第三十五話 オーク退治
それは文芸の都市を出ていくつかの街を経由し、その先の村でのことだった。
「つーわけで、オーク退治を受けてきた」
「そうなの、それは仕方ないわね」
「そっかー、なら頑張ろっかー」
村長さんに一晩泊まるところを貸してくれないか聞いてくるからここで待っててくれって、そう言ってアレックスさんはいなくなったはずだ。
それで帰ってきての第一声がこれである。
「……そういうわけでじゃなくて理由を説明してよ。貸す代わりに討伐を頼まれたの?」
「いや、それは借りれた。部屋が余ってるから使ってくれっつってた。オーク討伐は困ってることを聞いたら教えてくれただけだ」
「そっか」
パウロナさんとミュリエルさんがどう思っているのかは確認しなくてもわかる。
アレックスさんの言葉を当然のように受け入れて即座に準備を始めた二人だ。
否定するわけがない。
なるほど、マーチさんのお人よしたちを止めてくれればって言葉はこういうことなのか。
お人よしだということは知っていたし止められる気がしないという話もしていたけれど、これは想定以上だ。
「うん? どうしたんだロウル。調子でも悪いのか?」
「いや、そうじゃないよ」
アイリスと今はその上に乗ってているソラを見てみるけど、見られる理由が分からないのか二人とも首をかしげていた……あ、ソラが落っこちそうになって慌ててる。
けどまあそれくらいなら落ちないだろう。
「きゅ!? ……きゅ」
「ご、ごめん、なさい」
「きゅ」
仲直りしている二人にアレックスさんたちを止めることは期待できない。
ソラは言わずもがなアイリスもアレックスさんたちの行動が普通でないことは分からない。
いや、普通でないこと自体はどうだっていいし人を助けたいというのも構わない。
問題は相手がこちらを騙そうとしていないか確認できないということだ。
村人を騙った盗賊の集団ということもないわけではないし、村人総出で盗賊をやっているということもまた無いわけではない。
特に今僕らは人目を避けるためあまり使われていない街道を通ってきていた。
その途中にあるこの村も旅人はあまり寄らないだろう。
騙されていてアイリスやソラに怪我やそれ以上のことがあったなんていうのは嫌だ。
でも注意できるのは僕一人……これは大変そうだ。
「とりあえず村長さんに依頼の詳細を確認してきてもいいかな」
「いいけどー、何を聞きに行くのー?」
「それは大体の位置とか森の地形とか。ほら罠を仕掛けたりするには必要だから」
それっぽい理由を話す。
流石に三人の前で村長さんを信じられないからとか馬鹿正直に話すことはできない。
「あら、あなた罠が使えるのね」
「うん、簡単なものならね」
「へー、あたしは発見できても設置と解除は苦手だからねー。すごいよー」
「それほどでもないよ。それじゃあ聞いてくるから先に準備しといてね」
これはもしかして今後もこういうことが続くのかな。
それは――
「あ、あの!」
そうして足早に去ろうとしたら急に呼び止められた。
「どうしたの? アイリス」
大声を出すなんて珍しい。
けど劇を見てからの彼女は成長していると同時に焦っているようにも思える。
目標を見つけられたのはいいけれど、早くそうならなくちゃと追い立てられてしまっているようだ。
「わ、私もついて、いって、いいですか」
「うーん……」
アイリスだけでなくその上に乗るソラまでもが行きたそうに見つめてくる。
聞かれちゃいけないことを話すつもりはないし、まあいいのかな。
本当に野盗ですぐ襲いかかってくることがあっても集合まで僕一人で守りきる自信はあるし。
「それじゃあ、アレックスさん」
「おう、準備は俺らでやっとく」
「ありがとう。ほら、行くよ」
「は、はい」
「きゅ!」
二人を連れて村長さんの家にお邪魔する。
ただし、二人を連れてきてしまったのですぐ強硬手段に出ることはできない。
一番いいのは本当に困っていただけって場合だけど、そうでないこともままあるのが帝国だ。
広い分統制が行き届いておらず見逃されていることも多い。
しっかりと気は張っておこう。




