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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第三十七話 あと一体

 罠に引っかかっていたオークを屠りながら東側につくと、こっちもすでに狩りを終えていた。

 数が多い分速く狩ろうとしたのか辺り一帯には血の臭いが立ち込めている。

 その中に立つ三人のうち、アレックスさんさんとミュリエルさんは返り血でぬれている。


「そっちも終わったのか」

「うん、アレックスさんたちも?」

「おうよ、あとはこんなになってもねこけてやがるボスだけだな。ただその前に軽く血を落とさせてくれ」


 よく見てみればミュリエルさんよりアレックスさんの方が血に濡れている。

 正面から相手取ったかそうじゃないかの違いだろう。


「いいけどそれくらいじゃ匂いは落ちないし、どうせまた汚れるんだから後でもいいんじゃないかな?」


 染み込んだ返り血は水で濡らすだけでは落ちない。

 気持ち悪さは水でもあまり変わらないし、乾燥する前にとか考えたところで全体が赤く染まるほどならもう手遅れだ。


「まあそれもそうか。全部終わってからだな」


 よっと、と彼は大きな剣を持ち上げて鞘に入れた。

 すでに拭っていたのかその刀身に血はついてない。


「うーん、あのねー。さっきボスを見た時は結構大きかったんだー。だからさー、真正面から戦いたくないなーって」


 ボスの方へ向かおうとしていたアレックスさんを呼び止めたのはミュリエルさんだった。


「大きいってどのくらい大きいのよ」

「えっとねー」


 ミュリエルさんがあちこちを見回す。

 目が留まったのは先ほど仕掛けた罠のうちの一つだった。


「ロウル君とロナで一個だけ大きい落とし穴つくってたでしょー?」

「うん」


 ここのすぐ近くに太い木が並んで二本生えている場所があって、パウロナさんの土属性の魔術でその間に長方形の落とし穴を作っていた。

 表面が固めた土になっていて踏んだら崩れるようになっている。

 結局使わなかったようだけど、ここに誘導すればオーク三匹くらいは落とせるようになっている。


「その穴がねー、ちょっとだけ余裕を持って埋まるくらいの大きさかなー。それも下半身だけでー」

「……どんだけでけーんだよ」


 オーク三匹埋まる穴が下半身でいっぱい。

 上半身も合わせたらオーク六体ぐらいになるということ。

 でかいから必ずしも強いという訳ではないけど、重さは武器になるし厚い脂肪は立派な装甲になる。

 確かにそんなのと正面から戦うなんて馬鹿みたいだ。


「うーん、そんなに大きいんじゃ僕の攻撃だと通用するか分からないね」


 噓だ。

 体が分厚い脂肪や装甲で守られていても急所まで刃を届かせるすべを僕は“思い出している”。

 けれどそれは()()()()使()()()()()()()ではない。

 使えばきっと“僕”が崩れるのが早まってしまう。

 ただでさえ割れかけているというのに。


「あたしも同じだねー」

「私もね。時間をかけて何発も撃てば何とかできるかもというかしら。帰ることを考えなければまた違うとは思うのだけれど」

「わ、私は」

「アイリスはまだ駄目、オークに狙われたら逃げられないから」


 残念だけど、ここで甘い顔をすることはできない。

 森の走り方を知らないアイリスが狙われてしまったら一人で逃げ切ることはできない。


「ねえアイリス。アイリスにとって今から見るのが初めてのちゃんとした狩りになると思う。だから今回は見ていてほしいんだ。僕の狩り方は多分アイリスの参考にはならなかっただろうからね」

「わかり、ました」


 それにアイリスには伝えなかったけど、もしアイリスが恐怖か何かで魔術の制御に失敗してしまい、僕らにまで攻撃が当たってしまったとする。

 そうなるとアイリスを守るどころか怪我無くボスオークを討伐することさえ難しくなるかもしれない。

 それに僕らの邪魔をしてしまえばまず間違いなくアイリスは不安定になる。

 安易にかかわらせるわけにはいかない。


「きゅ! きゅ!」

「えっと、ソラも何かしたいんだね」


 少し頭を悩ませる。ソラにはアイリスと違いオークに狙われるくらいの強い攻撃手段なんかないし、体も小さくすばっしっこいから狙われにくく逃げやすい。

 けど一度でもあたってしまったらそれだけで命の危機だ。


「あのねー、考えてるところいいかなー?」

「あ、うん、なに?」

「その落とし穴にねー、ボスを誘導できないかなーって」


 なるほど。

 確かに体半分しか落とせないとしても、逆に言えば半分は落とせるんだ。

 そうすれば動けなくなるし自身の重さで抜け出すことも簡単ではないはず。


「じゃあそうだ。ソラはボスが穴に落ちた後に手の届かない木の上から気を引いてくれるかな?」


 穴の左右の木はかなり太く、いくらオークが怪力であっても一度でどうにかするのは大変だろう。

 その上であれば危険も少ないはずだ。


「きゅ!」


 ソラは元気よく袋の中にもぐりこんだ。

 どうやらタイミングが来るまでそこで待機してるつもりらしい。


「そろそろボスを呼んでこようかなー」

「あ、僕も行く?」

「一人で十分だよー」


 答えるや否やミュリエルさんは一人森の中へ消えていった。

 じきに戻ってくるだろうからそれまでに準備を終えておかないといけない。


「急ごうか」

「おう」

「そうね」


 そうして僕らは迎え撃つ準備を始めた。

 そのうちアイリスにもこういう時どうすればいいか今度教えておこう。

 居場所がないと思ってしまう状況がアイリスをさらに不安にさせてしまうのだから。

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