいですよ』
ロイドはチラチラと名残惜しそうにトラを見ていたが、エーティに子供みたいと言われ渋々引き下がった。
ここに閉じ込められてから半日、ロイドは拳銃をメンテナンスしたり使用したマガジンに弾を補充したりと片腕のぎこちなさはあれど暇を潰そうと努力していた。
他にも埃の詰まった本棚から本を取り出し読んでみたり窓の外を眺めたりとやれる事はやってみた。
本は専門書ばかりですぐに読むのをやめたし外を見ても空は曇りビルは一部が倒壊し、眼下にはゾンビが蠢きあっている光景しか見えなかったが。
つまりいつもの光景だった。
そして数分後しばらくぼーっと外を眺めていたロイドがビルの隙間を縫ってこちらに接近してくる何かを見つけた。
『ねぇ、あれって』
AT05G3はロイドに言われ眼のズーム機能を起動した。
そして拡大された視界に映ったのは生存者の集団だった。
『この都市の治安維持部隊の装備に見えますね、軍のキャンプ方向から来た事を考えるとゾンビの大群に閉じ込められていた人達でしょうか』
AT05G3は佇まいから軍属の何者かだと目星をつけ装備から治安維持部隊の一部だと予想した。
『生存者がいたんだ、10人くらいかな…それにパワードスーツ?を装備してる人もいるよ』
パワードスーツは車両用の装甲が溶接され首元や関節各所には厚い布が巻き付けられてあった。
そしてフルフェイスのヘルメットまで後付けされ魔改造されており原型はほとんど留めていなかった。
手にはパワードスーツ専用装備のガトリングをがっしりと待ち、まるで動く要塞だ。
他のパワードスーツを装備していない人々も各々治安維持部隊の装備に加え自身の肌が晒されないよう布やプロテクターで防護していた。
武器はリロードの必要ないエネルギー駆動の歩兵銃で揃えられていた。
まさにゾンビを蹴散らす為の装備だと物語っていた。
物資もカツカツで武器もなかったロイド達はなるべく身軽な服装で迅速に行動し、なるべく短い時間でのみ外での行動は取るようにしていたのでまるで真逆だった。
あれは外で大群相手に持久戦が出来る装備だとロイドは予想した。
『キャンプとは言え軍のですからね、隔壁で閉ざされた部屋に生存者がいてもおかしくありません』
軍のキャンプには緊急時、ガスやそれに準ずる兵器や侵入者への対策として区画ごとに隔壁を使い封鎖する事が可能となっておりその機能を使い生き残ったのだろうとAT05G3は予測した。
『で、どうしますか?』
『とりあえず様子見で、一応軍にそこそこ知られているこの顔は変化させておいて』
軍の装備を装着した民間人や悪人だという可能性も捨てきれなかったロイドなりの判断である。
そしてロイドはあろう事か内心暇が潰せそうだと歓喜していた。
必死に生きている彼らからしたら溜まったものじゃ無い。
AT05G3は言われた通りに顔を変え一応体格も変化させておいた。
少し幼さを残していた顔つきは幼さがなくなりキリッとした顔立ちに、少女ボディも多少年齢が上に見えるよう引き上げられた。
そしてロイドは自分の身体が変化したのを確認すると通信機をバックパックから取り出した。
自分の手のひらから直接無線機に電力を流し、便利だなと思いながら対象を無差別に設定を変更し話しかける。
「治安維持部隊の方!その場所から10時の方向にある六階建のビルに今います!聞こえていたら脱出するのを手伝って!」
そして迫真の演技をした、そのせいでドアを叩くゾンビの勢いが強くなったが。
ロイドの潜入任務で鍛えられた演技力とAT05G3による補正が合わさりゾンビに慌てふためく少女をほぼ完璧に演じる事が出来た。
ちなみに普通の10代の少女は10時の方向になんて言わないし手伝ってでは無く助け出してと言うのが普通だ。
軍属だったロイドとAT05G3にはそこまで考えが及ばなかった。
しかし治安維持部隊の面々は少し違和感を覚えたもののロイド達の迫真の演技と、声に誘き寄せられドアを勢いよく叩くゾンビの唸り声を無線機越しに聞いて結論を出した。
そして目的地を変更したのか敵を殲滅させる為に有利なポジションに移動し始めたのが窓から確認できた。
あっちはたしか太い一本道で脇道が少ない場所だったかなとロイドは周辺の地図を思い浮かべる。
それなら敵の侵入箇所は少ない筈だしあれだけの装備なら倒し切れるだろうとゾンビの大群を彼らに任せて脱出の準備をし始めた。
しばらくするとポジションについたのかビルの隙間の奥からガトリングを連射する音やエネルギー兵器の駆動音が周囲に響き渡った。
『今更だけどエネルギー駆動の銃って音変だよね』
『チュチュチュチュってやつですね、あれが基準ですから』
ドアの前からゾンビがいなくなった為この部屋には用事は無くなった為ロイド達は無駄話をしながら脱出する余裕を見せていた。
残っていた少数のゾンビを極力音を立てないようにナイフで処理をしながら階段を降りていくとようやく外の空気を吸う事ができた。
気分は最高である、半日も閉じ込められていたせいで変化を求めていたロイドにはこれから起こる事は全て楽しい事のように思えていた。
「トラを出してからでもよかったのに」
割れたアスファルトを駆け足で治安維持部隊と思わしき人々の方向に移動しながらロイドは結局トラのコールドスリープを解除できなかった事を悔やんだ。
頬を膨らませ、名残惜しそうに先程までいたビルを振り返り見たロイドは納得してませんと身体全体で表現しているようであった。
すでに元のロイドとは結びつくはずもない。
ちなみにロイドに恥ずかしさはもうない。
二日目にしてこの口調に身体にと慣れてしまっていたロイドだった。
むしろ満喫し始めているまである。
片手に片目は不便だがもうすぐ40のおじさんには良く動き柔軟で軽い身体は新鮮でまるで10代に戻ったかのように感じられた。
あちらの体がパワーを重点的に鍛えていたとしたらこちらは柔軟さや繊細さが格段に上だった。
そして大容量のバッテリーさえ見つかればパワーまで手に入るのである。
ちなみに忍耐力は確実に落ちていた、色々な変化を考え見るにプラスの点よりマイナスの点の方が多い気もするがロイドは気が付いていない。
そしてそんなロイドを見て、もし元の身体に似せたオートマトンに電子頭脳のデータを移行させる事になった場合どうなるのだろうと。
二日目にしてこの変わりようなのである。
ロイドが生きていて欲しいと思ったロイドとは離れ始めていた。
AT05G3はこの変化が嫌というわけでは無かった。
しかし、やはりそれはもうロイドでは無いのではとAT05G3は心にもやがかかったように複雑な気持ちになった。




