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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第二章 仮面の内側
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第四話 嵐の前の静けさ

 休憩を終えた僕たちは再び奥を目指して進んでいた。

 今のところ魔物の出る頻度は広場につく前と変わっていない。

 普通のダンジョンより少し少ない程度だ。


「これはやっぱり勘違いだったってことなのかな?」

「そう、だと思うよ」


 僕は罠を解除しながら答えた。

 もし大量の魔物がここを通っているのなら罠が作動していないとおかしい。

 ダンジョン内では死体も消えるし罠も元通りになるけど、それにはある程度時間がかかる。

 監視員はあんなに焦って報告しにきていて、僕らはそれを知ってすぐにやってきた。

 まだ罠が再設置されるまでの時間は経っていないはずだ。


「んー、まあそうだよねー」


 でもミュリエルさんは違和感を感じているようだ。

 かく言う僕もそう。

 この状況に違和感を感じていた。


「どうしたのよミュー、何かあるの?」

「えっとねー、魔物暴走(スタンピード)が勘違いだとしてもー、それと見間違えるような魔物の集団なんて見てないなーって」

「確かにそうね」


 異常が起きてないとしても、そう勘違いしてしまうだけの集団は存在したはず。

 でもそれなりに奥に進んできて未だそんな集団は見ていない。


「僕も気になっていることがあるんだけどさ、さっきから作動済みの罠が一つもないんだよね」

「えっと、それは、だめ、なんですか?」

「いや、駄目じゃないけど。でも罠で減ってないのにこれだけしか魔物がいないんだなって」


 罠が発動していて、魔物の集団がいないのならまだわかる。

 ダンジョンの罠に一網打尽にされてしまったんだろう。

 けれど罠が動いていないのに魔物も少ないのは少し気にかかる。


「まあ僕らが向かってない場所の罠に引っ掛かってる可能性もあるけどね」

「私の違和感もねー、それで解決しちゃうくらいの話だしねー。出てきそうだったから数を減らしておいたとかそういうのもあるしー」


 僕らの感じている違和感なんてそんな少しの理由で解決してしまうようなものだ。

 でも間違いなく僕らはそれを違和感として感じ取っていた。


「でも警戒すんのに越したことはないな。こっからはもっと慎重に行くぞ」


 そしてそれは僕らにとって警戒するのに足る理由になる。

 この数か月で僕らはお互いのことがよりわかるようになった。

 三人は僕の感覚が信用できるものだって知ってるし、僕もミュリエルさんの感覚に信頼を置いている。


「あ、角の先からゴブリンが来たよー。さっきと同じー」


 ちょっと気を張りながら、見張りをしていたミュリエルさんが呼びかけてきた。

 さっきと同じということはゴブリン三匹の集団ということだろう。


 ダンジョンに入ってからの戦闘は、すべて語るところが無いものだった。

 なにせ数が少ないせいで僕とミュリエルさんが不意打ちをすればそれで終わってしまうんだ。

 戦闘というよりただの狩りである。

 獲物は特に使える素材のないゴブリンであるけども。


 また僕らの不意打ちで終わらせようと機会を待っていると、ちょっといいかとアレックスさんに止められた。


「どうしたの?」


 いやな、とアレックスさんは大剣を抜いた。


「まだダンジョンに入ってから一度も戦ってないからな。足場とか武器の取り回しとか色々確認する為にもここは俺一人でやらせてくれねぇか」

「僕はいいけど、ミュリエルさんは?」

「私もいいよー」

「おう、あんがとよ」


 というわけでアレックスさんだけでゴブリンを迎え撃つことになった

 。僕は念のため武器をしまわないままで待機しておく。


「ちょっと、私も何もしてないのだけど」

「なら次出てきたらお前の番だ。ここは俺だけでやる」

「私は魔術士よ。当然ゴブリン程度一人でもやれるのだけれど、パーティなんだから連携しないと意味ないでしょう?」

「もう来るからな、その話は後だ」

「まったく」


 二人はいつものように言い争っていて、でも気は抜いていなかった。

 アレックスさんの目は前だけを向いていてゴブリンが角から出てくるのを今か今かと待っている。


 そして出てきたゴブリンはアレックスさんを見つけて指を指した。


「gya! gya!」


  最初の一匹に続いて他の二匹も騒ぎ出す。


 ゴブリンを一言で表すなら緑色をした二足歩行の小さな怪物だ。

 二足歩行ということから人もどきと呼ばれることもあるけど、見てくれは似ても似つかない。

 手に持つ武器は個体によっても異なるけど大抵は木の棒やなまくらの武器など。

 斬ることもできず、殴打も膂力が低いこともあって脅威にならない。

 それでも数がそろえば万が一もあるのだが、たったの三匹だけでは負けようがなかった。


「行くぞ」


 そう一言発し、アレックスさんは駆けた。大剣を構え革とはいえ体の大部分を鎧で覆っているとは思えない動きだ。その動きにゴブリンたちはついていけない。


「ハッ!」


 まず右から横なぎの一撃。

 先頭にいたゴブリンが吹き飛んだ。

 それに意識を向けずもう一歩踏み込んで今度は左からの薙ぎ払い。

 アレックスさんは右利きだから左からの二撃目は一撃目より威力が出ていない。

 しかしそんなでもゴブリンを二匹まとめて吹き飛ばし壁に叩きつけるには十分だった。

 叩きつけられ動けなくなった所にとどめを刺し、それで終了だ。


「よし、結構動けてんな」

「むしろ動けなかったら問題だよ、Bランク探索者さん」


 探索者はFから始まりAとその上のSで終わる。

 ただSランクだけは通常の区分に縛られないことを考えるとBランクは上から二つ目だ。

 この程度の悪環境でゴブリンから傷を受けるようであれば到底至ることができないランクだ。


「それもそうだな」


 まあともかく戦えることはわかったからこれから俺に任せとけというアレックスさんは、いやいや体力温存しといてよと僕とミュリエルさんに言われてすごすごと引き下がった。

 それを笑いながら僕たちは先へ進み始めた。






 そうしてしばらく進み、今度は大きな地底湖へとたどり着いた。

 今は一旦ここで待機して、先へ偵察に行ったミュリエルさんが帰ってくるのを待っている。


「でも、結局ここまで異変なんてなかったね」

「だな、つってもおかしいとは思ったんだろ。なんかあるはずだ」


 しかしそうは言っても今のところ問題ない。

 変わらず罠は一つも作動していないけどそれだけだ。


「けど私もおかしいと思うところはなかったわよ」

「えと、もっと、よく、見ます!」


 そんな気を張らなくてもいいよなんて言っていつものようにアイリスの頭を撫でる。

 そしたらソラも頭を差し出してきて、そっちも優しくなでてあげる。


 なんていうふうに和やかに過ごしていると、先の道からミュリエルさんが帰ってきた。


「ただいまー。この先は敵も罠も見当たらなかったよー」

「つーことはあれか?」

「そうだねー、最深部だけだよー」


 最深部、探索者の間ではボス部屋とも言われる場所だ。

 ダンジョンコアを守るためなのか一番奥には強い魔物が存在していて、それをボスと呼ぶからボス部屋と呼ばれている。


「でもあれだろ、このダンジョンのボスなら雑魚だろ」


 このダンジョンで僕らが戦ったのはゴブリンだけだ。

 ボスはそのダンジョンに出てくる魔物の同種が出てくると言われているから多分ここのボスもゴブリン。

 それなら簡単に倒せると思う。


「ならボスを倒して、異変はありませんでしたって報告するのが一番いいのかな」

「そうね、隅から隅まで見ていないのに異変はなかったとも言えないのだし、コアを破壊してダンジョンを消すのが手っ取り早いわ」

「まあ、嫌われてるダンジョンらしいからねー。消しても問題ないよー」


 僕もそれがいいと思う。

 僕らの後に誰かが入って魔物暴走(スタンピード)が確認されるようなことがあれば面倒だ。

 でも、とアイリスの様子を伺う。


「アイリス、大丈夫?」


 アイリスも旅を続けて大分体力がついてきた。

 けど僕らやアレックスさんたち三人とは比べるべくもない。

 こうした洞窟を下り続けることはほとんどなかったし少し心配だ。

 下り坂を降りるというのは案外体力を使うものなのだから。


「大丈夫、です。頑張れます」

「ならいいんだけど、何かあったら言ってね」

「は、い」

「ソラも大丈夫?」

「きゅ」


 大丈夫と。

 まあソラは疲れたら袋に入ってもらっているからそこまで心配していない。


「んじゃあ行くぞ。ロウル、アイリス、ソラクリア。お前らもいいか?」


 各々それに返事をして、僕らは最深部へ向かっていった。

 相変わらず感じ続けている違和感は勘違いだと自分を納得させて。

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