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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第三十四話 旅の再開

 それから四日間はアイリスの魔術の勉強を手伝ったり、都市の中を散歩したり、旅の準備をしたりして過ごした。


 アイリスの勉強は結構順調。

 始めたばかりだからまだ使うことはできないけど、このペースで進めていけばそう遠くない内に初歩的なものは扱えるようになる。


 散歩では広場で行われていた大道芸にソラが大きく興味を示した。

 派手な芸が行われるたびに嬉しそうに鳴き声をあげて、大道芸人だけでなく他の観客までを和ませていた。

 そのすぐあと調子付いたのか大技に挑み失敗してしまっていたけど。

 ソラはこういう芸が大層お気に召したようで、宿から出るたびに観に行きたいとせがむようになった……僕もできるようになろうかな。


 旅の準備ではアイリスの服などの日用品も買った。

 荷物が結構増えることになるのだけど馬を買ったこともあって持ち運べる量にはまだまだ余裕がある。


 その馬はマーチさんのつてでかなり安く買うことができた。

 一度別れたあとアレックスさんが偶然会い、その時に頼んでみたら力を貸してくれたらしい。

 元々は借りるだけのつもりだったのだが、マーチさんの口利きに加えてそれなりに年のいった馬ということもあって借りるのよりも買う方が安かったのだ。

 それに年のいった馬であっても持久力に問題はない。

 捕まえたばかりの野良馬ではなく連綿と馬屋で育てられてきた品種であり、足こそ速くないもののある程度の重さなら余裕で運ぶことができる。


 買ったことによってどこかに滞在している間も飼い葉などの費用も払うことになるけど、僕らの目的地はここから遠く離れているグロウス王国だ。

 その道中で借りて返してを繰り返すのならば買った方が圧倒的に安く済む。


 そうして僕たちは準備を終えた翌日の早朝に都市の東門をくぐっていた。

 入ってきた時とは反対側の門だ。

 前の街とは違って何の気負いもなく外に出られる。


「わぁ……」


 都市から外へ出たアイリスは後ろを振り返り前を向きと繰り返している。

 どこにでもある何の変哲もない街道のはずだけどどうしたのだろうか。

 そう思って聞いてみる。


「どうしたの、アイリス」

「あ、その」


 言葉に詰まったアイリスはすーはーと大きく深呼吸した。

 数日前の劇の後から少しずつアイリスは変わってきている。

 まだ一週間も経っていないけどしっかりと落ち着いて話すようになったのはその変化の一つだ。


「壁の中、は賑、やかでした。でも、すぐ外は森、です」

「外と中が違い過ぎて驚いてるってことー?」

「はい、賑やかな、場所、初めてだった、ので」


 まあでも確かに。

 壁の外側が大自然、内側が栄えた都市というのは何も知らなければ不自然に映るのかもしれない。


「まあしょうがないわよ。魔物が湧くんだから」

「魔物はな、人がいねぇとこに出てきやがるんだ」


 納得できたような、そうでもないような顔で頷いている。

 まだちゃんとは理解できていないようだ。


「魔物は人がいる街とかよくとおる道には湧かないんだ。森とか洞窟とか人がいないところに湧く。人が通らないほど魔物が湧きやすくなる」

「はい」


 だから放棄された村や使われない街道はもちろん、街中であっても誰も住まない大きな邸宅や整備されていない下水道にまで湧く。

 人が近くにいないのならばどこだって同じだ。


「だから例えば森を切り拓いて整備したとしても、そこを使う人がいないならすぐに魔物に荒らされることになる。だからどこも壁の外の開拓には消極的で、結果こんな風に壁の中だけが発展していくんだ」

「そう、なんですか」

「そう、でもそれだけじゃない。人が増えないまま壁だけ広げるとどうなると思う?」


 えっと、と考えこむアイリスを優しく見守る。

 アレックスさんたちも何も言わないでいてくれている。


「人が、広がり、ます」

「そうだね、その後は?」

「えっと、人がいない、ところが増えて。壁の中に、魔物が、湧き、ます」

「そう、正解。だから壁を拡張しなくて、やっぱり新たな土地はいらない。拡張するのは人が増えて壁の中に入りきらなくなってからだね」


 わかってえらいと頭を撫でる。

 やっぱり環境がなかっただけで頭はいい。

 きっと知識を習得できる場所があれば大きく伸びることができるだろう。

 そういえばたしかグロウス王国には大きな学園があったはずだ。

 アイリスをそこに連れて行くのもいいかもしれない。


「きゅー!」

「おっと、ソラも撫でてほしいんだ」


 アイリスだけずるいと飛び出して来たソラも撫でる。

 私もソラクリアと触れ合いたいと言うパウロナさんを見て、ミュリエルさんがにんまり笑う。


「ソラクリア君、こっちにもおいでー」

「きゅ」

「ああ、そんな……」

「おい待てロナ。こんな所で膝をつくんじゃねえ」


 アレックスさんの賑やかな雰囲気につられてアイリスが笑う。


 学校に入るとなるとアイリスがアレックスさんたちと触れ合う時間は確実に減る。

 彼らはアイリスが頼れる人物だ。離れることになって不安定にならないか微妙なところ。

 まだ目的地につくまで時間はあるのだしそれまでゆっくり様子をみようか。


「ああもう、いちいち立ち止まってちゃ時間がいくらあっても足りねえぞ! ほら、とりあえず歩け!」


 買った馬の手綱を引き、アレックスさんは先に歩いていく。


「りょーかい。ソラクリア君は本当にいい子だねー」

「きゅ? きゅ!」

「……分かったわよ」

「あーあ、ソラは僕よりミュリエルさんの方がいいんだ。残念だなー」

「私、が、隣に、います」


 焦って飛びついてくるソラを受け止めて僕は、僕らは前へと歩く。

 根拠も何もないけれど、彼らと一緒にいれば僕もずっと笑っていられるような、そんな気がしていた。

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