あの日からずっと
◯ソウマ
「ソウマ」
僕は顔を上げた。
「悪かったな。それだけだ。俺が一方的に意味のわかねえんこと言っただけだったんだけどな」
センゴク君は僕に背を向けるとふらふらと歩き出した。
僕はそこでセンゴク君に肝心なことを聞き忘れていたことを思い出した。
「センゴク君」
センゴク君は振り向いた。
「サカキ氏の漫画は面白かった?」
その言葉にセンゴク君は拍子抜けしたような顔をしていたがすぐに、にやっと笑った。
「ああ。面白かった。お前の言うとおりだったよ。読むべき時ってのがあったんだな。それがいつなのかわかったんだ」
僕も思わず、にやっと笑っていた。
「本当にそういう時があるんだ。だから、もっと読みなよ」
センゴク君は不思議そうな顔をしてこちらに向き直った。
「何をだ?」
「決まってるじゃないか。漫画だよ」
センゴク君は吹き出して笑った。
「俺さ、死ぬ直前にそれ考えたんだよ。なんでもっと漫画読まなかったんだろって。呑気だよな」
「読みにきなよ」
僕は持っていた紙袋を持ち上げた。
「今日だってまた新しい漫画を買ったんだ。だから」
「行くよ」
僕はセンゴク君を見つめた。
「いつ死ぬかなんてわかんねえからな」
僕はそんなセンゴク君の言葉で動き出していた。
センゴク君に肩を貸すために。
一歩僕が踏み出したその時暖かい風が吹いた。
その時僕は思い出した。
この前読んだ本の一節を。
“この世界は過去の自分にとって、きっとパラレルワールドに違いない”
そう今の僕も同じ様な気分だった。
まるでパラレルワールドの世界に迷い込んだ様な気分だと。
自分の人生と決して交わることのなかった憎い敵と言ってもいいセンゴク君とまさかこんな日がくるなんて。
このパラレルワールドの分岐点はどこだろう。
僕が今一歩踏み出したこの時?
僕がセンゴク君に本音をぶつけた時?
僕がサカキ氏の通夜でセンゴク君と再会した時?
いや、分岐点はきっとあの日。
サカキ氏がばらばらになった僕の漫画に手を差し伸べたあの日。
あの日から僕たちはずっとパラレルワールドの中にいる。




