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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第二章 仮面の内側
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第一話 新たな都市

 それからまた僕らは旅をつづけた。

 いくつもの都市を通り過ぎ、いくらかの問題を解決した。

 お人よしの三人が一緒だから自ら問題に飛び込んでいくような感じだったけど、どれもこれもそこまで苦労なく解決できるようなものばかりだった。


 でもそんな問題であっても、アイリスにとっては価値のある挑戦だったらしい。

 解決していく中でどんどんと変わっていった。

 それには足手まといになりたくないという思いと、そのせいで傷つけたくないという思い、見捨てられたくないという思い、あとうぬぼれじゃなければ僕への心配が関わっているんじゃないかと思っている。


 何もできず見捨てられたくないというのは最初からずっとあった。

 でも治癒魔術を中途半端とはいえ成功させた後ぐらいから変わりはじめた。

 自分にもできることがあるとわかったことで焦りは鳴りを潜めて、失敗しないようにと落ち着きを見せるようになってきている。


 しかしだんだんと共に在ることに馴染んできて見捨てられたくないとより強く思うようになったのか、一人になると今までよりも不安定になるようになってしまった。

 しかも一番馴染んでいる僕とソラがしばらくはなれると、それは余計悪化してしまうみたいだ。

 どうやら僕が罠で傷を負った時に「見捨てられなくても死んでしまえばいなくなる」ということに気づいたらしい。

 見えない場所にいるともう戻ってこないんじゃないかと不安で仕方なくなるんだとか。


 そんな色々な思いから、アイリスはある種狂気的と言ってもいいほどに魔術の勉強をするようになった。

 そうしてのめり込むことはあまり良いことではないと思っているけど、彼女のそばには常に僕らがいる。やり過ぎているようだったら強制的に止めているから今のところは問題ない。


 それにその勉強によって彼女はある程度魔術言語を覚えて扱えるようになっていた。

 まだマーチさんから買った本は手放せそうにないけど、よく使ういくつかの魔術ならそらんじて発動できるようになっている。だから止めにくいっていうのもある。


 ただその魔術がすべて水属性なのはちょっと困ったところだ。

 アイリスは自分の髪色が魔術を使うことによって変わると理解している。

 だから安心できる色、つまりソラと同じ水色にしていたいらしい。

 灰色でも良かったようだけど、残念ながら灰色になるのはアイリスが覚えている魔術の中にはない。


 あ、そういえばミュリエルさんがアイリスとソラに出した問題にも、パウロナさんとアレックスの恋事情にも全く進展がない。

 アイリスもソラも二人が両想いだってことに気づく様子はないし、パウロナさんとアレックスさんは互いにいつも通り軽口をたたき合い、たまに見とれて様子をおかしくしている。

 まあ気長に待つしかなさそうだ。






 そうして色んな事情で旅路を遅らせながら進み続けて数か月。

 気温が下がり暑さがだいぶましになってきた頃、そして三人は逃げている途中だという自覚があるんだろうかと本格的に僕が悩み始めた頃、ようやく僕らは帝国東南部のとある都市に到着した。


「ようやくついたわね」

「おう、大分路銀も心もとなくなってたからな。ここらでしっかりと稼いでやろうぜ」

「あくまでー、安全第一にねー」


 以前僕らは文芸都市スールゴードに一週間ほど滞在した。

 それ以降の都市や町の滞在期間は長くても三日であった。

 ……自然の中で夜を越した回数なら数え切れないけど。

 しかし今回の都市には短くても一か月は滞在する予定だ。

 それは先ほどアレックスさんが言った路銀が理由。


 端的に言えば、お金が無くなってきた。

 今までは足取りを追われないようギルドの利用なども最低限にして来た。さらにお人よしな彼らは相手がお金に困っていると報酬を受け取ろうとしなかった。

 けどそれでも旅できるだけのお金はあった。

 僕については……おいておくとして、アレックスさんたちはB級探索者だ。

 命をチップにお金を稼ぐ探索者の稼ぎはかなり高く、それのB級ともなればなおさら。

 けどそんな彼らでも、まともに稼がず旅を続けていたことでそろそろ底をつきかけているらしい。

 だからこの都市で一気に稼ぐんだとか。


 この都市には、そうして一気に稼ぐための手段があった。

 それも強ければ強いほど稼げる額が増えるような手段。


「ほらあそこだ、見えるか?」


 都市に入ってしばらく進み、見えてきた頑丈そうな建物をアレックスさんは指さした。

 一階建ての平べったい建物だ。

 そこには様々な人が出入りしていた。

 剣を携えた男性、槍を背中に背負った女性。

 杖を持つ男性と戦槌を持つ女性。年齢も体格も武器も多種多様で、でも皆が皆戦うための格好だ。


「久しぶりに見たけど、相変わらず大人気なんだね」

「まあ、ここはとても大きいもの」


 これだけ多くの人がいても、その全てを収めて余りあるスペースがその建物の中に広がっている。

 しかもそれでさえ全体のごく一部でしかない。


「あれ、ロウル君ってここ知ってるんだー」

「うん、小さな頃に連れてこられたことがあるんだ」


 その時は中に入ることはなかったけど。

 いくら無理を押し通す力があろうとも、その力に縛られにくい探索者にまで影響を及ぼすのは難しかったようだ。

 ……いつからだろう、いつの間にかこうして昔のことを当たり前のように思い出せるようになってしまっていた。

 それを当然と受け入れるようになってしまっていた。

 “仮面”で封じている間はそんなことあり得ないはずなのに。


「えっと、その、ここは、なんなの、ですか?」

「きゅ!」


 アイリスが疑問を述べて、それにソラが同意した。

 僕らの中で一番知識がないのはアイリスとソラだ。

 アイリスは最初の頃、分からないことがあっても聞くことはなかった。

 遠慮して聞こうとすらしなかった。


 それが今ではこんな風に聞いてくれている。

 僕らのことを頼ってもいい存在だと思ってくれているようだ。

 だから僕はできるだけその信頼にこたえていきたい。


「あそこはダンジョンを囲っている建物。そしてダンジョンっていうのは異界に広がる魔物の巣窟で、魔物が大量に発生する場所。そんなダンジョンを都市の中心部に抱えるこの都市は通称ダンジョン都市。ダンジョン都市スフィアと呼ばれているよ」

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