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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第二章 仮面の内側
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第十一話 命令に従うだけの操り人形

 それからいくつもの“仮面”が剥がれ落ち、それでもまだ戦いは続いていた。


 けれど戦いへほとんど思考は割かない。

 ゴブリンは人より体が小さい分、刃の短いナイフでも十分致命傷を与えられる。

 考えずとも倒せる。

 だから今は思考のほとんどを敵の考察へと向けていた。


 ゴブリンは単体だと弱いが集団だと厄介。

 けれどそれはBランク探索者が苦戦するほどではない。

 探索者はSが最高ランクだが、Sランクは少し特殊なので実質的な最高ランクはAだ。

 つまりBは上から二つ目のランク。

 三人組もそのランク。


 五人と一匹は都市についてすぐこのダンジョンに侵入した。

 故に体調も武器や防具の手入れも万全ではなかった。

 また二人と一匹の足手まといを連れていた。

 けれどそんな状況であってもゴブリン程度なら鎧袖一触のはず。

 ここまで苦戦したのは別の理由があると推測できる。


 しかし苦戦していたとしても、ある程度のリスクと魔物行進を許容し消耗を考えず行動すれば、脱出は不可能ではなかったはず。

 だから囮になろうとする“仮面”の行動は早計なものだった。

 それに自身の生存を考えるのならば一人外に逃げるのが最善だ。

 あの時の仮面の能力でもそれぐらいのことは可能だった。


 しかしそうしなかったのは“仮面”が見捨てたくないとおかしな考え方をしてしまったから。

 生き残れ、それが()()。それ以外は全て優先度が一段階落ちる、その知識はどの“仮面”であっても保持していた。

 なぜそんな行動をとったのか知識からでは推測不能。


 ただ、せっかく“仮面”がそんな行動をとったのだから四人と一匹には――


「うん?」


 願わくば、なんだというのか。

 そんな疑問を覚えた。

 そして疑問を覚えた自分にもまた、疑問を覚えた。


 命令に従うのに感情なんていらない。

 願望だっていらない。

 感情も願望も“仮面(偽物)”さえあれば騙すには充分。

 むしろそちらの方が便利。

 造られた感情(それ)であれば思うままに操れる。


 そしてこんなことを考えるのもまた命令をこなすのには無駄だ。

 追い詰められた原因や判断ミスの理由を追求するのは、生き残るという命令を達成するために重要。

 けれど今更当然のことを考えるのは余計な思考領域を割くだけで、それはこの思考もまた同様。


「すぅ、はぁ」


 深呼吸をすればゴブリンのすえた臭いが肺の中に充満した。

 けれど感情が動くことはない。

 どこまでいっても結局その感情は偽物でしかないのだから。


「この身は道具。ただ命令をこなすだけの道具。意思など在らず、心など在らず、故に人に非ず」


 周りを見回す。

 目に入ったゴブリンはことごとくが怯えていた。

 魔物の感情を読む技術が錆び付いていなければ間違いない。


 ……“仮面”で封じて使わない内にさび付いた技術があるかもしれない。

 特に奥底に封じていて長い間使用していないものほどその可能性がある。

 早めに確認しておいたほうがいい。


「『物に気配はなく(クリープイン)』」


 闇の魔力で自分を包み込む。

 途端にゴブリンの視線が定まらなくなった。

 この魔術は自分の気配を薄れさせる。

 見えていれば効果はないが、一度視界から外れればもう一度捉えるのが難しくなる。

 対集団だと特に有効。敵が勝手に障害物となってくれる。


「……」


 音を立てず次々と急所にナイフを突き立てていく。

 なかなか良いペース、だが所詮一度に一匹。

 数えきれないほどいる相手には効果が薄い。


「『全てが敵になる(イリュージョン)』」


 だから手を増やす。

 ゴブリンの頭に触れて魔術を発動させれば、そのゴブリンはほかのゴブリンを攻撃し始める。

 ゴブリンをそれ以外にも見えるようにしているだけだが、知能が低いならこれで騙されてくれる。


「……」


 そうしながらも隙を見てナイフを突き立てるのは止めない。

 しかし。


 カランと音を立てて刃が地面に跳ねる。

 ナイフが折れたようだ。

 だが問題はない。


「『この手を刃に(ウィンドエッジ)』」


 敵を叩くその瞬間発生させた風の刃は、ナイフと遜色なく敵を斬り裂いていく。

 この風の刃は飛ばせない。

 空気のような不定形なものの鋭さを遠くで維持するには莫大な魔力が必要となってしまう。

 だから近づいて斬る。

 結局のところナイフとやっていることは変わらず、数を減らす速度は変わっていない。

 だからもう二手うつ。


「『その刃は長く(エクステンション)』」


 風の刃のナイフと異なっている点。

 風の刃は劣化しない。

 血に濡れても刃は錆びない。

 風の刃は重さがない。

 長さを伸ばしてもそれは変わらず、自由自在に操れる。

 長さを伸ばすほど加速度的に魔力を消費するけれど、飛ばすのよりも圧倒的に少ない消費で済む。

 風の刃は斬り裂く抵抗が自分の手に伝わらない。

 纏わせているだけで持っていないから。

 抵抗を感じないからどんな敵でもどれだけの量でも力を使わず同じように斬り裂くことができる。

 斬り裂けないのなら霧散してしまうけれど、ゴブリン程度なら問題ない。


 これでより速く数を減らせる。

 しかしこれでもまだ全て自分の手の届く範囲の話。


「『精巧な操り人形(サモンダーク)』」


 だから闇を呼び出した。

 『サモンダーク』はいくつか前の“仮面”も使っている魔術だ。

 けれどその時とは性能が違う。


 召喚したそれらは多種多様な人間の姿をしている。

 身長も性別も見た目の年齢もそれぞれ異なっている。

 ただの闇の塊ではない。

 それらは目の前の敵に腕を振り下ろすだけの木偶人形ではない。

 全て手動(マニュアル)操作の操り人形。

 詠唱は同じでもその実態は複数の魔術の組み合わせだ。

 それらの手は敵を通りぬけはしない。

 実体を持たせている。

 別の魔術によって後から付け加えた効果。


 風の刃は自身から遠いところで操ろうとすると魔力の消費量が爆増する。

 それは魔術全ての共通原理。

 けれど操り人形は遠いところで活動している。

 それは召喚系の魔術の特徴で、呼び出すときに魔力を消費すればあとはその魔力で存在を維持してくれる。


 けれどそれだけでは手動(マニュアル)操作をする際に魔力を多く消費してしまう。

 そこは別の魔術で補っている。

 小規模でも結構な魔力を消費する魔術だが、それなしに遠隔操作するのと比べればかなり少ない消費量で済む。


 その人形の行動を一斉に開始させた。

 それらは人のように見えても本質が闇の塊であることに変わりはない。

 殴られても斬られても気にせず死兵のように襲いかかっていく。

 武器が近くに落ちているならそれを拾わせ、数が減ったなら補充し、ゴブリンを殲滅していく。

 自分自身が動くことも忘れない。


 これだけ大きく魔術を使っていれば魔力も相応に消費する。

 しかし“仮面”に封じていた効率の良い魔力の使い方を思い出したおかげでまだ余裕がある。

 封じるだけの理由がある魔術だけど人の目がないのなら関係ない。

 自身が狩るペースも問題ない。

 操り人形の操作にだいぶ思考を割いているものの、体の制御は疎かになっていない。

 問題なし。


 今のところどの技術も封じる前に劣っていない。

 他にもしばらく使っていない技術はあるが、今ですらゴブリン程度には過剰だ。

 これ以上体力と魔力というリソースを消費するのはもったいない。

 であればあとはと、一旦確認をやめてゴブリン狩りへ集中し始めた。

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