第24話 ゾゾゾ……八鬼祭②
クラシックカーのエンジンが、低く唸るような音を立てて山道を登っていく。
黒塗りのボディに朝の木洩れ日がちらちらと反射し、どこか現実離れして見えた。
ふと、運転席のタイガと目が合う。
「あの、もしかして…」
「はい」
「……タイガも、許嫁とかいるの?」
「……はい」
少しの沈黙のあと、静かに返ってきた肯定の声。
「なんだよー。みんな、そうなんだな」
「なんだ? お前も許嫁ほしいのか? ガハハハ!」
じいちゃんが笑いながら、俺の膝をトンと軽く叩いてくる。
「いらないよっ!」
そう返しながらも、つい視線を窓の外に逸らした。
──彼女すらできたことねぇのに、許嫁なんて……ありえねぇだろ。
自嘲気味に、ひとつ息を吐く。
やがて車はカーブを抜け、視界がぱっと開けた。
石畳の広場に滑り込むように停車すると、目の前には朱塗りの鳥居。
色鮮やかに飾られた境内。その奥に、御社が静かに佇んでいた。
──いよいよ、八鬼祭が始まる。
「ショウーー!!」
正装に着替えたアキラとコハルが、駆け足でこちらへ向かってくる。
「おう」
軽く片手を上げて挨拶すると──
「なあ、お前もう東京に帰るんだろ?」
「まあな」
「ふん、せいせいするけどね!」
コハルがツンと腕を組んで、ぷいっと横を向く。
「こいつ、寂しさでいじけてんだよ。でも俺も同じ気持ち。」
ほんの数日だったのに、アキラやコハルとは自然と打ち解けていた。
ここじゃスマホも使えないから、連絡も取れなくなる。
──本当に、これでお別れなんだな。
胸が少し詰まる。
「なあ、ショウ! 文通しようぜ!」
「えっ? この村、郵便届くの?」
「当たり前でしょ!? バカにしてんの!?」
……まあ、確かに届かないほうがおかしいか。
住所を教え合うと、コハルはパッと笑顔になった。
「ショウ兄! 写真! 絶対現像して送ってね!」
──あっ、そうだ。データ、消えたんだった……
「なあ、もう一枚、三人で撮ろうぜ」
スマホを取り出し、インカメラを構えて──パシャリ。
アキラとコハルが、無邪気に喜びながら画面を覗き込む。
そのとき──
ゴーン……ゴーン……
境内に響いた鐘の音が、空気を震わせた。
場の喧騒が一瞬で静まり返る。
──ついに、儀式が始まる。




