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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第三十六話 消えない焦り

 話した結果。

 村長さんは悪い人物じゃないということが分かった。

 それだけでなく、村長さんに森の中ならばと紹介してもらった狩人も廊下ですれ違った使用人も悪い人じゃなかった。

 これなら多分大丈夫だ。


 というわけで取り越し苦労だったとわかり、今僕らは森の中を歩いていた。


「よしできた。待たせてごめんね」

「全然いいわよ。罠があればその分楽できるもの」

「だな。だがロウル、罠の回収は忘れんなよ」

「もちろんだよ」


 狩人がいるんだから当然この森に踏み入る人間は存在する。

 オークは賢い魔物じゃないから分かりやすい罠にはしているけど、それでも夜闇に紛れてしまえば人にも見つけられなくなる。

 人を怪我させてしまえば一大事だ。


「よっと、ただいまー」

「おう、どうだった?」


 上からミュリエルさんが降りてきた。

 彼女は木の上を伝って先を身に行ってくれていたんだ。

 僕もついて行けるからどうしようかと思ったけど、僕には罠を仕掛けるという仕事があるからそっちを優先した。


「うーんとねー、奥の方に強そうなのが一匹寝ててー、その周りで普通のがご飯を集めてるって感じかなー」

「うげ、上位種がいるのかよ」

「そうっぽいよー」


 上位種というのはそのまま上位の種族という意味。

 今回は一匹だけ強いオークがいて、それに従うようにして他のオークがいるということだろう。

 でも上位種が一匹で残りが下位種というのは群れにしては小さめ。

 もちろん下位種だけの群れよりは厄介だけど、一匹でも上位種がいたら加速度的に群れの規模が増していくのが魔物だ。できたばかりの群れでよかった。


「良かったね。もし僕たちがここに来るのがもう少し遅かったらもっと大きい群れと戦うことになってたと思うよ」

「ええ、そうなってしまっていたら村に被害が出ていたかもしれないものね」

「ああ、うん。そうだね」


 僕が言っているのはそういうことではないんだけど、まあいいか。

 でも本当によかった。

 もっと大きな群れだったら二人を守り切れない可能性が出てきていたから。


「そんじゃ、ここを中心に狩りはじめんぞ」

「ソラはいつもの場所に。アイリスも僕についてきてね」

「きゅ!」

「わかり、ました」


 僕らは皆荷物をその場におろし、一つだけ背負ったままの袋にソラが入ってくる。

 アイリスは怖がっていて、しかし視線はしっかりと前を向いている。

 それでいい。

 全方向警戒するのはまだ荷が重い。


「で、ロウル。下っ端どもはお前だけで狩れるか?」

「もちろん」


 何なら上位種も一人で狩れると思っている。

 守りながら戦ったことはないから本当に狩れるだけなんだけど。

 でも下位種程度なら守りながらでも狩れる。


「えっとねー、東にある川の方に沢山いてー、西の方は少なめだったかなー」

「なら私たちが東、あなたたちが西でいいかしら?」

「分かった。倒し終わったら合流するよ」


 向こうは三人でこっちは実質一人だ。

 それだけではなく守る必要もあるのだから大変な方は任せた方がいい。


「じゃあいくよ、二人とも」

「手伝い、ます」

「きゅ!」


 どうやら二人はやる気で満ちているようだ。

 そんな二人には申し訳ないけど、今回くらいの敵なら本当に一人で十分なんだ。

 だから二人の出番はないんだけど、そう正直に告げたくないからどうしようか迷っていた。






 迷っていたけど、言わなくても僕一人で狩れるのは変わりない。

 だからそのまま伝えて二人には周りを警戒しながら戦い方を学んでもらうことにした。

 僕の戦い方は特殊だから参考になるかは怪しいところではあるけど。


「よし」


 木と木の間の足首当たりの高さに糸をはった。

 とても簡易な罠だけど、知能が低く視点が高い二足歩行の魔物にはとてもよく効く。


「ほら、こっちだ!」

「「bmmo!」」


 糸を挟んで反対側にいるオークに石を投げてこちらのことに気づかせた。

 二匹いるけど罠はそれ以上の数を用意している。

 当然敵を見つけたオークはまっすぐこちらに走ってくるけど。


「bmo!?」

「bm! bmomo!?」


 一匹がこけ、その重さもかかり糸が切れる。

 それを馬鹿にしながら通り過ぎたもう一匹もその先でこけた。


 糸が切れたのはちょっと予想外。

 もったいないと安い糸を使ったのが間違いだったかな。

 でももう終わり。

 起き上がる前にナイフを突き立てるか首を絞めるかしてあげればいい。

 オークは無駄に頑丈なので首を絞めるのは大変だけど、そうすれば音も匂いも出さずに殺せる。


 そうして殺し、同じような手法で他の個体も処理していく。

 使うのは変わらず脆い糸だ。

 切れても倒せるのなら問題ない。


「よし終わり、二人とももういいよ」


 そうして西側のオークは全て狩り終わり、僕は隠れていた二人を呼んだ。


「うう、何も、できない、です」

「きゅー」


 草の陰から現れたのは土にまみれた二人の姿だ。

 それを迎える僕も土で汚れている。

 けれどこれはどこかで転んだとかそういうことではない。


「ごめんね、何もさせてあげられなくて。それと土をかぶせちゃったのも」


 三人とも汚れているのは僕のせい、というか僕がわざと土をかけたからだ。

 もちろん理由があって、それは匂いを誤魔化すため。

 土をかぶり匂いを森になじませればよりオークたちに気づかれにくくなる。

 狙われても守れるけどそもそも狙われないのが第一だ。


「いい、んです。私は、役立たず、ですから」


 ああでも、やっぱり気落ちしちゃってる。

 けどアイリスを戦いに組み込んでしまっていたらきっと彼女は怪我をしてしまっていた。

 魔物に攻撃を受けてというのもあるけど、それ以前にちゃんと魔術を制御できない状態での初の実戦が上手く行くとは思えない。


 彼女に戦わせていればきっと自身の魔術で怪我を負ってしまっていた。

 それで魔術を怖がってしまえば魔術をまともに使えなくなる可能性があった。

 それは避けなければいけない。


 落ち込みうつむくアイリスに、膝をついて下から目を合わせる。


「アイリス、焦らないでいいんだよ。できることから少しずつやって、できないことは人に任せればいいんだ。任せて任せて、できるようになったらやればいい」


 できないことであってもしろとそう命令されているわけではない。

 できないのなら任せてとあのお人よし三人は言うだろうし、僕だって同じ。

 ソラだってできないことを馬鹿にはしない。

 頑張っているのなら応援して、落ち込んでいるなら慰めて、喜んでいるなら一緒に喜ぶのがソラだ。


「きゅ」

「ありが、とう、ございます」


 ちょうど今のように。

 ソラはさらに土がつくのを厭わずに鼻先をアイリスにこすりつけている。


「アイリスは間違いなく成長してる。上手に魔力を操れるようになってきてるし、どんどんと新しい魔術言語を覚えている。このまま続ければいずれはしっかりと活躍出来るようになるよ」


 だから焦らないでと繰り返す。

 結局のところ心の内の問題を解決できるのは本人だけだ。

 周りは根気強く伝えて支えるしかない。


 さて、と立ち上がった。

 目を合わせていたアイリスの視線も自然と上を向く。


「とりあえずアレックスさんたちと合流しようか。相談しないとどうするか決められないから」

「きゅ」

「わかり、ました」


 また固くなったアイリスの頭にポンと優しく手を置いて、僕らは警戒を怠らないまま東側を目指して進んでいった。

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