まだその時じゃない
◯ソウマ
「その漫画、そんな難しい顔をして読むものじゃないよ」
僕はセンゴク君からサカキ氏の漫画を取り上げた。
「お、おい」
それから漫画を茶封筒に入れながら言った。
「センゴク君、今から言うことをよく聞いてほしい」
僕は座り直してまっすぐにセンゴク君の目を見つめた。
そんな僕を見て察したのかセンゴク君も座り直した。
息を大きく吸って吐いた。
確かにこの漫画は中二病全開だ。
読んでいるこっちが恥ずかしくなるくらい。
でも、この漫画がセンゴク君にとって読むに値するものってことも確かなんだ。
「センゴク君。作品の力を本当に強く感じる時、それはいつなのかわからない。昔、読んで何も感じなかった作品が今読むと涙が出るほど熱い思いがこみ上げてくる時がある。君がサカキ氏の作品を心から強く感じる時、それは今じゃないのかもしれない」
センゴク君は黙って僕の目を見つめていた。
僕は続ける。
「それでもいつか必ずサカキ氏の作品の意義を君には感じてほしい。僕にはサカキ氏から君への思いをこの作品から感じたんだから」
「この漫画が?」
「うん、まあ信じられないかもしれないけど。とにかく、今読んでも君にはこの漫画の力を感じることができないかもしれない」
「だから、まだ読むなってことか」
僕は頷いた。
「いつか来ると思う。今ならわかるっていう時が」
「それって・・・体よく漫画の読み方教えるの断ってない?」
僕とハルは玄関先でセンゴク君の後ろ姿を見送っていた。
「お前、盗み聞きしてたのか?」
「だってお兄ちゃん、また喧嘩しちゃうかと思って心配だったのよ」
「悪かったよ。今日は」
「まさかあのセンゴクを目の前で見れるとはねえ。あの人今、ヤクザの世界でも結構上にいるんじゃなかった?サカキさんが確か言ってたじゃない」
「さあ。そんな話はしてないから」
僕たちはお互いに、“おう!どうしてたんだ?元気だったか?“なんて言う間柄じゃない。
むしろお互いに嫌い合っていて道で会ったとしてもきっと気づかない振りをするだろう。
ただ僕は今日初めてちゃんとセンゴク君と会話をした。
そう。
ただそれだけなのだ。
僕は夜空を見つめた。
少しだけ星が見えたような気がした。




