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第1話:ハラペコ転生

 


「好きな料理を……好きなだけ作って……食べたかった……」



 私はベッドに寝かされたまま、ぼんやりと最期の時を迎えていた。


 口には酸素吸入器が付けられ、身体は管だらけ。

 病室の隅に積みあがっている料理の本も、もう二度と手に取ることはできない。

 心電図の波形が徐々にフラットに近づいていき、隣に座った医者が眉間のしわを深める。


 少し離れたところでは父と母が泣いている。

 ごめんね、せっかく生んで育ててくれたのに、身体が弱くて。

 小さいころから育ててくれて、本当にありがとう。


 親への気持ち、この世界への気持ち、たくさんある。

 でも最後の瞬間、白い天井を見つめて思ったのは。



 最後に一度でいいから。

 とんこつラーメンを食べてから、死にたかった……。



 心電図がピーっとお湯の沸くような音を立てたのと、私が目を閉じるのは、どちらが先だったのだろう。

 私、御厨アイリは、生まれつきの持病により、25歳の短い生涯を終えた。






 ……のはずだったんだけど。




■□■



 気づけば真っ白な空間にいた。

 それはさながら冷蔵庫から出したてのはんぺんのように、真っ白で、ひやりとした空間だった。


 ――ここは……。


『御厨アイリ。20歳。食と料理への並々ならぬ情熱と執着を抱いたまま死ぬ。

生前、スマホでプレイをしていた『デリシャス・デリシアーナ』ゲーム内の最高ランキングは10位。得意料理はB級料理……

B級料理なんだ!? ゲーム内ではS級A級料理の方が『美味しさポイント』が高かったよね?


 ――だってB級の方が美味しいからですよ!

ゴールデンポテトをを切って揚げたフライドポテトとか、豚ドラゴンの背油たっぷりの豚ドラ骨ラーメンとか……。


というか、あなたもしかして運営の人ですか?

ゲーム内でのポイント格付けにはいまだに納得いってないんですよね!

たしかにフランス料理とか和食とか中華料理とか、手順を押さえて時間をかけて作る本格料理の方が大変なのはわかります。


でも、料理の美味しさってそういうのじゃないですよね!?

プレイヤーである私が何を食べたいか、がすべてじゃないですか!?



『うおっ、ちょっと落ち着いて。まあたしかに大した情熱だ。ちなみにB級料理って……実際、美味しい?』


 ――現実世界でも美味しかったですよ!

ポテトはざくっとホクホク。ラーメンはこってり濃厚。ああ、食べたくなってきた……。


『もう一度食べたい?』


 ――そうですね、もう5年も食べてないし。

高校生までは割と健康だったんですが、

だんだん持病が重くなって、途中から胃ろうになっちゃったんですよね。

代わりにデリデリにハマってやりこんでいたんですが……

やっぱりちゃんとガッツリ食べたいな。ニンニクとチャーシューマシマシでね!


こう見えて私、料理上手なんで、自作もけっこう美味しいんですよ。

もしも会うことがあったら、ごちそうしてあげますね!


『……ふうん、けっこう優しいね。それにガッツも元気もある。

なるほど、これなら……この世界も救ってくれそうだね』


 ――えっ?


『御厨アイリ。いや、アイリ・ミクリャ。このデリシアーナ世界の食の聖女となり、どうかその知識と料理への情熱で……飢えて滅びかけのこの世界を……救って……』


 その瞬間、私は光に包まれた。



■□■

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