別れは告げずに
多分私が狂い始めたのはもうずっと昔だったのかも知れない、でもそれに気がついたのは人生を全速力で走り抜けていざ終わろうって時だったからもうどうしようもなくて、何もかもが遅かったのです。
だから私は自身の記憶をコピーしてセーフハウスでこの世界を脅かすウイルスの研究を続けることを決心しました。
その記録というか、メモというか、日記とも言えるそんな私の償いの行動を示した物をこれから書いて行くことにします。
クティが酒にダウンし、ジェイクも眠りについた部屋の中で夜の見張りを買って出たドクはもう一度アメリーの日記の最初のページを見返していた。
「似た物どうしさね…あんたもあたしも最後の最後まで大切な事を理解できないなんて、エーティなにかツマミはありそうさね?」
酒瓶をそのまま口につけ豪快にラッパ飲みしたドクは必要物資をまとめていたAT05G3へと声をかけた。
「犬用のジャーキーなら、人間が食べても問題はないですね」
「ペットフードなんて今までどれだけ食べてきたかわからないさね、それもらうよ」
「嗜好品として楽しむならもうこういう物しか残ってないですからね、仕方がないです」
「そうさね、ありがとう、わりかし美味いし食べられるだけで満足さね」
「えぇ、どういたしまして、ところでその日記、全部読み終わった感じですか?」
AT05G3がドクの持つ日記へと視線を移すとドクは静かにうなずきAT05G3へと日記を差し出した。
差し出された日記をAT05G3は受け取らずに首を振ってドクへと日記を押し返した。
「いえ、私はもうスキャン済みですので内容は把握しています、なので少し気になった点のすり合わせを、アメリーのオートマトンが生きている可能性を」
「一年前の出来事さね」
数時間前までいた窓の外に見える壁の中のあの古い軍事施設へとAT05G3はそっと視線を向けた。
「そうですね、そしてあの壁にいた記憶を都合よく消されたアメリーのコピーの事も」
AT05G3言葉を聞いたドクは苦々しげな表情を浮かべながら舌打ちをした。
「アメリーは死んだ、そう言う認識でいいと思うさね、生きている方が地獄さね」
「それは…いいのですか?あなたが諦めても」
「たとえオートマトンの身体だろうと一人何の装備も持たずに荒野に出て生き残れるとでも!?それに書かれていたのは相当な旧型さね!もう馬鹿な希望は抱きたくないのさね」
「でもあなたは探しに行きたがっています、死の荒野だろうとなんだろうと関係ないって表情ですよ?そのための装備も今まとめ終わりました。」
どうします?とAT05G3が差し出した大型のリュックを忌々しげにドクが見つめるとAT05G3は諦めるんですか?と言わんばかりにため息をついた。
「エーティ、確かにあんたの選んだ装備とあたしなら荒野を一つ超えて、いいや、三つは超えて他のシティへ行けるだろうさね、でもそうじゃないさね」
「そうじゃない、ですか」
AT05G3が首を傾げると首元の装甲がぶつかる音が響いた。
「あたしは今の生活に満足しているからね、いるかもわからないやつのことなんて構ってる暇はないさね」
「ではこの手は?」
AT05G3が手に持っている大型のリュックへと視線をずらすとドクのシワの刻まれた程よく筋肉のついた腕がリュックの端を掴んでいた。
「やはり未練があるようですね、これは渡しておきます」
「…っ……一応、一応もらっておくだけさね」
奪い取るように手元へとリュックを引き寄せたドクはそのリュックに日記を仕舞い込み自身の寝床の側へとおきにいこうとしたドクをAT05G3が呼び止めた。
「それとドク」
「なにさね」
「ここを出るまでに決めた方がいいでしょう、地形スキャンによると状況からの推測でしかありませんがアメリーも使ったと思われる壁の外へ出られる通路があります」
「へぇ、ありがとうね、わざわざ、でも行かないさね」
「私達の目的地は中央政府です、なのでここからは離れればさらに遠のきます、決断はお早めに」
振り返らずにそっけなく返事を返したドクへとアドバイスをするとAT05G3は荷物の整理へと戻っていった。
寝床と決めた部屋の端に行き日記を取り出したドクはジャーキーをかじり酒をラッパ飲みしながら窓の外に写る巨大な壁をじっと見つめていた。
日記に書かれたたくさんのアメリーの文が頭から離れなかった。
動物と植物はどちらも魂を持っているはず。
ビルの中で育っていく若木のスケッチと共に端に短い文が添えられているページがあった。
なら機械の身体とコピーされた記憶のアメリー自身に魂はあるのかと、魂のない寿命の話を信じるのなら十九年も時間は残されていないのだ。
歳をとってからの十九年なんてあっという間でいま会いにいかなかったら気がついたらもう寿命を迎えてるなんて事もあり得るのだ。
なにやら警備をしているメンバーが怪しい動きをしています。
彼らは確か途中で加わった方達で、流れの傭兵と言っていましたけど大丈夫なのでしょうか。
揃いの装束を見るとまるで軍みたい。
それにあの武器は確か最後の銃器セレモニーで見かけたような…テック社だったかな。
それと昨晩は私の部屋でデータを漁っていたようですがまた来ても面倒な為対策をする事にします。
そのページにはあの軍の事が書かれていた。希少な情報だとページに折り目をドクはつけておいた。
ワクチンは失敗だった。人が死にながら生きている。こんなのもうどうしようも無い。
最後の方の殴り書きされたページがあった。
「それで失敗して…生き残った人に壁の外に追放さね…彼らも希少な科学者を放り出すとはね」
ため息を吐き出したドクは自身の頬を両手で挟み込むように叩いて決意を固めた。
「よし、決めたよ、あたしは残りの人生全て使ってでもアメリー、コピーだとしても記憶の消されてないあんたがいるなら探しにいくさね」
翌日の朝、眩しい朝日の差し込む部屋にはドクの姿はもうなかった。
二章完結です。
今週は誤字脱字や文章の細かな修正を行う為更新はこれのみとなります。
※次の投稿は早くて日曜日から月曜日にかけての夜か火曜日から水曜日にかけての夜になります。
拙い表現や文章ですが評価、ブックマーク、感想とても嬉しく思います。
これからもどうかよろしくお願い致します。




