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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第七話 呑気な道のり

「いっつもロナには助けられてるよねー。ロナだけでほとんど野営の準備が終わっちゃうし」

「だな。んで立ち回りは後ろからの援護、まぁ魔術師らしい動きだな」


 和やかに話す二人の後ろで再び音を立てて扉が開く。

 けど話すのに夢中で気づいていないようだ。

 

「あと攻撃というよりは敵の妨害の方を好んでしてるな。性格の悪いアイツらしい手だぜ」

「誰の性格が悪いって?」

「ロナ! いつからそこに!?」

「いつからでしょうね」


 突然声をかけられてアレックスさんは大慌てだ。

 ミュリエルさんはそれを見て声に出さずに笑っている。

 どうやらこれはありふれた日常の一コマらしい。


「はぁ、もういいわ。ミュー、ロウル、ソ、ソラクリア、おはよう」

「おはよー、今日は早めだね」

「おはようパウロナさん」

「きゅー!」


 ソラの挨拶を受けてパウロナさんはふらっとよろめいた。

 どうやら本当に好きらしい。

 だからと言ってほだされて触れる許可を出したりなんかしないけど。

 むしろ近づくのにも制限を設けたくなってきたけど。

 でもそれはソラが本気で嫌がるまでは我慢かな。


「ああそうだ、ミュー、ロナ。準備が終わったらすぐ出るぞ」

「りょーかい」

「わかったわ。追っ手のいる街に長居したくはないものね」


 




 その後一時間もしないうちに、僕たちはその街を出た。

 

 待ち伏せされているかとも思ったけど警戒網はだいぶ甘くて門を通るのはとても簡単だった。

 今まで街の中で三人の追っ手を見たことはなかったし、きっとこの街に着いたばかりだったんだろう。


 僕の方はちょっと危なかったけど、だてに今まで逃げ隠れし続けてきたわけじゃない。すれ違った程度なら気付かれない自信がある。彼らは今ごろ()()()()()()()()()()()()()()を追いかけまわしている。


 つまり結果を言えば無事に外へ出ることができた。

 急遽馬車や馬を用意することはできなかったので徒歩ではあるけど、今は追っ手のいない街道を気楽に東へと進んでいる。


「そうだ、そういえばなんだけどさ」

「あー、あははー。二人のあれに大した理由なんてないから気にしなくていいよー」

「うん、それも気になるんだけどそうじゃなくてね」


 最初は五人で歩いていたのに、いつの間にかアレックスさんとパウロナさんが喧嘩しながらずんずんと前に行ってしまっていた。

 けれど僕が気になっているのはそこではなかった。


「この後ってどの街に寄るつもりなの?」


 そうなんて事ないように聞いたそれが、僕が今一番聞きたいこと。


「んーそうだねー。急に飛び出してきちゃったから次の街で色々調達して、その後二つの街は中に入らず通り過ぎるかなー?」

「二つってそんな距離一日でいけるの?」


 聞かずとも分かっている。

 行けるはずがない。

 でも彼らにはそうしたい理由があるのだ。

 それもわかる。


「うーん、行けないから途中で野営することになるかもねー。でもさー、あまりいい噂を聞かないから都市の中には行きたくないんだよねー」

「その噂って?」

「えっとねー、なんかその領は帝国の諜報部を担っててその遂行のためには手段を問わないって噂。まあ本当なら噂になるはずないんだけどちょっと気になっちゃってねー」

「へー、そんな噂があるんだ」


 その噂は事実だ。

 少なくとも数年前はそうだった。

 僕はそれを知っていた。


 しかしおかしなことがある。

 その噂自体は彼も聞いたことがあるので知っているのだけど、以前それを聞いたのは普通の市民からだ。

 今は何か事情を抱えているにせよ探索者からだ。


 それはつまり、信じているかどうかは置いておいても帝国の諜報部だなんてことが市民の間にまで普通に流れているということ。


「それじゃあいかない方がいいね。僕もミュリエルさんたちも追われているわけだし」

「そうだねー。あ、でも通り過ぎた後の都市には一週間くらいいるつもりだから、そこまで頑張ってねー」

「うん、わかったよ」


 でもその噂のことは、そこまで気にするほどのことでもない。

 何らかの思惑があるにせよ、隠れているからこそ強い諜報部が表に出てきてしまっているんだ。

 足かせがついてしまっている分動きも制限される。


「んー、そろそろ止めた方がいいかなー」

「……あれだけ熱くなるのもよくあることなの?」

「珍しいけどー、ないわけじゃないかなー」


 こうして話しているうちに、アレックスさんとパウロナさんはさらに先の方まで行ってしまっていた。

 なぜだか今は走っているようだ。

 今は平野だからいいけどもう少しすれば狭い道になる。

 そうなると何かあっても気づくことができなくなってしまう。

 ミュリエルさんはそれを危惧しているみたい。


「ねーロウル君。走れる?」

「えっと」


 多分厳しいと背負う荷物の一つを目で示した。それだけでわかってくれたらしい。


「きゅ……」

「あはは、おねむみたいだねー。早起きだったし、しょうがないか―」


 ソラがこぼした幸せそうな寝言だけで僕は幸せになる。

 僕の背中で安心して眠ってくれているというのは、ソラから信頼されているということに違いないから。


「んー、それなら一緒にゆっくり行こっかー。アレクとロナは強いし、あたしと君は足が速いもんねー。なんとかなるかー」


 そう言ってミュリエルさんはぐぐぐっと大きく伸びをした。

 一緒にのんびり行くことにしたらしい。

 もしかしたら僕の護衛も兼ねているのかも。

 思えば僕のできることについて詳しく話してないし。


「あ、そうだー。二つの街を通り過ぎたその奥の都市、何が一番有名か知ってるー?」

「確か、歌だったっけ?」

「おー、半分正解。数年前まではそうだったけど、今は新しい名物ができてるんだよー」

「そうなんだ。それってどんなの?」

「それはねー、なんと――」


 和やかに時間は過ぎていく。途中でソラも起きてきて、楽しそうに話を聞き始める。


 そうして夕方になる頃、結局最後までパウロナさんとアレックスさんに追いつくことなく目的としていた街メナベに到着するのだった。

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