蝶カッコいいパリス様VSフレッシュミートビビッドチェリー
ソメイヨシノという桜の品種がある。
その起源はエドヒガンとオオシマザクラの混種だと言われている。
どこの学校に植えてあるソメイヨシノも咲く時は一斉に花を咲かせる。
なんでだろう?個体差は存在しないのだろうか?きっと世の中学生は一度はそう思ったに違いないだろう。
結論から言うと個体差は――――――――――――――――――――存在しない。
…理由は極めて簡単である。全てのソメイヨシノは接ぎ木で増えた存在、つまりはクローンなのだ。
ちなみにソメイヨシノは同じ気にある雌蕊と雄蕊で受粉することはまずない。
此処で先程言ったことを思い出してほしい。全てのソメイヨシノはクローンつまり同一体なのである。
この二つから言いたいことがわかったはずだ。
つまりソメイヨシノ同士では受粉できないということなのだ。
ソメイヨシノは接ぎ木でしか増えられない。他のソメイヨシノと子孫を残せない。
それは他者が近すぎるがゆえに。
パリスは他の蝶と子孫を残せない。他にパリスの炎に耐えられるファイアバタフライという種がいないが為に。
それは他者が遠すぎるがゆえに。
似て非なる組み合わせがここにあったわけだ。
……ちなみにソメイヨシノが他の桜と子孫を残せるのは内緒だ。
何でこんな話をしたかといえば―――――――――――――――いつも通り今回の敵はソメイヨシノというだけの話だ。
世界はいつだってLOVE&PEACE(※但しイケメンに限る)を信条とするパリスは今日も火の粉の鱗粉を散らしながら空を飛んでいた。
そんな中それはもう見事な桜が咲いていた。周囲に桜の木々を侍らせつつその中央にそびえたつ雄大且つ荘厳な桜が咲いていた。
美しい桜の根元には死体が埋まっているとは誰の言葉だったか?
前世の何人かめの母親がそう言っていたのをパリスは滓かに思い出した。
そろそろ前世の記憶も薄くなってきている。
いつかパリスもこの世界に長く生きた他の転生者同様に過去の世界に別れを告げる時が来るのだろう。
そしていつか完全にこの通信販売のようなリアリティのこの世界に骨をうずめる覚悟をする時が来るのだろう。
…その時がそう遠くないこともパリスにはなんとなく解かっていた。
死体を糧に魔に目覚めた化け桜、
なんか化け桜と聞くと某幻想の郷のド○キャス印のあの人を思い浮かべた人は、
多分立派にオタってる。胸を張っていいと思う。たとえあなたに張る胸が無くても張ってもいいと思う。
それはそれで微笑ましくてよいのだ。
………話がずれたがとにかく化け桜とパリスは今対峙している。
確かに遠目で見れば綺麗な桜だったかもしれない。
でもそれは擬態でしかなかった。
その美しさに近づいた獲物に対しその桜は真の姿を現した。
潤爛肉大桜 RANK C-
悍ましいほど瑞々しい肉の幹と肉の枝と肉の花弁で構成された、桜というよりは桜肉なモンスターだった。
先程までの感動を返せと思わず言いたくなるような姿である。
…というか、肉の幹と肉の花弁っていやらしいよね。えっ意味が解らない?
きっとあなたはチェリーなんだ。その純粋さはずっと胸に秘めていてほしい。
……、でもリアルな巨大な肉の幹を見たら気持ち悪さで普通の人間は吐く。
それほどに気持ち悪いものだった。桜の木に抱きつく女学生は絵になるが、
肉の木に抱きつく女学生はただのゲテ物好きでしかない。
というかそれをやったら肉の木に喰われてお終いだろう。
もはや青春ものがスプラッタに変わっている。
まぁその肉の木が今回のような本物でなく隠語であった場合は青春ものが●春ものに変わってしまうだけの話なのだが。
今のパリスは植物系にとっては天敵と言っていい存在だ。
虫にして炎。
虫の嫌いな存在の詰め合わせギフトである。
このフレッシュミートビビッドチェリーがただの植物モンスターであればパリスの攻撃は有効であった。
低ランクの植物モンスターのように一瞬では黒焦げにならないであろうが、戦うまでもない結果が待っていたであろう。
しかしこのモンスターは瑞々しい肉の木でできている。
その身体は肉のような果実とも、喰らった獲物の肉を流用しているとも言われているのだ。
故に陸上性植物族でありながら火に強くできている。……というか肉の木って植物と呼んでいいのだろうか?
――――まぁそんな問題は置いていこう。
ちなみにパリスに言わせれば、
「うわ、グロっ!!……ていうか動けない肉の塊って周囲の肉食動物の格好のエサじゃね?」
―――ということになる。
事実進化前の最初期状態であるFランクのミートチェリーなどはその通りになっている。
しかしフレッシュミートビビッドチェリーは幾度かの進化を得てそこに存在する。
その意味は、もはやフレッシュミートビビッドチェリーは喰われるだけの存在ではないということだ。
でなければパリスに会う前に既に喰われ尽くしているはずだ。
巨大で、肉で、移動できないザコで中位ランクなど美味しい餌にも程があるからだ。
だからこそ逆に今なお存在しているという事実がこのフレッシュミートビビッドチェリーの攻撃能力、
迎撃能力、若しくはトラップ染みた何らかのスキルがあることがパリスの想定に存在した。
だから――――――――――――――――――――――周囲の木ごと燃やすことにした。
パリスはフレッシュミートチェリーには直接攻撃せず周囲を囲んでいる桜や他の木々に一つずつ火をつけた。
周囲の桜が燃やされてその花を散らし、燃える木々からはじける炎と混じり合ってまさに一斉散花といっても相応しい光景が、
そこに住む生き物達や植物達にとっては地獄ともいえる光景が作られた。
そんな地獄を作り出した張本虫は、
「やっぱ散ってこそ桜だよな?」
そういって風情ぶっている。
パリスの読んだ通り移動ができないことを除けば移動ができないにも拘らずランクC-もの実力を持つフレッシュミートチェリーは、
直接戦闘になればその能力を発揮できたかもしれないが、周囲の火事に巻き込まれ何もできずに燃えていった。
瑞々しいからだを持っていたとしても炎に包まれた中でその水分をいつまでも保っていられるはずはないのだ。
一応フレッシュミートビビッドチェリーの名誉の為に言っておくと何もできなかったのは結果論であり、
何かをしようとはしていたのだ。
幹の一つに急激に水分を集め膨らませた上で破裂させて水分をまき散らせたり、破裂した切れ口をホースのように水を放射して消火活動をしたり、
周囲の普通の桜に根を使って接続し、モンスター、ミートチェリーとして自らの眷属に書き換えてパリスを攻撃しようとしたのだ。
ただ、FランクのミートチェリーはFランクだけあって攻撃能力が低かったうえに、既に燃えている状態の桜がモンスターに変わったところで、
すぐ死亡してエネルギーの無駄遣いであった。
また、水を撒いて消火活動をしたことは、自身の水分を失い、周囲の火の手は収まってきたものの、逆に火属性に対する抵抗力が落ち、
水を撒いている反対側の方から引火してそのまま燃え尽きた。
……近くに水源でもあれば違ったのであろう。
地下水でもため池でも何でもよかった。そこに根の一部でも予め伸ばしていれば、その水源が枯れるまで無制限の水で消火活動ができた。
下手をすればパリスを追い詰めていたかもしれない。
だけどもそれはIFの話だ。
IFの過去の先に現実の今は無い。
結果として何もできずに燃えていった以上、フレッシュミートビビッドチェリーは無能以外の何物でもなかった。
物事は結局結果が全てなのである。
敢えてやったことを言えば、周囲の桜をモンスター化したことでパリスの糧を増やしたことぐらいであろうか?
パリスはスキル『擬態』『近似種眷属化』を手に入れた。




