第四話 簡単な自己紹介
「で、仲良くなったところでだ」
男は申し訳なさそうにしながら僕の手を離す。
そんなすぐに警戒を解いてもいいのだろうか。
「どうしたの?」
「いやなぁ、お前とそこの子の名前を聞いてなかったと思ってな」
「そ、そういえばそうね。この子は、その、なんていう名前なのかしら」
「ロナ、落ち着いて落ち着いてー」
ロナと呼ばれている女性はよろよろとソラへ向けてその手を伸ばしていた。
どうやらそこまでソラに惹かれているようだ。
そうして惹かれるのは理解できる。
僕からしたらソラは1番大事な存在である。
「確かに自己紹介してなかったね。僕はロウル。それと、おいで」
「きゅー」
だからといって触れてもいいなんて言わないけど。
それを決めるのは僕じゃないし。
少し呼びかければそれだけでソラは元気よく寄ってきてくれる。
この子の全てが嬉しさにつながる。
抱き上げればさらにはしゃいで、それだけでさらに嬉しくなる。
「この子はソラクリアだよ」
「俺はアレックス、見てわかる通り剣士だ」
「私はミュリエル、斥候だよー」
「私はパウロナ、魔術師ね。それで、その……」
パウロナさんが何かを言いたそうにしていた。
とはいえ何が言いたいのかは想像できる。
「ロナはねー、その子を撫でさせて欲しいんだって」
「ちょっとミュー!?」
まあそういうことだ。
けどそれは僕に聞くことではない。
「どうしたい、ソラ」
「きゅー? きゅ!」
ソラはプイッと顔を背けて彼の腕の間に顔をうずめた。
どうやら嫌なようだ。
「なら駄目。ソラを撫でていいのは僕だけってことで」
腕の中に見えるその頭を優しく撫でてあげればきゅ〜っととろけたような声が聞こえて来る。
「そ、そんな」
パウロナさんは膝をついた。
けどソラが気をゆるしてるのは僕だけって考えるとどうしたって笑みはこぼれてしまう。
それがパウロナさんに火をつけたらしい。
「わかった、わかったわよ。それならロウル、ソラクリア、絶対に私たちの仲間になりなさい。そして……」
「そしてどうする気だ、ロナ」
「もちろんソラクリアと仲良くなって撫でさせてもらうのよ!」
大声で宣言するのはいいんだけど、うるさかったのかソラは腕の中に深く顔をうずめた。
少なくともたった今さらにソラとパウロナさんは遠ざかったみたいだ。
「ははは、まあがんばってね。それでアレックスさん、この後どうするのかは決まってるの?」
僕としてはソラが幸せになるならばパウロナさんと仲良くなったって構わない。
僕だけに気を許しているというのは嬉しいけれどソラの幸せの前にはそんなこと些事だ。
「おう、とりあえずこっか帝国の東の端までまっすぐ行って、んでそっから北だ。最終的には帝国から出るのが目的だな。行きたい場所があるなら考えるがどうだ?」
「えっと……」
今僕たちがいるセパリオン帝国はこの大陸の居住可能領域のうち南部の三分の一ほどの国土を有する大帝国で、今いる街はその帝国の南西に位置している。
だから国から出るには北か北東に真っ直ぐ進むのが速いはずだ。
なのに彼らはそれをしない。
「それってどこの国に行くつもりなの?」
「とりあえずはグロウス王国だな。それ以降はまたそん時に考える」
グロウス王国は帝国の北東の端と接しており、国土は小さいものの色々と特殊なところがある、そんな国だ。
けれどその国に向かうには帝国中央にある帝都を通って行った方が圧倒的に短い。
何か帝都に近寄りたくない事情でもあるのか。
そんなふうに色々考えているけれど、それを表には決して出さない。
きっとアレックスさんからすると今の僕はただどうしようか悩んでいるだけの少年に見えるはずだ。
「それじゃあ帝都の貴族街って寄れるかな?」
「あー帝都の貴族街か。寄れなくはないが……」
「ああいいよいいよ、とりあえず言ってみただけでそこまで重要じゃないから」
僕はあわてて首を横に振った。
行くこと自体は構わないけど実はそこへの用事なんて全くないんだ。




