蝶カッコいいパリス様VSトリニティータイガー
アイは蝶族には珍しく虚栄心の薄いメスであった。
また他の蝶を利用することや縋ることを好まないところがあった。
だからパリスの食事の申し出に対して返答に困ったのだ。
他のメス蝶のように、奢ってもらえるのはうれしいのでそれ自体は確定だが、
少しだけ断りの姿勢だけ見せておいた方が印象がいいとか、
それでいて断ったからと言って相手が「折半(共同戦闘)な?」といったら不機嫌になるとかそういったことは無い。
ぶっちゃけ共同戦闘の方が早いし堂々と分け前をもらえていいと思っていたが、
最近知り合いの蝶に「少し位オスを立てるのも優しさよ。」なんて聞いてどうしようか迷ってしまった。
だが結局自分の普段のスタイルを通すことにした。
「あっ、いえ私も手伝います。」
パリスは何度か別にその必要はないと言ったのだが、思いのほかアイが強情で結局のところ折れてしまった。
戦いの場には連れていくものの獲物はしっかりパリスが狩ろうとは思っていたが。
今回の狩場は焼け焦げた大樹。
以前焼き殺したものの、敢えて少し身体を残していたフレッシュミートビビッドチェリーに群がる他のモンスターたち。
翼が生えたトラのモンスターウイングタイガーの上位種や亜種、ユニーク種などである
トライウィングタイガーやアサルトウィングタイガー、トラトラトラや
巨大なネズミのようなモンスターであるエオマイア、
その他にもハングリーウルフ、ローリングゴリラ、スプリングカンガルー、
中には昆虫族ハエ種であるマッスルフライまでが跋扈していた。
「……少し多すぎない?」
アイがそういうのも無理はない。あまりにも多いモンスターの数であったが、
今は皆が大樹の焼け滓を喰らうという目的に集中しているためモンスター同士の戦闘は余り起こっていなかった。
アイはわざわざそこに焼石を投じるのではなく、他のモンスター同様大樹の焼け滓を食べるのかと思っていた。
しかしそれには他のモンスターが既に多すぎてあまり好い選択ではないと思ったのだ。
しかしパリスは焼石を投じるどころか自身が燃えているような存在である。
「ヒトの食べ残しにたかりやがって。
この化け桜が生きていた時にはビクビクして近づかなかったくせに、
死んだ途端群がるとはやっぱザコは浅ましいな。
いいぜたっぷり食ったんだ。それなりの代金は徴収してやるよ。
―――――――――――アイちゃん?今日のランチは決まった。
コイツら全員でフルコースだ。」
「……本気?」
アイがそう聞く前に既に火が消えた焼け残しの大樹に触れて燃やし始めているパリスは言った。
「本気も本気。本気と書いてマジだぜ。」
せっかくもはや死んで抵抗しない中位ランクの巨大な肉を貪れていたのが、
急遽その肉は燃えだして食べられなくなった。
先程まで貪っていたものの中には共に燃えたものもいたし、逃げたものもいた。
しかし先程まで比較的安全で高い存在成長糧物を得られたものが食べられなくなったことに、
不満を持つものは少なくは無かった。
「怒ってるみたい……まっ、当然よね。」
特にウイングタイガー系が強烈にその怒りを表している。
「はっ、他の奴が狩った獲物しか狙わないとか、
肉食獣はここには一匹もいねぇ。いるのは浅ましい死肉漁り(スカベンジャー)だけだ。
恐れる必要もねえよ。」
「………それも一理あるわね。」
「だろ?……じゃあランチタイムだ。レア、ミディアム、ウェルダン。どれがいい?」
「じゃあウェルダンで。」
「わかった。すぐに調理するぜ。アシスタント宜しく。」
「りょーかいです。」
一度レベル150を超えていたこともあってか、
イエローバタフライを焼き殺したことで存在因子が増大し、
本来のレベルがフレイムゼフィルスになれるまで昇っていないにも拘らず進化したパリスの強化された力が振るわれた。
パリスが何も言っていないにも拘らずアイはホワイトバタフライの力で産み出した回復効果などがある光をパリスに照射し、
パリスの炎を活性化させた。
そしてパリスが一際強く羽ばたいたと同時に周囲に焼夷の散弾が振りまかれた。
それが合図となったのか同時に死肉喰らい達もパリスたちを倒すべき敵と認識して奇妙な団結の元一斉に襲い掛かってきた。
基本的にパリスが前進しながら周囲のものを焼いていきアイはその後をついていきながら撃ち漏らし攻撃したり、
火傷を負ったものの火傷部分だけを増殖させる歪な回復の光を与えたり、
先程同様にパリスに回復の光を与えることで活性化させバックアップしたり、
パリスの炎を躱そうとした敵の細胞を増殖させて当たり判定を増やしたり、
バランスを崩させて回避行動を崩させたりした。
初めての共闘にも拘らず、不思議なほど息があった。
まるでそうあるのが当然であるかのように。
燃え上がる炎の身体ではアイに触れることはできないが、
アイが行く道の枝払いはパリスが、パリスの背中を護るのはアイが、
互いの役目を理解しているかのように行動していた。
フレッシュミートビビッドチェリーのパリスに対する最後の復讐なのか。
ほとんどのモンスターがスキル『水分保持』『水気保持』など、
単純な物理攻撃を受けにくいパリスに攻撃が通用しそうなスキルを受け継いでいた。
下から飛び上がってきた濡れた体のスプリングカンガルーを躱したパリスに対し、
アサルトウィングタイガーなどは翼に水気を纏って突撃し、
トライウィングタイガーなどは3連続の風の刃に水気を纏わせて撃ち放ってきた。
しかしそれをパリスは躱そうともしない。
パリスに向かってきた水属性の攻撃は突如現れた壁によって塞がれた。
先程飛び上がってきたスプリングカンガルーである。
本来はもう少し遅れて落ちてくるはずであった。
ウィングタイガー達もスプリングカンガルー自身もそう思っていた。
実際その筈であったのだ。彼らに計算ミスは無かった。
………急激にスプリングカンガルーが肥大化しなければの話だったが。
いつの間にかフレイムゼフィルスに進化したパリスに続くように、
ホワイトバタフライからセイクリッドバタフライに進化していたアイの強化された光によって肥大化したスプリングカンガルーは、
その膨れ上がった脚でウィングタイガーの攻撃を受けてその脚を代償にアサルトウィングタイガーの頭を受け止め、
アサルトタイガーはその翼にトライウィングタイガーの風の刃を受け下に落ちていき、、
足が弾け飛んだスプリングカンガルーはその後を脚が無くなったことと、
今もなお部分的にアイの照射を受けていることで重たくなったことで頭を下にして落ちていった。
完全に翼が千切れ飛んだわけではなかったアサルトウィングタイガーは落下途中で踏ん張りをきかせようとしたが、
加速度が緩やかになった途端、落ちてきたスプリングカンガルーの頭に激突し、
その肥大化した体はアサルトタイガーを包み込むようにともに再び加速して落ちていった。
次にアイのターゲットとなったトライウィングタイガーはその身体を巨大化させつつも、
正常な形と保ったまま巨大化していき、特に筋肉がかなり増大したため、
単純に能力が大幅に上がった状態でパリスに突撃してきたが、
パリスに当たる寸前で飛行を維持できずに落ちていった。
急激に増幅した細胞に対し、その栄養素が足りなくなり死滅していった結果だった。
先程まで焼肉の木を喰らっていたもの達が、歪な形をした松明に変わっていっていた。
そんな時だった。
何か人型のものが入ってきてはトラトラトラに何かを片腕ごと二つ喰らわせて去っていったのは。
トラトラトラは2匹のウィングタイガー種に近づくとその肉を喰らった。
するとその身体が急激に肥大化して膨らんだ。
「アレ?アイちゃん今なんかした?」
「いえ?私は別に……。」
膨らんだトラトラトラは球体状になり何度も抉られるように捻じれては縮み、
そしてふくらみを繰り返し、楕円球体になった後、そして血の霧を大気にふりまいて爆散した。
パリスは咄嗟に身を躱した。同時にそこに何かが通り過ぎた。
パリスが危険だと感じたのはその球体の体積に比べてあまりに飛び散った肉片が少なかったこと。
そして最後に取った楕円球体の形。
パリスは一瞬こう思ってしまった。
(アレは…………蛹!?)
その発想は正しかったのだろう。羽化した何かが今、パリスの横を凄まじい速さで駆け抜けたのだから。
再びパリスの蝶感覚が警鐘を鳴らす。
翅を捻った所に再び何かが通り過ぎた。
………いや、もう何かなんてわかっている。
先程のトラトラトラ、―――――――――――――いや、
RANK Aクラス トリニティタイガー
本来はトラトラトラの高レベル個体3体の協力的な融合によって作り出されるSランクの存在であるが、
強制的に引き起こされたためか何らかの作用でAランクに留まっている。
時折停止し苦しそうに吠えながらも、次の瞬間には高速で突撃してくる。
ただ速いならパリスにとっての回避は簡単な話だ。
しかしすれ違いざまに翼に纏った赤色の水の塊を飛ばしてくるため非常にやりにくかった。
だが、パリスの圧倒的な回避センスが攻撃が困難だと判断したトリニティタイガーは目標をアイに変えた。
属性的な弱点こそアイは不利ではないが、
幾らパリスよりレベルが高かろうとパリス程高い蝶感覚を持っていないアイはすれ違うたびにトリニティタイガーの牙で身体を削られている。
パリスはそれを防ぐために炎弾を放つがどうしてもアイに当たらない様に撃ってしまうため、
それを理解しているのかアイに接近することによってトリニティタイガーは躱していた。
そうやってアイの方に意識を取られていると時折パリスの方へも向ってくる。
勿論パリスは高い回避センスこそあるが、あまりのトリニティタイガーの速さの前にいくつか致命傷ではないもののダメージを負っていた。
それにアイを守り通すのは困難だということもパリスは感じていた。
こうなった原因は確実にあの人間が喰らわせた何かだ。
しかし、確か2個喰らわせていた。両方のものが共鳴してこの結果を作り上げたのか、
それともまだ一つ機能していないものが存在するのか…
パリスがふとそう考えた時だった。
またトリニティタイガーが苦しみ始めた。
今度は長かった。パリスやアイがその隙を見逃すはずは無く、
炎と光がトリニティータイガーに放たれた。
トリニティータイガーの焼けただれた細胞が増幅していき、そしてその身体が崩れて灰になった。
しかしパリスもアイも勝ったとは思っていなかった。まだ何かあるそう思っていたのだ。
―――――余りに不自然なほどトリニティータイガーが倒れるのが早すぎたのだ。
その想像を肯定するかのように一人の男が走ってきた。
男はトリニティタイガーの灰の中から罅割れた灰色の宝玉と仮面を取り出して、
宝玉を捨てて森の中に走っていった。
パリスはこれまでの経験と直感から男を追った方がいいと思ったのだが、
傷ついたアイを放置しては置けないと思ったのでその場にとどまった。
パリスは『L』の欠片(因子)を手に入れた。
その背を支えたくても、私は貴方に触れられない。




