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第7話 ゾゾゾ…ばあちゃん登場!

ハァ、ハァ、ハァ――


誰かの手を引いて、俺は必死に森を駆けていた。

肩で息をしながら、倒れそうな足を無理やり前に出す。

後ろから何かが迫ってくる――


クソッ 逃げ切れない!


ーーー


「ショウタロウ様、朝です」


「うっうわあっ!」


のぞき込むサクラの顔に驚いて、布団の中で飛び起きた。


今の……なんだったんだ? 誰の手を引いてた……って夢…か。


「今日は儀式の練習のため、お社に向かいます。お支度をいたしますので、朝食をどうぞ」


サクラに急かされるように布団から起き上がると、

湯気の立つあたたかいタオルが差し出された。

それで顔を拭きながら、寝ぼけた頭を覚ます。


着替えを済ませ、サクラのあとを歩く。

長く伸びた廊下には朝陽が差し込み、

縁側からは、昨日とは別世界のような庭が見えた。


立派な石畳、艶やかに拭かれた廊下。

――ここ、本当に同じ家かよ。


ガラッ――


サクラに案内されて、広い土間に足を踏み入れる。

すでに奥の席では、じいちゃんが湯呑みを片手に飯を食っていた。


「おお、起きたか。飯が冷める前に食え!

がっはっは!」


ごはん茶碗を軽く持ち上げながら、いつもの豪快な笑い声。


「……あ、うん。」


ちょっと緊張して答える俺に、じいちゃんはニッと笑った。


板の間から一段下がったところには、朝食の膳がきちんと整えられていた。

炊きたての白米、湯気の立つ味噌汁、香ばしい焼き魚に漬物。

どれも素朴なはずなのに、どこか洗練された品がある。


「どうぞ、お召し上がりください」


サクラが静かに頭を下げた。


「……うわ、めっちゃうまそ……!」


思わずこぼれた一言に、じいちゃんがにやにやしていると――


バンッ!


突然、奥の障子が勢いよく開いた。


「ショウちゃあん!!?」


「えっ!?」


勢いよく飛び込んできたのは、色艶の残る白髪をふんわり結い上げたばあちゃんだった。

ゆるめの着物からちらりと襟元がのぞいていて、

年齢不詳の色っぽさに、思わず視線が泳ぐ。


「こぉ〜んなにおっきくなっちゃって……!

なによもう、すっかりイイ男じゃないの〜!」


「え、あ、あの、ちょっと……」


「ねえサクラ、昔この子ね、私のおっぱいに顔うずめて“ばあちゃんのおっぱい枕すき〜”って甘えてきたんだから〜」


「い、言ってないし!やめてってば、ばあちゃん!!」


顔が熱くなる。

じいちゃんは湯呑み片手に、肩をすくめてひとこと。


「こらハツ、朝から色気ふりまくんじゃねえよ」


「ええ〜、だって久しぶりなんだもん〜」


ばあちゃんはくすくす笑って、まるで若い娘のようにウインクしてきた。


「か、勘弁してよー……!」


俺は額にじっとり汗をかいて、飯どころじゃない。


いやマジで……この家、すげーわ。

じいちゃんもばあちゃんもキャラ濃すぎ。

俺の遺伝子にこんなの混ざってるとか、ほんと疑わしいって……。


ばあちゃんの奇襲を受けたあと、なんとか落ち着きを取り戻して、俺は飯をかき込む。



白米、味噌汁、魚の塩気。

どれもやたらうまくて、箸が止まらない。


その向かいでは、ばあちゃんがニコニコと俺を見つめていた。

まるで赤子でも見るような目で、俺の食べる様子をうっとりと観察してくる。


「うふふ。しっかり食べてて、えらいわあ〜。男の子は、いっぱい食べなきゃねえ〜」


「…ど、どうも…」


く、食いづらい……。


そのとき、じいちゃんが湯呑みを置いて口を開いた。


「今日は儀式の予行練習もあるがな。

櫓も立てるから、お前も手伝え」


「……えっ!?肉体労働まであるの!?」


まじで聞いてないんだけど。


「親父め……絶対あとで文句言ってやる……!」


朝からテンションの上下が激しすぎて、胃袋は満たされたのに、心のHPが削られていくばかりだ…。


じいちゃんが湯呑みに口をつけながら、ぽつりと言った。


「そうだな。マサアキも心配してる頃だろ。

飯食ったら、一度連絡してやれ」


「……え? ここ、電波あるの!?」


「がっはっは!ほとんど通じんよ。

だが、八幡さんのはからいでな。

何年か前、小規模な中継アンテナを建ったんだ。

一応、通話だけはなんとか通る場所がある」


「……ネットは?」


「インターネットは無理だ。

回線が細くメールもまともに送れん。

通話くらいが限界だろうな。

もともと“連絡用”として設置されたものだからな!がっはっは!」


「そっか……」


俺は思わずスマホを取り出してみたけど、画面には容赦なく【圏外】の二文字が浮かんでいた。


「場所は限られてるが、北側の石段を登ったあたりで少し通じる。

まあ、風が強けりゃ繋がらんこともあるがな。試してみろ」


俺は飯をかきこんで、味噌汁を一気にすすった。

よし、腹は満たされた。


「カナタにも連絡しないと……それに、親父にも文句言っとかないとな」


そう呟いて、俺はスマホを握って立ち上がる。


「お、やる気出たか!ガハハ!」


じいちゃんが笑う。


玄関へ向かうと、後ろからサクラがさっとついてこようとする。


「大丈夫、ちょっと散策がてら電波探してくるだけだから!」


手をひらひらさせて静止する。

サクラは頭を下げ一歩下がる。


「北の石段を登った先、社の裏手あたりが通じる。

お社のすぐ近くだ。終わったらそのまま合流しろ。予行練習が始まる」


じいちゃんが玄関まで見送りにくる。


「了解〜」


俺は玄関の戸を開けた。

目的地は“北の石段”――お社のすぐ裏手。

まずは、電波を探しに歩き出すとしよう。



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