君がこの道を選んだ日
○ソウマ
僕たちは親友だと思っていた。
生きている世界は違うとしても。
君とはずっと親友だと思っていた。
でも本当はどこかでわかっていたんだ。
僕は君にとって趣味の合うだけの友人のひとりだったんだね。
「はあ~」
思わず僕の口からは大きなため息が漏れていた。
いや、仕事に集中しなければ!と僕は姿勢を正してデスクトップ画面に向かった。
カタカタとキーボードを鳴らすが、次第に静かになり
「はあ~」
またため息だ。
さっきから何度こんなことを繰り返しているのか。
まったく仕事になりやしない。
カタカタとゆっくりキーボードを僕は叩き始めたがその音が大きくなればなるほど僕はさらに頭がぼうっとしてきた。
“なんで、なんで君までそんな道を選ぶの?”
僕はまるで白昼夢でもみているかのように思い出していた。
サカキ氏があの道を選んだ日のことを。
「俺はあいつが大物になるところを見届けたいんだ」
僕は参考書から顔を上げて、サカキ氏の顔をまっすぐに見つめた。
サカキ氏の顔はいつになく真剣でじっと僕を見下ろしている。
相変わらず身長差は縮まらないし、あいつへの信頼度も僕とは桁違いの差があるようだ。
「だからって」
「ん?」
「なんで、なんで君までそんな道を選ぶの?」
サカキ氏はうーんと唸って首をかしげた。
ざわざわとファーストフード店の客たちの話し声が僕の耳に嫌でも飛び込んでくる。
くだらない恋バナをする女子高生。
会社の愚痴を言い合う会社員。
大きな声で笑い声を上げる主婦。
僕はそんな聞きたくもない人々の話し声に耳を傾けながらサカキ氏の答えを待った。
「なんでだろうな」
えっと僕は思わず声を上げて持っていたペンを落としてしまった。
そんな僕にサカキ氏は、にやっと笑った。
「ソウマ、お前この前のイッコクノオウの最新刊読んだか?」
「読んだけど。なんで急に」
「あの最新刊でザンが言っていた言葉。あれが俺を動かしたんだよ」
「ザンの言葉って」
僕は思い出していた。
「“王子は王になる器だ。だから誰にも邪魔はさせない。俺がいる限り”ってセリフ?」
サカキ氏は吹き出した。
「お前、本当そうゆうところ記憶力いいよな。そう。そのセリフ」
僕は思わず大きなため息をついていた。
「まったく」
そこで僕は椅子を後ろに引いて、さっき落としたペンを拾うためにかがんだ。
「サカキ氏は本当にあいつに一目置いてるよね」
「ああ。俺はあいつに命を救われてるからな」
僕は机の下で何も言わなかった。
「でもよ、ソウマ。そのセリフを思い出すってことはよお、お前もセンゴクが大物になるって思ってんじゃねえか?」
「え?いたっ!!」
僕は立ち上がろうとして机の角で頭をぶつけた。
頭をさすりながら顔を上げるとニヤついた顔のサカキ氏がいた。
僕は大きなため息をついて座り直した。
「そりゃあんな生まれつきのヤクザ顔の人、あっちの世界で成功する気しかしないよ」
サカキ氏は大きな声で笑った。
「ははは!そりゃちげえねえ!!」




