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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第二章 仮面の内側
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第八話 崩壊

 どんどんと落ちていく。

 その途中でも僕は変わらず冷静だった

 。といっても時間にしたら数秒の出来事だったけど。


「『湖風(ウィンド)』」


 飛び降りてすぐ、水面へと魔術を放った。

 自分の真下を中心に周りへとふく風。

 それが湖面に浮くゴブリンの死体をどけて水面を見せてくれる。


 そして。

 バチャンと大きな音を立ててながらも無事に着水した。


「ぷはぁ……急がないと」


 でもゆっくりしている時間はない。

 服が濡れて体が重くなってしまっているけど、そんなことは気にせず陸の方へ泳いでいく。

 どうやら地底湖は落とし穴よりも大きかったようで、陸地まではそこそこ距離がある。


 もっと早く泳がないと、と思うその横でまた水面が大きな音を立てた。

 今度はバチャンではなくバンと打ち付けるような音だ。

 それを皮切りにして同じ音が次々と続く。

 ゴブリンが降ってきたんだ。


「はぁーー」


 大きく息を吸って。


「…………」


 水中に潜った。


 相手がゴブリンたちなら数が多くてもそう簡単に負けはしない。

 でもそれは普通に戦ったらの場合だ。

 上から降ってきたゴブリンが直撃するなんてことがあったらひとたまりもない。

 深く潜っておけばそんなこともなくなるはずだ。




 ゴブリンたちが落ちてくる音はそれからも絶え間なく続いた。

 当然僕のすぐ近くに落ちてくることもあった。

 けどある程度進んで落とし穴の範囲から出ればそれもなくなり、だからといって安全とは言えなかった。


「「gya! gya!」」


 瘴気を感じ取ったゴブリンどもが水際で騒いでいたからだ。

 僕が上がってくるのを今か今かと待ち構えている。

 それならそれでいい。

 どうせすべて倒す以外に道はない。

 けどちょっと意外だ。

 瘴気で狂っていても泳げないなら水の中に飛び込んでくることはないらしい。

 穴から飛び降りるのと水に入るのは何が違うのか。


「すぅー、はぁー」


 ようやく地面に足が着いた。

 まだ顔がギリギリ出るくらいの深さだけど、だからこそゴブリンたちは喧しく騒ぎ立てるだけで近づいてこない。

 いったん深呼吸で息を落ち着かせる。


「おっと」


 石が飛んできた。

 ずっとゆっくりしているってわけにはいかないようだ。

 今はいないようだけど魔術を使えるゴブリンがやってきたら余計に面倒くさいことになりそう。


「ならその前に数を減らしておくしかない」


 服を脱いで体を軽くするか迷ったけど、いくらゴブリンとはいえこの集団に防具なしで挑むのは無謀すぎる。

 今着ているのは要所要所に皮で裏打ちされた厚手の服で、ゴブリン程度の攻撃であればそれでも結構頼りになる。


「それにどうせ血でぬれたら重くなる」


 返り血を避けている余裕なんてまずないだろうから、重くなるのが少し早まっただけとでも思っておけばいい。


「じゃあやろう」


 一歩二歩前へ歩いて――即座に加速、ゴブリンの眼前へ。

 左手に持ったナイフで躊躇なくその首を掻きっ斬る。


「「ggyagya!?」」


  振りぬいたそのままその先にいるゴブリンも斬り、一歩踏み込んでその奥のゴブリンの胸を一突き。


「はっ、と」


 突き刺したのはそのまま、空いた右手で近くにあったゴブリンの手を引っ張った。

 そのまま引き倒し踏んづけながらナイフを抜く。

 ゴキリと骨の折れる感触が伝わってきた。


「よっ」


 踏んづけたゴブリンを超えてその奥のゴブリンを右こぶしで殴りつける、と同時に左から振るわれた錆びたナイフを服の革の部分で受け止める。

 反撃で肘を打ち込み、浅かったからナイフでとどめ。


 これだけやればゴブリンの知能でも怯えが現れる。()()()()

 当然今は普通じゃない。

 瘴気はずっと左手から溢れ続けている。

 その左手を振り回しながら戦っているんだからさぞや魔物にとっていい臭いがふりまかれているだろう……瘴気に臭いってあるんだろうか。


「おっと」


 そんなどうでもいいこと考えている暇はなかった。


 別の角度から突き出された腕を掴み、僕を挟んで反対側のゴブリンへとその手にある刃をお届けだ。


「いいぞ、もっと来いよ」


 心の、いや“仮面”の奥から溢れ出した言葉が口をついて出る。

 本格的に“僕”は剝がれはじめたようだ。

 騙し騙しやってきていた分きっと崩壊は早い。


 でもそれでよかった。すぐに壊れてくれるのならみんなへの情を忘れていく自分を認識しないで済むと思うから。

 いや、みんなと言ってもソラは別だ。

 ソラへの情はひとつ下の自分も持っているということを()()()()()


 それも結局のところ“仮面”なんだからすぐに崩壊するんだけど。

 その時には僕という“仮面”を造った責任を取ってせいぜい苦しめばいい、なんて思ってしまって苦笑する。そっちも自分であることには変わりない。

 結局苦しむのは自分だ。


「でもまあ“自分”と“僕”が同じだとはどうしても思えないんだけどね」


 “自分”になれば、“僕”が抱いている情はただの知識となるらしい。

 それもまた思い出した。

 そして“仮面”が剝がれることなくこの場を乗り切れることもないのだと実感した。


「まあ、もういいんだけどね」


 もう、僕という“仮面”は崩壊するということは覚悟の上で落とし穴に飛び降りた。

 だから別れの言葉も告げたし、アイリスとソラのことをアレックスさんたち三人にお願いしてきた。

 お人よしの三人のことだ、まず間違いなく二人の面倒を見るだろう。


 ならもう思い残すことはない。そうだろう?


 そんな自分への問いには答えを返すことができなかった。

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