第二話 脅威であり宝の山でもある
ダンジョン、それは人類にとっての脅威。
ダンジョンはあらゆるところに出現する。
魔物と同じで人がいる場所には発生しにくいというのはあるようだけど、逆に言えば人がいないなら森でも廃墟でも海でも川でも谷底でも山でもどこでだって出現する。
出現して内部で魔物を生み出し、やがて決壊するようにその魔物の集団が外へ溢れ出してくる。
魔物暴走と呼ばれている現象だ。
そんなダンジョンは、その中に存在する核を取り除くことでしか排除することができない。
だから魔物の発生を抑制するためには、邪魔をする魔物を蹴散らし奥へと進む必要があるんだ。
ダンジョン、それは探索者にとっては宝の山。
探索者ギルドは魔物を狩り人を守ることを至上の目的としている。
魔物の巣窟であるダンジョンの攻略もまたしかり。
そんなダンジョンはどこにでも出現して、その内部構造はそれぞれ違う。
ダンジョンの駆除は最初騎士の仕事だった。
けど国を守るために訓練された騎士はその国の環境での活躍が主だ。
そんな騎士にとって広さも大きさも環境も異なる場所での戦闘は不得手だし、そもそもダンジョンの入り口が厳しい環境にあれば向かうことも難しい。
そのための部隊も存在しているけど、国家に所属している分誰でもいいということはなくどうしても人材は限られてしまう。
その隙を埋めるために作られたのが探索者だ。
探索者は最低限の規律を保てば後は自由だ。
どんな依頼を受けてもいい。誰と組んでもいい。
だから彼らは自分の得意な環境のダンジョンに挑む。
そのダンジョンにあった編成や人数で挑む。
そういう意味でも彼らは自由である。
そしてダンジョンに現れる魔物の残した素材の中には高値が付くものも多く存在している。
先も言った通りダンジョンの環境はそれぞれ違い、出現する魔物も当然それぞれ違う。
その中には普段人が踏み込むことができない領域に存在する魔物も多くいる。
そんな魔物がダンジョンの力によっていくらでも出現する。
お金を稼げないわけがない。
僕らもその方法でお金を稼ごうとしている。
「えと、つまり、ダンジョンは危険、なんですか」
「そうだね、今言ったことをひっくり返せば定石なんてないから臨機応変に対応しなきゃ危ないってことでもあるんだし」
「あの、あそこから、魔物が出てくることは、あるんですか?」
「管理されてなければあったかもね」
頑丈に囲まれているその中にはとても大きなダンジョンが存在している。
未だかつて誰も一番奥に到達したことのないダンジョンだ。
もしそこから魔物が溢れるようなことがあればこの都市にまで被害が出るだろう。
「でも常に見張りが置かれているし、沢山の探索者が中に入っていってるからね。出てくることはまずないんじゃないかな」
「えと、ダンジョンは、そこだけ、なんですか」
「いや、小さい規模のダンジョンは結構な頻度で発生してるから、都市の外にはほかのダンジョンもあるよ。ただある程度の大きさになれば全部見張りが置いてあるから問題は――」
「ちょっとどいてくれ!」
ぱっと横に避ければ一人の男性が謝りながら走り抜けていった。
その腕には緑の腕章が巻き付けられている。
「ない、はずだったんだけどね」
あの緑の腕章には見覚えがある。
「あれってそのダンジョン監視員の腕章よね」
「そうだねー。間違いないよー」
「つーことは、何か問題があったってこったな」
そういう三人の足はすでに監視員を追っていた。
また首を突っ込むつもりのようだ。
「……ダンジョンに行く準備はできてるの?」
「おうよ、俺らはいつでも戦えるようにしてあるぜ」
ダンジョン監視員が急いで問題を報告するのだからそれは十中八九ダンジョンについてだ。
戦えないと話にならない。
本当ならそんな風に首を突っ込むのは止めたかったんだけど、彼ら三人が止まらないのはもう十分承知している。
だったらアイリスとソラだけでもとも思ったけど、ソラは興味津々で監視員が去っていった方を見ているし、アイリスも早く成長したいとついて行きたがるだろう。
なら僕も行くしかない。
「僕も大丈夫。ソラは?」
「きゅ!」
「元気そうだね。アイリスの分も僕が管理してるからそっちも大丈夫」
そもそも二人の準備が足りないならそれは管理している僕の責任だ。
確認するのは元気があるかどうかだけ。
で、問題なかったからやる気のある二人を止めることもできない。
一応問題があるとすれば、僕らもアレックスさんたち三人も戦える準備ができているとはいえそれは本当に最低限だということ。
武器や道具の手入れも旅中でできるようなものだけだし、減った物資の買い足しも都市についたばかりじゃできてるわけがない。
でも戦えないわけじゃない。
無理やりにでも止めるには理由が薄かった。
そして僕らは頑丈そうな建物、の横に建つ大きな建物へと入った。
ここがこの都市の探索者ギルドだ。
ダンジョンのそばにあった方が便利だからとここに立てられたらしい。
奥のカウンターで先ほど男が何やら報告をしているのが見える。
と、報告を受けていた受付が立ち上がった。
「探索者のみなさん、緊急クエストを発行します! 場所は南東の洞窟ダンジョン、罠解除が可能なパーティのみ募集しています! 向かうことのできる方はカウンターまでお越しください!」
そう聞いて迷いなく進んでいくアレックスさんたち。
でも僕ら以外の探索者は渋い顔をしたまま動こうとしない。
耳をそばだててみれば誰もかれもが行きたくないといったことを話していた。
どうやら気が向かない場所のようだ。
これは探索者が自由であるからこその問題点。
探索者ギルドは所属している地域に危機が迫る場合でない限り、強制的に依頼を受けさせることができない。
だから不人気なダンジョンで異常が発生した場合はどうしても対応が遅れてしまう。
お人よしの探索者がいない場合、と注釈がつくけれど。
「なあ、俺らはこの都市についたばっかなんだがそれでも大丈夫か? ああ、これが登録証だ」
「ええ、可能です。では先に詳細をお話させていただきますね」
受付の人曰く、今回問題になっているダンジョンは一週間前に発生した、罠が多く魔物が弱いという特徴のダンジョンなんだそうだ。
規模はそこまで大きくなくて悪辣な罠もないそうだけど、少し前大きなダンジョンで異常が見つかった結果、現在はそちらに人手が割かれているらしい。
人が減って不人気なダンジョンを攻略する人がいなくなり、その結果の魔物暴走だ。
で、魔物と罠が増えたから求めているのは動けてそこそこ実力もあり罠解除ができるパーティだそうだ。
残念ながら当てはまってしまう。
他にも向かうパーティはと周りを見てみるけど、そもそも精力的に活動しているパーティはこんな時間にギルドにいない。
今のところ僕らだけのようだ。
「確認が取れました。パーティは三人組とのことですが」
「こっちも仲間だ。ただどっちもギルドに登録はしてなくてな」
じっと、受付の人は僕とアイリスを見つめてきた。
目を逸らさずその目を見つめ返す。
……なるほど、どうやらこの人は僕らみたいな子供が使いつぶされないか心配らしい。
「わかりました。依頼を登録します。……規約を違反された場合はこちらから人員を出すことになります。お忘れないよう」
「わかってるさ、破るような真似はしねぇよ」
ギルドの規約には、登録していない一般人と行動を共にする場合その命に責任を持つことという曖昧な一文が存在する。
それはギルドが探索者と一般人両方を守るために作った規約だ。
もし連れて行かれるのが新人であっても探索者としての登録をしているのならギルドは大手を振って介入することができる。
しかし一般人が相手だとそうできないことも多い。
だから探索者には一般人を守らせたいのだけど、物事に絶対はない。
守り切れないこともあり得る。
だからそんな探索者全てを裁いていたらきりがないし、ギルドの本音としては無力なものを無理に守って強い探索者が失われることは避けたい。
そのため、その時々で判断できるようわざと曖昧な条文になっているんだ。
「登録完了しました。それではご武運を」
お辞儀をする受付の人に僕らはそれぞれ言葉を返す。
そして南東にあるという洞窟のダンジョンに向かうのだった。
都市に入ってまたすぐ外に出るとか、せわしないにもほどがあるよね。




