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愛した君は、怪物だった  作者: 三月うみ
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8.怪物が人間に戻る時

 ずんずんと森の中を進むライヤに、フィールとルナは声を掛けられずにいた。お互いに目くばせをして、何とか会話のきっかけを作ろうとしたが、ライヤは2人を見ようとしない。

 ルナの家の前に着くと、ライヤはようやく2人の手を離し、深く頭を下げた。


 「すまない、2人を巻き込んだ。」


 その姿を見たルナがライヤに歩み寄り、その頭に全力の手刀をくらわせた。ライヤが思わず顔を上げると、そこには涙目でライヤを見つめる2人の姿があった。手刀を収めたルナが聞いたこともない大声を上げる。


 「何を言っているんですか! ライヤさんがあの時闘ってくれなかったら、また新たな怪物が生まれるところでした! それもフィールさんが怪物になるところだったんですよ! ライヤさんは私とフィールさんの命の恩人です。そうですよね?」


 ルナがフィールに同意を求めると、フィールは目元の涙を拭ってライヤの肩をつかんだ。


 「そうっすよ、ライヤさん。俺だってなりたくて怪物になるとか言ったわけじゃないっす。どうしようもなくなって、誰かを怪物にするくらいならっていう思いから言ったんす。でも怖かった。ルナちゃんみたいな怪物になれればいいけど、俺が暴走したらと思ったら気が気じゃなかったっすよ。」


 思いがけず優しい言葉を掛けられたライヤは、涙が頬を伝うのを感じた。


 「で、でも! 俺は勝手に2人を“悪”にした! これからどんなことだってできる2人を勝手に…!」


 「何言ってるっすか、ライヤさん。3人でいればこれからどんな風にだって未来を変えていけるっす。この町に居づらければ町を出てもいい。そのためにはまずルナちゃんを人間に戻してあげるっす!」


 フィールが勝手にライヤのポケットを探り、試験管を取り出した。

 試験官の中の黄色の液体は、怪物になる薬とは正反対の色をしている。


 「はい、ルナちゃん!」


 フィールから試験管を手渡されたルナは、決心したようにふたを開け、一気に飲み干した。

 しばらくその状態で立ち尽くしていたルナが急にのど元を押さえ苦しみだした。そしてルナの体から白い煙のようなものが出始めた。


 「ルナ! 大丈夫か!」


 慌ててライヤがルナの肩を支えると、ルナは顔をゆがめながらも笑顔を見せた。


 「ええ…、だいじょうぶ…です。見てください、腕の毛が徐々になくなっていっています…!」


 ひとしきり煙が出終わると、そこには1人の少女が立っていた。

 真っ黒で艶のある髪は肩のあたりで揺れている。ぱっちりとした二重の目が印象的な整った顔立ち。全身透き通るような白さを感じられる。そして肌の白さにも負けない白いワンピースを身にまとっていた。人間に戻ったルナは今まで見たどんな少女よりも美しいとライヤとフィールは感じていた。


 「ライヤさん、フィールさん…! 私、人間の姿に戻っています! 本当ですよね? 嘘とか夢じゃないですよね?」


 大粒の涙を流しながらルナが2人に問いかける。ライヤがそっとルナを抱きしめ、頭を撫でながらつぶやいた。


 「ああ、現実だ。」


 「そうっすよ、治療薬の効果抜群っすね!」


 2人にそう告げられ、ルナの泣き声はより一層大きくなった。ルナが泣き止むまでライヤとフィールは頭を撫で、2人は顔を見合わせて笑った。


◆◆◆


 その後、研究所で起こった事件は所長がうまくごまかしたようで、「ライヤとフィールは新たな研究をするため研究所を辞めた」ということになっているらしい。3人も事件後は町へ降りておらず、町の人も特に気にした様子ではなかったようだった。

 ライヤとフィールの話題も少し落ち着いてきた頃のこと、森の中のルナの家でライヤとフィールは向かい合ってお茶を飲んでいた。


 「なーんか、所長の掌で転がされている気はするんすけど、まあいいっすよね!」


 「気にするな。あの人とはどこまでも相容れないようだからな。それよりもう出発の時間だ。ルナ、準備はできたか?」


 3人は北の地域に引っ越すことを決め、今日はその出発の日だった。朝からばたばたと準備をしていたルナにライヤが声をかけると、奥の部屋からおずおずとルナが出てきた。


 「あの、どうでしょうか…。」


 部屋から出てきたルナはいつも着ていた白いワンピースではなく、白いブラウスにライトイエローのスカートというふんわりとした服装だった。

 思わず見とれていたライヤを見たフィールが、にやにやとしながら口に手を当てる。


 「ライヤさん、見とれてたっすね?」


 「…いや、その通りだよ。ルナ、綺麗だな。」


 てっきりライヤが照れ隠しをすると踏んでいたフィールとルナは、思わぬ誉め言葉に2人で赤面してしまった。


 「いや、なんでフィールも赤面してるんだ!」


 「き、気にしないでくださいっす! ライヤさんがそんなに素直に誉めると思ってなかっただけっす!」


 そんな2人のやり取りを見ていたルナが小さく笑い、その後満面の笑みを浮かべた。


 「さあ、行きましょう! 私たちの新たな未来に向けて、北の地へ!」

最後までご覧いただきありがとうございます。

もし少しでもいいなと思っていただけたら、評価やブックマークをしていただけると幸いです。

楽しんでいただけたらなによりです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ルナとライヤとフィールが心を通わせる描写が素敵でした。 また、ルナとライヤの為にフィールが覚悟を決めるところが切なく胸がギュッとなりました。 とても素敵な物語でした!
[良い点] ∀・)とても素敵なイセコイ譚です。読みやすくて、またキャラクターの個性もそれぞれに光るつよさがありましたね。個人的に特筆しておきたいのはフィール、ライヤ、ルナそれぞれが置き去りになることな…
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