気まずい食卓 その2
◯ソウマ
「ほら、お兄ちゃんも座って座って」
僕はとりあえず今にも出そうなため息を飲み込んで席に着いた。
ハルはテキパキとテーブルの上に料理を並べていく。
ホカホカと湯気のたつ白米にお味噌汁、野菜炒め。
ハルは席に着くと僕とセンゴク君の顔を交互に見つめた。
「さ、食べよ!いただきます!」
そう言って軽快にハルは手を合わせた。
僕とセンゴク君は無言で手を合わせて、それから目の前に置かれた箸を手に取った。
僕は野菜炒めを一口食べてセンゴク君は味噌汁を飲んだ。
「あ、うま」
その一言を聞いてハルは嬉しそうに笑った。
「でしょ?いい出汁使ってるのよ。今日がちょうど特売の日で。センゴクさんって料理とかするの?」
センゴク君は野菜炒めを口に運びながら首を振った。
「あんまり。普段はコンビニとかで適当に」
「ふうん。そうなんだ。サカキさんは結構自分で作ってたみたいだけど。だってヤクザの仕事って体力使うでしょ?そんなコンビニばっかりで大丈夫なの?」
僕は二人の会話を聞きながら何でこんなところでこんなどうでもいい話を聞かなければいけないのかわからなかったし、ていうか何かものすごく気まずくて今すぐに部屋に戻りたい!
そんなことで頭がいっぱいだったが、そんな僕の頭を真白にさせる言葉をハルは突然言い放った。
「で、センゴクさん。昔いじめてたうちの兄に何か用でもあったの?」
僕は本当に白目をむくかと思った。
ハルはいつも突然、空気を裂く。
真っ二つに。
「ハ、ハル。お前そんな言い方」
「漫画だ」
センゴク君はにこりともせずにただまっすぐに僕とハルを見つめた。
「漫画の読み方をソウマに教わりに来た」
しばらく僕たちの間で沈黙が流れた。
なんで・・・なんでこんな馬鹿正直に言うかなこの人は!?
やばい。ハルのことだからきっと馬鹿にするようなことを言うに違いない。
“え、センゴクさん漫画も読めないの?”とか
“絵本から読み直したらどう?”とか平気で言うに決まっている!!
僕は、ハルよりも早く何か言葉を発さなければならないと思いつつも何も思いつかなくてただそわそわしているだけになった。
「それは、センゴクさん」
僕は、はらはらしながらハルを見つめた。
だが、ハルが言い放った言葉は思いがけない言葉だった。
「人選めちゃくちゃいいじゃない!」
思わず僕とセンゴク君は同時に、え?と声を出していた。
「お兄ちゃんって本当に小さい頃から漫画が大好きでさ。ううん。漫画だけじゃない。映画も小説も詳しいし。お兄ちゃんに漫画の読み方教わるなんてすごくいいと思う!」
ハルは嬉しそうに笑った。
「じゃあお兄ちゃん後でセンゴクさんを部屋に入れてあげなよ」
「な、なんで僕の部屋なんかに」
「お兄ちゃんの部屋見たらセンゴクさんきっとびっくりするわよ。それに漫画の読み方を教えるならあの部屋がぴったりだから」
ハルがきらきらした目で僕を見つめてくる。
全く、ハルはいつもこうだ。
自分でいいと思ったら一直線に進んでいく。
兄の僕とは大違い。
「漫画に読み方とかないんだよ、ハル。絵だけでもなんとなく理解できるじゃないか」
「理解できねえから来てんだろうが」
ドスの効いた声に僕は思わずまた体がぶるっと震えた。
「は、はい。すみません」
僕の横でハルはくすくすと笑っている。




