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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第三十一話 竜狩りの英雄は一人きり

「竜狩りの英雄、ジークフリートよ! そなたに火竜退治を頼みたい!」

「おいおい、またなのかよ」

「そう言うな、頼めるのがお前しかおらんのだ」


 身なりを整えた威厳のある男性が苦々しく顔を歪める。

 体格のいい男がそれをみて豪快に笑った。

 それに合わせて肩に乗せている大剣が大きく揺れる。


「しょうがないな! 今度もやってやるとするか!」


 人が扱うにはいささか大きすぎる大剣。

 それを片手で軽々と振り回した彼は、剣を斜め上に掲げた。


「いつも通り、パパッと対峙してきてやるよ!」


 暗転。




 明転。

 場面は大きく変わり、二人組が町中で店を見ていた。

 その片方は先程まで王城にいたジークフリートだ。


「それで、その場で受けてきたわけ? ねえ」

「そりゃあ頼まれたんだ、それも竜退治を。受けるしかないだろ」

「まったくもう」


 はあとため息をついたのは二人組のもう片方、いかにも魔術士然とした女性だ。

 紫のローブを着てとんがり帽子をかぶり、先に赤く輝く宝石のついた捻じれ木の杖を手に持っている。


「それ、私もついて行くことになるんだからね」

「なんだよ、来たくないならついて来なくていいって毎回言ってるだろ?」

「なんなのよその言い方。ついて行って上げてるんだからありがとうの一言ぐらいあってもいいでしょ」

「だから俺だけでなんとかできるって言ってるだろうが」


 睨み合う二人の周りを残してばっと全ての照明が落ちる。

 二人だけが照らされる中、互いに杖を突きつけ剣を突きつけまさに一触即発だ。


「あんたひとりじゃ何もできないでしょう!」

「いいや、お前なんかいなくても何も変わらない!」

「なによ!」

「なんだよ!」


 ぎろっと睨み合う二人の間にバチバチ火花が飛び散っている。

 しばらくそのまま睨みあい、ふんっと二人が同時に目を逸らした。

 そこでまた暗転。




 明転。

 今度は夜の森の中だ。

 倒れた巨大猪に背を預けて傍らの地面に鞘のままの大剣を突き刺し、火のついていない焚き火を前に唸っている。


「なあ、っていないんだった。いや、だからどうしたって言うんだ。いなくたって何も問題ないっての。……はあ、火をつけるか」


 荷物から火打石を取り出してカチカチと打ち付ける。

 けれど何回やっても火がつかない。


「ああ、くそ! ってあちっ」


 苛立ち混じりに叩きつけた一回で火がつき、慌てて火種を放り投げる。

 役立たずがと言いたげな表情で火打石をねめつけて、苛立たしげに火打石を遠くに投げ捨てた。


「はあ、けどほら、俺一人でも火をつけてやった……おいまて、消えるな!」


 慌てて放り投げた火種を取り上げているようだけど、残念なことにもうそこに火の陰はない。

 もんでも開いても完全に消えた火が出てくることはない。


「チッ、もう一回火打石……あれ? どこいった?」


 残念ながら火打石は投げ捨ててしまっている。

 彼はもう一度荷物を漁っているけどその結果は芳しくないようだ。


「あれが予備だったもんな。火打石なんて使わねえし」


 ピタリと彼の動きが止まる。

 多分彼の脳に浮かんでいるのは、今までどうして火打石を使う機会がなかったかだ。

 当然それは一人の女性のおかげ。


「やめだやめだ! 火なんてなくたって寝れる!」


 想像を振り払うかのように頭を振り、猪の毛皮に体を預けて剣を抱きながら彼はゆっくりと眠りについていく。

 そのままゆっくりゆっくりと、時々身震いする彼の姿をおぼろげに残しながら、明かりはまるで日が沈むかのように消えていく。

 暗転。




 明転。

 今度は焼け焦げた大地、いや森の中だった。

 煙が上がりいまだ燃え続けるその場所に、ふらふらと揺れながら歩いて行くジークフリートの姿がある。


「あー……熱いし喉も乾いたな」


 腰のホルダーから水の容器を取って文字通り浴びるようにして飲み、ふたを閉め腰に収め彼は再び歩き始める。

 しかしいくら進めどあるのは燃えている森ばかり。

 燃えているということは火竜が通ったということだけれども、なかなかその姿が見えてこない。


 なんて思ったその時、突如彼に大きな影がかかった。

 徐々に徐々にその影は大きくなっている。


「なんだ、ってやばっ!?」


 上をみた彼はすぐさま前に勢い良く飛んだ。

 着地も何も考えてない無茶な動きだけど、そのおかげで間一髪彼の命は保たれたようだ。


「ようやくお出ましか。ここ数日上手くいかなくてイライラしてるんだ。とっとと倒されてくれ!」

「GwoooOO!!」


 降りてきたのは大きな赤竜だ。

 そいつこそが今回の討伐目標。

 四足をしっかりと地につけて喉を唸らし、周囲を睥睨している。


「はぁああ!」


 ジークフリートは竜の唸り声を覆い隠すほどの雄叫びを上げ、勢い良く竜にむかっていく。

 人と竜が一対一で相対するなんて、普通であれば愚の骨頂だ。

 けれど彼は竜狩りだ。

 竜狩りの英雄ジークフリートだ。


 彼の刃は容易く竜に届き得る……はずであった、本来ならば。


 ギィン! と耳障りな音が辺りに響く。

 強く振られた大きな剣が竜の身を守る硬質なうろこによって弾かれる音だ。


「チッ! ミスったか!」


 彼は剣を叩きつけた反動で竜から大きく距離を取った。

 忌々しそうに舌打ちしてしっかりと大剣を握り直す。

 いかに英雄と言えど人の身であることに変わりはない。

 本来人では届きえない竜の攻撃を可能にしているのは彼の圧倒的な技術なのだ。

 隙間なく密着している鱗のその境目を無理矢理こじ開け、肉まで刃を送り届けるのだ。


 その技術こそが、彼を竜狩り足らしめているもっとも重要な部分。

 だというのに彼の動きは、刃は、明らかに鈍ってしまっているように見えた。


「GAAAAA!!」

「邪魔だ! ちくしょう!」


 竜がブレスを吐くのは人が息をするのと同じくらい当然のことだ。

 ブレスを吐かない竜は竜とは呼べず、だから竜を狩るのならブレスの対策なんて出来て当たり前。


 しかし火竜がひとたび火を吐けば、彼は下がる以外に何もできない。

 竜狩りの英雄としてできて当然のはずのことができていない。

 彼は明らかに不調だった。

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