明確な違い
クティは窓際まで移動してしばらく外の景色を眺めていた。
彼女と会った場所とは違うものの外壁付近という事、それに景色は似たり寄ったりと言う事もあり、彼女と過ごした日々の断片的な記憶が懐かしくなってしまった。
「まぁこんな天気だしね、ナイーブな気持ちになるのも仕方ないよ、はい出来たよ、よく混ぜて飲んでね」
「ありがとう…」
「どういたしまして、その紅茶、僕は割と好きでね、気に入ってくれると嬉しい」
ジェイクが窓際の縁へと紅茶を置いたのをクティはそっと手に持つとお礼を伝えた。
そして視線を窓の外へと戻したクティはジェイクから渡されたスプーンで紅茶を混ぜながらここからでも見える昨夜泊まったあの巨木の生えたビルをじっと見つめた。
しばらく紅茶とジャムを混ぜる音と窓を叩く雨の音が部屋に響いていた。
充分に混ざったと判断したクティがそっと一口飲むと身体は機械だと言うのに身体の底から温まる感覚がじわりじわりと広がってきた。
そしてポツリと、クティの口から声が漏れた。
「美味しい…」
「それは良かった、おかわりもあるからゆっくりと飲むといい」
そう言ってジェイクはポッドを窓辺へと置いて回収してきた荷物を漁りに奪って来た物資の山へと戻って行った。
ちなみにその山はAT05G3の有り余る新しい身体の力にて持ってきた非常用物資と書かれた二メートル四方の正方形のコンテナの事だったりする。
ドクの二度も捕らえられた怒りが爆発して脱出する時割と好き勝手に荒らし回って来たのだ。
最後に一瞬見えたアメリーの表情は引き攣った笑顔を浮かべていたとか。
それからどれぐらいたったのだろうか、日は完全に沈み闇夜に包まれてしばらく経った頃。
ふとある考えが浮かび上がりクティは口を開いた。
「そうね、うん…私はロイドじゃない」
声に出して確認したかったのかもしれない。
その呟きは不思議と辺りに響き渡り、それを聞いたAT05G3は物資を整頓していた手を止めた。
「それは…どう言う意味として捉えればいいのでしょうか?」
「エーティ、そのままの通りよ、ねぇみんな、少し相談させて?」
「相談ね、可愛いクティのたのみなら仕方がないね、おかわりの紅茶はいるかい?」
「相談くらいいくらでも乗るさね、この日記のお礼もあるからね」
ジェイクはポッドを手に取り、ドクは残っていたコーヒーを一気に飲み干すと読んでいた日記を閉じてクティへと身体の向きを変えた。
「紅茶は今はいいや、それと相談なんだけどね、決意を固めた筈なのに、それなのに真実を知るのがまだ怖いのよ」
「それは…うん、聞かなくてもわかるよ、クティからしたら避けては通れない道なんだね」
「うん、ロイドとしてもクティとしても知らなきゃ何も終わらないし…始まらないの」
クティは多分もうロイドへと戻る事は出来ないんだろうと。
もうロイドという人物は死んでしまって、たとえ他人の中で生きていようがそれはもう自分ではないのだろうと。
そのロイドは今のクティとは全くの別人なんだろうとふと先程理解出来てしまったのだ。
だとしてもまだロイドの人生は終わってはいない、本当に最後の大切な大仕事がまだ残っているのだ。
過去を知って大切な彼女との記憶を思い出すと言う大仕事はロイドとしての最優先事項なのだ。
でもクティは違う、ロイドは自分であり、そして他人で、でも大切な人で、そんな人が悲しむのは見るに耐えなかった。
残ったロイドの考えと新たに生まれたクティの考えは同じ人物の筈で同じ意識の元導き出された結論なのに全くの別物だった。
「でもアンタは知りたい、なら知ればいい、何も悲しい出来事だけじゃ無い筈さね、違うかい?」
「そんな、無理だよ!私にはそんな強さは無い!私は彼女と死に別れたのは微かに覚えている、微かに覚えている記憶でさえ辛くて辛くてしょうがないのに!」
「クティ…」
「なのに楽しい事なんてこれ以上思い出したらもっと辛くなっちゃうじゃない!そんなの、そんなの私じゃ耐えられないのよ…」
感情的に声を荒げ、最後にはもう疲れ果てたのか声が力なく弱々しくなって行ったクティをAT05G3は装甲の下の表情を曇らせた。
クティへの物ではもちろんない、それが何かといえばロイドを、クティを守ると誓った自分への苛立ちだった。
これではまるで外側は守れても内側は守れていないじゃ無いかと。
現に今目の前で咽び泣くクティの背中を装甲だらけのゴツゴツとした手で撫でながら自分の不甲斐なさはどんどんと確実な物となって自身へと突き刺さって来ていた。
「多分、今考えても意味がないと思うよ」
そしてそんな時だった、どんよりとした空気にジェイクが一言言い放ったのは。
「ねぇクティ、今は無理でも少しずつ強くなっていけばいいと思うんだ、それでもしその時が来て無理だったら迂回するのだっていい」
ジェイクはクティの側へとやってくると、あやすように、慰めるようにゆっくりとクティの頭を撫でた。
「強くなんか…」
「ロイドは強かった、それは色々な出来事を体験して得た強さだからね、赤ん坊のクティが同じ強さを今持ってるわけがないよ」
「でも、グスッ…でも…」
「君はロイドじゃなくてクティだって、それを一番理解してるのはクティだ、ロイド基準で物事を考えるのは少し無茶が過ぎると思うよ、そうだ、ワインを見つけたんだ、飲むかい?」
ジェイクは身体の後ろに隠していたワインとコップを取り出して注ぐとクティへと手渡した。
「グスッ…ワイン…のむ…」
「はいどうぞ、飲んで忘れちゃおう」
渡されたクティは少し大きなコップを両手で大事そうに持ち…グイッと一気に口に流し込んだ。
「あ、クティダメで…あぁ…」
「んまい…はれ…はれれ?」
AT05G3の静止も虚しくアルコールにめっぽう弱い設定に変更されていたクティは椅子から落ちてそのまま床で寝始めるのだった。
ジェイクは変態紳士です。
四六時中ドMしてるわけではなく夜にはドMの欲求は収まり優しい紳士になります、でも罵られたらもちろん興奮します。
彼はそういう生物です。




