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第6話 ゾゾゾ……親父の過去②

宴が終わると、八家それぞれの使用人が迎えに来て、じいちゃんに頭を下げ、次々と帰宅していった。


梅さんとサクラが手際よく御膳を片付けていく。


はあー……マジで疲れた……。


どっと肩を落としたその時——。


「ショウタロウ様」


ふと、サクラに声を掛けられる。


「本日はお疲れ様でした。浴場へご案内します」


「ああ、ありがとう……」


風呂か……確かに、ずっと緊張しっぱなしだったし、汗もかいたし、ちょうどいいかもしれない。


しかし——。


「がはは!!!ショウタロウ!ワシと風呂へ行くぞ!」


突然、じいちゃんが豪快に肩を組んできた。


「うおっ!?」


思わずよろけるほどの勢いだ。


「サクラは梅を手伝ってやれ!」


そう言いながら、じいちゃんは青い面を二つサクラに手渡す。


サクラはそれを大事そうに受け取ると、静かに俺らを見送った。


じいちゃんと並んで、古びた木造の廊下を進む。


足元の板がギシギシと鳴り、天井の梁が闇に溶け込んでいる。

暗くて表情はよく見えないが、じいちゃんは妙に機嫌が良さそうだ。


俺はふと気になって、聞いてみる。


「ねえ、じいちゃん。この家ってさ、電気通ってないの?」


「通っとるぞ? マサアキに電話もしただろ! ガハハ!」


じいちゃんは豪快に笑った。


じゃあ、なんでこんなに薄暗いんだよ……。


壁にかかる古びた絵画や、静かに揺れる和紙の障子——。

ほのかな蝋燭の灯りが、ぼんやりとした影をつくっている。


まるで、時間が止まったみたいな空間だった。


——その時。


「ここだ!!!」


バシンーー!!!!


じいちゃんが勢いよく硝子戸を開けると、ふわりと湯気が立ち上る。


檜の香りが一気に鼻をくすぐり、ほのかに湿った温もりが肌にまとわりつく。


パンパンッ——


じいちゃんが手を叩くと、ぱっと天井の灯りがともる。

ぼんやりとした明かりが、広々とした浴場を照らし出した。


「……マジかよ……」


目の前に広がるのは、思っていた以上に立派な風呂だった。


床は磨き込まれた石畳、壁には湿気で少し色の変わった檜の板が並び、

奥にはどっしりとした大きな檜風呂が湯気を立てている。


「ほれ、電気が通ってると言ったろう! ガハハ!」


じいちゃんは豪快に笑いながら、手早く袴を脱ぎ、桶でざっと体を流すと、

迷いもなくザブンッと湯船に浸かった。


お湯が大きく波打ち、檜の浴槽に心地よい音を響かせる。


——俺はその光景を見つめたまま、しばらく動けなかった。


いや、確かに電気は通ってる……。


けど——ハイテクすぎやしないか?


壁に埋め込まれた照明が柔らかい光を放ち、湯気に包まれた空間をほのかに照らしている。

湯船の温度を一定に保つらしい小さな装置が、浴槽の隅で静かに動いていた。


さっきまでの時代がかった雰囲気はどこへ消えたんだ?


俺は戸惑いながら、じいちゃんが気持ちよさそうに湯に浸かる姿をぼんやりと眺めていた。


「ショウタロウも早く入れー!!!」


じいちゃんの声が響く。


「お、おう……!」


慌てて袴を脱ぎ、湯船へ向かった。


ザブンッ——!


湯に浸かった瞬間、全身がじんわりと温もりに包まれる。


「……きもちいー!!!!」


思わず声が漏れた。


「そうかそうか! ガハハ!!!」


じいちゃんは満足げに笑い、突然、俺の背中をバシバシッと豪快に叩く。


その勢いで水しぶきが上がり、浴槽の縁にバシャバシャと弾けた。


「ショウタロウは八鬼村に初めて来たから、驚いただろ!!!」


「イテテっ…驚いたってもんじゃないよ!恐怖だよ!!」


「ガハハ!! これからもっと怖いもんが見れるかもしれんな!」


——え?


俺が不安げにじいちゃんを見つめると、


「ガハハ!!! 冗談じゃ!!!」


じいちゃんは楽しそうに湯に肩まで浸かる。


じょ、冗談に聞こえないい……。


「今日はもう遅いから、明日にでもマサアキに電話してやらんとな! さぞ心配してるだろう!」


心配だと…???

心配してたら、俺を一人でここに放り込むかよ……。


俺はぼそりと心の中で突っ込む。


しばらく湯に浸かりながら、じいちゃんの様子を伺い——ふと、意を決して口を開いた。


「…親父さ……許嫁、いたんだろ?」


静かに湯船へ深く浸かりながら、じいちゃんを見上げる。


じいちゃんの動きがピタリと止まった。


「……ショウタロウ、それは誰から聞いた?」


「……アキラ。」


不味いこと言ったか?


そう思った瞬間——じいちゃんはふぅっと深いため息をついた。


「……そうだな。」


低く、どこか遠い声で呟く。


「許嫁は……おったわ。」


浴室に湯の波紋が静かに広がる。

じいちゃんの言葉が、妙に重く響いた。


——やっぱり、アキラの話は本当なんだ。


胸の奥がざわつき、思わず湯の中で指を握りしめる。


「……それって——」


俺が問いかけようとすると——。


「相手がいる話だからな……お前は知らんでいい話だ。」


じいちゃんは静かにそう言い、目を閉じた。


返す言葉が見つからない。

湯の表面に波紋が広がるだけで、俺もじいちゃんも、しばし沈黙する。


「——だが…」


じいちゃんがそっと口を開く。


「……マサアキを東京にやったことは、間違ってなかったと思ってる。」


え?


意外な言葉に、俺はじいちゃんを見上げた。


「ショウタロウやミナも生まれてきた。

それに——マサアキには己の人生を歩んでほしかった……。」


じいちゃんは、遠くを見るような目をしていた。


「本当は、この村の若者全員にも……」


言葉を切り、じいちゃんは静かに湯から上がる。


「……じいちゃん?」


思わず呼びかけるが、じいちゃんは振り向かずに手ぬぐいで顔を拭きながら笑った。


「お前は長旅で疲れてるだろ!ゆっくり浸かっとけ!

明日から祭りの準備だ! 忙しくなるぞ! ガハハ!!!」


そう言い残し、じいちゃんは軽快な足取りで浴場を後にした。


何なんだよ……。


俺は湯船に頭まで浸かってから、勢いよく立ち上がる。


その時——。


ガラッ


「ショウタロウ様、お着替えをお持ちしました。」


サクラが浴場の扉を開ける。


「うわああ!!!」


俺は慌てて湯に沈む。


「申し訳ありません。」


顔色ひとつ変えないサクラ。


クソー。


前情報もなんもよこさねーで、

明日は親父に文句ぶちまけてやる!


あと、カナタにも連絡しねえと……。


そんなことを考えながら、サクラが差し出した着替えに袖を通し、自室へ戻る。


布団に入ると、疲れがどっと押し寄せ、思考がぼんやりとする。


——気づけば、いつの間にか眠りについていた。


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