ソウマとサカキ その3
◯ソウマ
「“そうやって生きていくしかない。それが俺の人生で運命だから”」
きょとんとした顔をそいつは向けてきた。
僕は漫画のページを拾い上げてそいつに突き出した。
「ここに書いてある。ロキ王子が自分の限界を知って自分の運命を受け入れるところ。僕、このシーン好きなんだ。そうか、受け入れればいいのかって。何か楽になるから」
そいつは一瞬拍子抜けした顔をした後、吹き出した。
「確かに。いいよな。ロキ王子らしい言葉っていうか」
「現実なんて漫画みたいにうまくはいかないよ?サカキ君、そんなことも知らなかったの?」
僕は初めてそいつの名前を言った。
「うるせえな。ソウマこそ漫画の世界に生きてるんじゃねえのかよ」
僕は初めてそいつに名前を呼ばれた。
「漫画の世界は好きだけど、現実はちがうって僕はわかってるつもり。でもね」
僕はわからなかった。
どうしてこんな奴にペラペラと自分の思いを話しているのか。
いつも一緒いるオタク友達にも言っていないのに。
「漫画の、いや、漫画だけじゃない、小説やドラマ、映画の中に出てくる言葉は時々僕を救ってくれる。僕の現実を救ってくれる。さっきの君みたいに」
「え?」
「気がついていないの?だって君、さっきまでの君と全然ちがう顔をしているよ」
サカキ君は、大きく目を見開いて僕を見つめていた。
僕はそこで我に返った。
あ、あれ?
僕・・・クラス一の不良グループの一人になんてことを!!?
「あ、あの、ごめん。生意気言っ」
「確かにそうだ」
僕はきょとんとした顔をしてサカキ君を見つめた。
サカキ君は、にっと笑って僕を見つめた。
「俺、この漫画がやっぱり好きだ。何でこんなに好きなのかわかってなかったけど、今わかった。俺も救われてたんだな」
僕はその時自分の考えを人生で初めて受け入れてもらった気がした。
まるでそれは自分の存在を生まれて初めて認めてもらえたような、そんな感覚。
というか、本当に初めて人に打ち明けて理解してもらった。
自分が作品を読む、見る理由。
それは時に人生を救ってくれる瞬間があるからだ。
そして、また新たにわかったのはこうして作品を通して思いがけない友を得ることがあるということ。
なぜなら僕はその時、はっきりと感じたのだ。
親友と出会った感覚を。




