失った記憶の影響
感想ありがとうございます。
モチベーションが爆上がりした為新しい話を急遽書き上げました。
外からのゾンビのうめき声と差し込む朝日に気が付きロイドは素早く立ち上がると腰のホルスターへと手を伸ばした。
「あ…襲われても特に問題はないんでしたっけ」
いまいち意識がはっきりとしなくこれもまるで人間みたいだとロイドはATシリーズの擬態能力に驚いた。
だがその発言は姿と合わせると他人に勘違いさせてしまいそうだとAT05G3は呆れた。
『その発言はいかがなものかと、おはようございますロイド、今は朝の5時45分です』
AT05G3は心の中で自分の身体に声でアホな発言をしないでくださいと付け加えた。
生体反応は付近に無いものの聞かれたら色々勘繰られるでしょうとロイドには注意しておいた。
「あ、ごめんね」
まるでビッチみたいなセリフはやめてとは流石に言えなかった。
それから装備の点検を終えたロイドは何やらワイズエッジホテルから持ち出したAT05G3からしたらガラクタを使い何やら作業をし始めた。
『ロイド、それは何をしているんですか?』
「トラップ...みたいな?うん、そんな感じ、このまま突っ込...あ...」
『え、何ですか急』
AT05G3の声は遮られ周囲にガラガラと空き缶をしっちゃかめっちゃかに叩きまくった音が鳴り響いた。
音は割れた窓からビルとビルに反射し広範囲に響き渡る。
ロイドは背中に冷たい汗が流れたような感覚になり身体がビシッと固まった。
ロイドが作ろうとしていたのはコードを引っ張ると引っかかりがとれ軸に巻きつけた棒が薄い鉄の破片を連続して叩くゾンビを誘き寄せる事の出来る予定の物だった。
本来離れた位置にロイドは移動し時計の針に引っ張るよう仕掛けたコードが引っ張られ音が響き渡りゾンビがメインのゲート付近から離れた隙に侵入しようと作戦を立てていた。
恐る恐る窓の外を見ると今現在いる仮の宿として使っていたビルの一階ホールにゾンビがなだれ込む所がロイドの目にうつされた。
今ロイドがいるのは六階、これ以上上の階層は無く屋上があるだけだった。
その屋上も鍵がかかっており古風な物理的な南京錠の鍵だった為AT05G3によるハッキングなど使えず力も出なく、銃で撃とうにもゾンビを誘き寄せてしまう可能性がある為昨晩は開けることを断念していた。
というよりロイドの持つ9ミリ弾の拳銃で撃ったところですぐ開く保証もない、以外と南京錠は堅牢なのだ。
ドラマや映画の数発撃って開いたぞ!はただのフィクションなのである。
演出上のアクションでしか無い。
『ロイド、敵は既にこのビルに侵入し始めています。すぐに脱出する事は困難を極める為一時的に隠れる事を推奨します』
「あーもー!片手だけしか使えないのは本当に不便ね!」
そう言いながら部屋を出て、いち早く登ってきたゾンビを数体撃ち倒すと素早く隣の部屋に駆け込んだ。
部屋はどこかの会社の社長室だったのかドアを閉めて重たい黒革のソファをドアの前に移動させた。
窓から入ってくる朝日の強さは更に増し珍しくこの世界にしては割れてない窓のくすみによりある程度軽減され室内を照らした。
床のフカフカとした絨毯は歩くたびに埃を大量に撒き散らした。
閉じ込められて数分後、特にやる事もできる事もないのでロイドは暇をしていた。
ガラスは防弾ガラスになっており窓からの脱出も出来なかったのだ。
そんなロイドを見兼ねたのかAT05G3はロイドに話を振った。
『珍しいですね、これ野性の動物ですよ。あ、今更ですが心の中で私に伝えようと思いながら話しかけてくれれば会話は可能です』
この時代、野性の動物は科学の進歩により激減していた。
壁に飾られたコールドスリープ装置に入れられた虎をロイドもマジマジと眺めた。
「そうだったんですね…」
もっと早く言って欲しかったとロイドは少し拗ねた。
忘れていたんですとAT05G3は返した。
『で、本当にこれ本物のトラなの?』
『はい、人工的に養殖された虎では無く原種のトラです、かなり違いがありますので一発で判断がつきます』
『へぇ、やっぱり培養施設で作られた動物のいる保管園とかとは違うんだ、広いサバンナって言う草原を走る動物屈指の俊足って昔聞いたよ』
ロイドは野性のトラなんてものは映像作品でも見た事が無かった。
話には少しだけ聞いたことがあったものの地方の近代化を拒んだ者たちの住む孤島に軍の作戦で現地住民から一晩の宿を借りた時に聞いた程度だった。
曰く広大なサバンナを悠々と走り抜ける動物屈指の俊足だったと。
現地住民が言っていたのはチーターである。
ロイドは勘違いしていた。
『はい、原種のモノには今のこの星の…いえ、とにかく生息できる環境はもう無いのですよ』
『という事はこれはかなり骨董品なのかな』
コールドスリープ装置は約100年ほど前のものでアンティーク物と言っても過言では無くかなり最初期に作られた物だとロイドにAT05G3は伝えた。
『100年…一世紀かぁ、まだ生きてるかな』
『おそらく生きていないでしょう、生きていたとしても生きて無かったとしてももしゾンビ化したらと考えると触るのは危険ですね、元々トラは危険な動物だったらしいですから』
コアなマニア向けに販売されているトラもいるものの大きな猫と変わらない為本来の凶暴性はあまり知られていなかった。
密かにペットが欲しいと思っていたロイドは見るからに不機嫌な顔になった。
『解除しないでくださいね』
ロイドは今は死ぬ事はほとんどない身体のせいか危険だと言われても解除手順がどこかに記されていないのかとしつこく探してみたりしている。
まるでいう事を聞かない子供のようにAT05G3の目には写り実際注意力というか判断力というか、周りをよく見る事が出来なくなっているロイドに少し不安になった。
3割のコピーできなかった記憶データにそれらが一部含まれていそうだとAT05G3は落とす肩はないがまるで肩を落としたような気持ちになった。
このままだと見た目、動作に言葉遣いに続き精神年齢までが頼りにしていた大切な父親のように感じていた存在のロイドでは無くなって行くのを見続けなければいけないと少し寂しくなった。
しかしAT05G3はこれはこれでアホ可愛くてありかも知れないとほんの少しだけ思ってしまったのであった。




