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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第二章 仮面の内側
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第十話 変わりゆく仮面

「で、今度は俺の番ってわけか」


 近くにいたゴブリンの首を掴んで振り回す。

 数匹がそれで吹き飛ばされた。

 手に持つゴブリンはすでに息絶えている。

 それを持ち上げ、逆に曲げて背骨を折る。

 そのまま首を追って適当にうち捨てた。


 戦闘狂の“仮面”を作ったのは俺だ。

 俺だが、戦うことが嫌いなわけではない。

 だからこんなことだって躊躇なくできる。

 無論死体を壊すのが好きなわけでもない。

 ただこうして尊厳を貶めてやれば俺のことを畏怖して動きを鈍らせてくれるのだ。

 やらない理由はない。

 いわば戦いは俺にとって仕事だ。


「どうした! かかってこないのか!」


 構えられた槍を避け、叫びながら距離を詰める。

 目の前に迫ったゴブリンの顔は恐怖で歪んでいるように見えた。

 ゴブリンの表情なんかまともに読み取れないので九割方憶測だが。


「おら!」


 その顔面を全力で殴りつけて後ろのゴブリンにぶつける。

 衝撃で握りが緩くなった槍を奪い取って二匹丸ごと串刺しにする、つもりだったが先が丸まっているせいで二匹目の途中で止まってしまった。

 まあどっちでも変わらない。

 横に振って隣のゴブリンを殴打しつつ刺さっているのを抜いて、後ろの方めがけて投擲した。


 一つ前のやつが武器を扱えたんだから、その“仮面”を造った俺だって当然武器を扱える。


「こっちの方がいい」


 掴み、蹴り、殴る。

 こうした肉弾戦の方が俺には馴染んでいる。


 俺という“仮面”が造られたのは理不尽な暴力の中でも抵抗し生き残るためだ。

 あそこでは自分より弱いものをいたぶる行為がごく当然のように行われていた。

 それも大人の男によって。

 そんな状況では、向こうが武器を持っていたとしても俺に武器が与えられることはない。

 だから体格も力も上の相手に武器なしで抵抗するしかなかった。


「抵抗しなければいずれ飽きてやめてくれる」なんて意見もあるだろう。

 だがそれは命を奪われる可能性はないのならばだ。

 殺してもいいやという気持ちで襲ってくる相手に抵抗しなければそこで息絶えるだけだった。

 だからこうして無手で戦うことが一番馴染んでるのだ。


「まあ馴染んでるのと一番使えるのとは別の話なんだがな!」


 横から振られたこん棒を受け流し上から掴んで奪い取る。

 そうして逆に持ったまま持ち手の部分で喉を突き、持ち直して別の方から伸びてきた手を叩き落す。

 そのまま肩を殴打。


 今の俺は武器の扱いについてであれば全ての知識や経験が残っている。

 一切封じられていない。

 だからどんな武器でも扱えるとそういうことができる。


 もちろん使ったことのない武器はある。

 けれどナイフを扱えるならダガーもなんとなく扱えるように、他の武器を扱えるなら扱えるようになるものも多い。

 そして俺が扱える武器は幅広い。

 どんな状況でも殺せるようにと様々な武器の扱い方を教え込まれている。


 だから()()()()()()()()()()()。全ての武器をそれなりに扱うことができる。


「つまり、こういうこともできるってわけだ!」


 こん棒を投げつけ、ひるんでいるところに近づいて手鎌を奪い取る。

 それでとどめを刺しつつ柄の部分で武器を受け止める。

 棒の先に石が括り付けられた武器で、なんて言うんだったか、とげがあるのならばモーニングスターと呼ばれていたはずなんだが。


 まあともかくそれを柄で受け止め、ミシリと嫌な音が聞こえてきた。

 即座に手鎌を捨て、その打撃武器をゴブリンの手の上から無理矢理握り逆側に振る。

 綺麗に頭に命中し倒れていくところからしっかりと打撃武器を奪い取る。


 様々な武器が扱えるのなら、こうして武器を補充しながら戦うことができるのだ。

 武器というのは消耗品である。

 手入れや修繕で寿命を伸ばせるものの使い続ければ大抵は壊れる。

 壊れないのは希少な鉱石を使って作られていたり魔剣や魔槍などの特殊な性質を持つ武器だけ。

 そんなものは持っていないのでこうして交換しながら戦っているわけだ。

 この戦い方だと迷いなく投げて使うことができるというのも大きな利点だ。


「まあやっぱり無手がしっくりくんのはどうしようもないよな」


 もう自由に武器を使えるのだから無手で戦うことによる利点は薄い。

 もしこのまま俺が戦い続けることがあれば矯正していただろうが、どうせ俺もここで終わりなんだ。

 戦いやすいように戦ってやるさ。


「なんて言ってるとお出ましだ」


 上位種のゴブリン三体と特殊個体のゴブリン四体の姿が見えた。

 上位種と特殊個体は集団の前の方に多く存在していたから、数が増えてきたということはそれだけゴブリンの数を減らせているということだ。


「まあこっからさらに強い奴が増えるって訳なんだが、上等じゃねえか。全部返り討ちにしてやればいい」


 だがどうやって距離を詰めるか、魔力は……まだ完全には回復しきっていない。

 使ってもいいが、この後さらに厳しい戦いになることを考えるとこの程度の相手は魔術なしで倒したいところだ。


「だったらまあ順当に行くか」


 その場で全方位迎え撃つのではなく、進みたい方向の敵を倒して一歩づつ進んでいく。

 近づきたいのならそちらへと歩けばいい、障害物があるのならどければいい、ただそれだけの単純なことだ。


 怪我一つなく、一定の速度で、雑魚ゴブリンを蹴散らしながら近づいてくる俺を見てそいつらはどう思ったのだろうか。

 さっきも言った通りゴブリンの表情なんて読めないのだが、でもまあ。


「なんとなく、ビビってるようには見えるよな」


 数の上では一対七で、それも全員雑魚ではない。

 さらに言えばほとんど役に立たないとはいえ肉壁くらいにはなる雑魚ゴブリンどもが大量に。

 普通に考えれば有利な状況だと思うところだろうに、萎縮しちゃってありがたい限りだ。


 いや、良い嗅覚だと褒めてやるべきかもしれない。

 あの程度の奴らに負ける気は微塵もしていないからな。


 なんて、また慢心してしまってる。

 これがあるから“仮面”を造ることになったっていうのに、全く懲りないな。

 けどこれも今更矯正する意味はない。

 どうせもうすぐ俺という“仮面”も壊れるんだから。


「なんて言ってると、もう目の前だ」


 すぐに俺とそいつらの間の壁はなくなった。

 もう後ろの空間は新たに流れ込んできた雑魚で埋まってるけど下がるつもりはない。


「ほらよっと!」


 近くのゴブリンは残念ながら武器を持ってなかった。

 なのでゴブリンをぶん投げた。

 さっきの言葉は撤回だ、周りの雑魚ゴブリンは肉壁ではなく武器を提供してくれるありがたい奴らである。こっちにとって。


 投げたゴブリンは上位種の一体に受け止められた。

 特殊個体の四匹は上位種三匹に隠れるようにしている。

 後衛型の特殊個体なのか。

 まあ関係ないな。


「どちらにせよ倒すだけだ。関係ない」


 投げた死体を陰にして上位個体に近づく。

 だが動き出しが遅かったこともあってすでにこちらを見られている。

 それでも関係ないと殴る――ふりをして横を通り抜けた。

 俺は正面から戦うことにこだわってない。


「先にお前らだがな」


 走る勢いも乗せて特殊個体のうちの一体を殴りつける。

 それだけで容易くノックアウトした。

 やはり後衛型は脆いみたいだ。


 関係ない、というのはもちろん噓だ。

 そういう情報を基にして戦いを構築するのだから、相手の動きが関係ないはずがない。

 なのになぜ、というのは癖だからとしか言いようがない。

 嘘で相手を混乱させればより有利に戦うことができる。

 だから言葉の通じないゴブリンでも以前と同じようにやってしまったというそれだけの理由だ。


「『gya gyagyagya gya』」

「おっと」


  どうやら魔術が使えたようだ。

 隣のゴブリンが手元に堅そうな石の球を作り出している。

 飛んで来たら痛そうだ。


「ありがとな」


 だから貰った。

 その石の球を掴み取って振り上げ、下から顎をぶち抜く。


 別に発動途中の魔術を邪魔してはいけないなんてルールはない。

 魔術には魔術で対抗しなくてはならないなんてルールもない。

 目の前で敵がわざわざ武器になりそうなものを作ってくれているんだ、そりゃあ貰うだろう。


 そんな石の球だがもうお役御免だ、一歩奥にいるゴブリンが同じように魔術を使おうとしていたのでそいつにぶん投げてやった。

 結果、クリーンヒット。

 特殊個体は後一体のみ、なんだけど流石に上位個体のうち二匹が守りに入っていた。


「でもまあ、問題ないな」


 今度もまた殴る振りをして横に潜り込む。

 けど今回は目隠しもない状況だ。

 当然止められた、のも想定内。

 姿勢を落として足を手前に引いてやった。

 バランスを崩しているところからなまくらの剣だけ奪い取って胴体を強く押す。


 俺から特殊個体のゴブリンを守るよう立っていたんだから、後ろに倒れれば巻き込むことになる。

 で、特殊個体は後衛型で力では劣っているのだから、大柄の上位個体を支え切れるわけがない。

 てことで無力化成功、あんたらは後だ。


 振り返りざま、後ろからの攻撃をその剣で弾き飛ばす。

 さっき横を通り抜けた上位個体だ。

 こいつは飛んできたゴブリンを受け止めた時、武器を落としたのを確認している。

 なので今叩いたのはゴブリンの手であり、その手首がおかしな方向に曲がっていた。


「ふむ、よいしょ」


 その手を取ってさらに曲げてやった。

 痛みで悶絶しゴロゴロと転がっている。

 もう一体無力化。


「『gya gyagyagya gya』」


 再び詠唱らしきものが聞こえてきた。

 また土の球だ。それが飛んでくる。


 ので今度は唯一無事な上位個体の手を取って引っ張った。

 そいつは特殊個体を守るようにして立っていたやつで、今も側にいた。

 それを射線上に引っ張ってきたのだ。


「うわ、痛そう。ご愁傷さま」


 至近距離から背中に石の球を受けて思いっきりエビぞりになっている。

 ゴキリという嫌な音も聞こえてきた。

 これでまた無力化。

 あと一匹は魔術を使ったばかりで何もできない特殊個体のみ。当然すぐに沈黙。


 あとは無力化した奴らにとどめを刺し、それで終わりだ。

 これでまた雑魚ゴブリン狩りに戻ることになる。


「まあそれで構わないんだけどな。俺は戦闘狂じゃない」


 けどこれからどんどん上位種と特殊個体がやってくるペースは早くなる。

 俺と俺の造った“仮面”が逆だったらあいつは大喜びだっただろうな、なんて有り得ないことを考えつつ手近なゴブリンを殴りつけた。

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