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第12話 ゾゾゾ…次のターゲット

滝裏から出ると、太陽の光がまぶしくて、一瞬だけ目を細めた。


足元はまだぐっしょりと濡れていて、服が肌に貼り付く。


ツグミさんの言葉が、頭の奥でじわじわと残っていた。


八鬼祭なんて、最初はただのローカル伝承かと思ってたけど――

あの目は、冗談じゃなかった。


妙にリアルで、ちょっと……怖かったし。


「よし、まずは情報収集だ!」


そう言って、犬みたいに身体をブルブルっと振って水を弾き飛ばす。


ずぶ濡れのままだけど、今さら気にしても仕方がない。


作業場へ向かって歩き出す。


まだ組み上がっていない櫓の骨組みが、朝より少し高くなっていた。


木材を運ぶ音、トンカチの音、かけ声。


みんな、それぞれの役割に集中している。


「お、帰ってきたな!」


じいちゃんが丸太を担ぎながらニカッと笑う。


「お前、濡れネズミみたいになっとるぞ! 川にでも落ちたのか? ガハハ!」


「ま、そんなとこ……」


「ガハハ! 元気があってよろしい!」


「ショウタロウくん、おかえりなさーい」


ワシオさんがニコニコと、俺に乾いたタオルを差し出す。


「ありがとうございます!」


神だろ!!! ワシオさん!!!


「今日の作業はあと少しで終わりだって! 頑張ろうね!」


そう言って、ワシオさんが俺の頭をタオルでポンポンと拭いてくれる。


「は、はい!」


一生ついていきます! そんな言葉を続けそうになる。


「あ、ワシオさん……ワシオさんは、八鬼祭についてどう思ってるんですか?」


ふと、聞いてみた。


「うーん、そうだなあ……」


少しだけ空を見上げてから、優しい口調で続けた。


「僕は役目柄、商業品の買い付けで都会に出たりもするからね。

正直、どっちかが嘘の世界なんじゃないかって思ったりするよ。時々ね」


「そうなんですか……」


「そりゃね、だってショウタロウくんも感じてるだろ?

浮世離れしてるってさ……みんな、この村に“捕らわれて”るんだよ」


ワシオさんは、変わらずニコニコしている。


「でも、僕はこの村のほうが好きだよ」


「……はい」


「じゃ、そろそろ作業に戻ろうか!」


そう言って、ワシオさんはまた軽く俺の肩を叩いて、現場へ戻っていった。


……やっぱ、いい人だよな。


そう思いながら、俺もタオルで顔を拭いて、足を進めた。



しばらく作業を進めていると――


「今日の作業はここまでーっ!!」


じいちゃんの声が現場に響いた。


全身からふっと力が抜けて、その場にしゃがみ込む。


目の前にそびえる櫓を見上げると、骨組みはほとんど完成していた。


明日は幕や提灯を下げる、いよいよ本番直前の仕上げらしい。


「もう、動けない……!!!」


思わず叫んだそのとき――


「ショーウゥゥ!!!」


遠くから名前を叫びながら、勢いよく走ってくるやつがいた。


アキラだ。


汗だくで息を切らせながら、ニカッと笑って手を振ってくる。


「護衛、交代になったから終わったー!!」


「交代……? 護衛って、何守ってんの?」


「ん? ああ、あれあれ! 神社の奥にある“聖杯”!

大事な儀式で使うやつらしくてさ、昼夜交代で見張ってんだってよ!」


……聖杯?


なんだそれ、RPGかよ。


でも、心のどこかがピクリと反応した。


……その“聖杯”の中身を暴けば、

この儀式が本物か、分かるんじゃないか?


アキラはいつもの調子でペラペラしゃべってる。

そんな姿を見てると、ちょっとだけ罪悪感がわいた。


……なんか、騙してるみたいだな。


でも――やるしかない。


「なあ、アキラ。明日もまた護衛あるの?」


「うん! 朝に交代して、次はたぶん午後!」


「へー……」


(よし、交代の隙を狙って――社に忍び込むか)


次のターゲットは決まった。


“聖杯”。


 


アキラと別れて、タイガが車を回してくるのをぼんやり待っていると――

不意に、肩を“ツンツン”とつつかれる感覚がした。


振り返ると、そこに立っていたのは――


シズカさんだった。


「っ!」


思わず肩が跳ねる。


シズカさんは、にこっと笑いながら、俺の耳元にスッと顔を近づけてきた。


そして、小さな声で、囁くように――


「ねぇ……今日、祷り湖でツグミ様のこと覗いてたでしょ?」


ゾクリと背筋が冷える。


まさかバレてた……?


何か言い訳しなきゃ、と思った瞬間――


「うふふ、誰にも言わないわ。だけどね、

この村の“秘密”なんて、探ろうとしちゃダメよ」


ギクッと心臓が跳ねる。


シズカさんは、まるでそれが冗談でも言うように、柔らかく微笑んでいた。


「私、ショウタロウくんのこと、気に入ってるんだから……」


甘い花のような香りがふわっと漂ってきて、くらくらする。


「は、はい……」


咄嗟に頷くしかなかった。


「ふふ、いい子ね――チュッ」


「っつ!!??」


最後に、シズカさんは軽く音を立てて、俺の耳に口づけを落とした。


「それじゃ、またね」


ひらりと手を振って、くるりと背を向ける。


ほんの一瞬、肩越しに微笑むと、静かに歩き去っていった。


……いやいやいやいや、今の何!!??


俺は呆然としたまま、車のエンジン音が近づいてくるのを聞いていた。


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ドキドキするような展開がテンポよく続き、次を読むのが楽しみになります!
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