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まぼろし使いの少年は今日もまた誰かを騙す  作者: ネム
第一章 ひびの入った仮面
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第二十八話 灰色の髪留め

 アレックスさんたちと分かれてから僕とソラとアイリスは市場まで足を伸ばしていた。

 目的はもちろんアイリスの髪飾りだけど。


「やっぱり人が多いね」


 ちょっと遅めに宿を出てマーチさんと会ってアクセサリーを買って、気づけばもうお昼過ぎ。

 買い物客だけでなく仕事着でお昼を食べている人から家族連れで歩き回っている人までいる。

 そんな中でソラとアイリスは対照的な行動を取っていた。


「そういえばお昼食べてないね。何が食べたい?」

「えっと……」


 アイリスは怖いのか僕の後ろに隠れていて、でも聞かれたことには答えようと頑張って周りを見ている。


「きゅ! きゅ!」


 一方ソラは周りに興味津々なようで、アイリスの頭の上からさらに背中を伸ばしきょろきょろと視線があっちこっちに動いている。

 テンションが上がって僕の言葉も聞こえてないみたい。


「えっと、あれが、食べたい、です」

「なるほど、サンドイッチ」


 こんな人の中だと座れる場所を探すのも難しいし、立って食べれるサンドイッチは良さそうだ。


「じゃあそうしようか」


 ちょうどアイリスが示した屋台は並んでいないしこれならすぐに買えるかな。

 まあ並んでいないということは……っていう話ではあるんだけど、せっかくアイリスが決めてくれたんだしね。




 少しして、無事にサンドイッチを買えた僕たちは端の方ですぐに食べ終えて再び市場を歩いていた。


 ちなみにサンドイッチの感想なら可もなく不可もなく、不味くはないのだけど何か語れと言われれば難しいというような味だった。

 それはアイリスも僕の分から一口食べたソラも同じ感想だったみたいで、不思議そうな顔をしながらしきりに首をかしげていた。


 でもこうして当たりはずれがあるのも屋台の醍醐味と言えば醍醐味だ。

 常日頃から食べるというのは遠慮したいけど、こうしてふらりと立ち寄って買うくらいであれば決して悪いものではない。


 というかアイリスまで首をかしげるなんてもしかするとこのサンドイッチは大衆からするとまずいのかもしれない。

 忌子だからといってまともにご飯が食べられないわけではないけど、それでも人に交じって生活することのできない子供が食べられるものなんて知れている。

 どうしても味が落ちるのだけは間違いないし、そもそもまともなものが食べれていたのかすら怪しい。


 そんなアイリスが微妙に思うほどの味なら、僕らじゃないと食べきれなかったかもしれない。

 やはりお昼時だというのに人が全くいない屋台にはそれだけの理由があるんだ。


「あ」

「どうしたん、です、か?」

「きゅ?」


 あの屋台はそのうちつぶれるだろうなと思っていると、良さそうなお店が目に入ってきた。


「あそこ、寄ってみようか」

「は、はい」


 見つけたのはこじゃれた雰囲気の小さなお店だ。

 開けっ放しの入口からは女性向けであろうアクセサリーや服がのぞき見える。

 ここなら良さげな髪飾りが売ってるかもしれない。


「いらっしゃい。ゆっくりどうぞ」


 中に入ればそんな店員の声に迎えられた。

 ふとその声の方を見てみるとカウンターに座った女性がゆったりと針を動かしている。

 ここのものは彼女の自作なんだろうか。


「アイリス、どれがいいとかある?」

「えっ、と……」


 その瞳が不安げに揺れ動く。

 やっぱりこういったことは不慣れなのか。

 それなら無理に選ばせることもない。


「それとも僕がアイリスのために選んでもいいかな」

「お願い、します」


 言えば即座に安堵して頷いてくれる。

 よし、なら似合う色を選んで上げないと。


 そう意気込んだは良いものの、髪留めの置かれている棚の前で早速僕は悩んでいた。


 デザインに関してはそこまで種類が多くないこともあってすでに決まっている。

 模様の入った小さなリボンだ。

 しかし色がなかなか決まらない。


 普通であれば髪色に合わせて買えばいいのだけど、アイリスの髪はその色が変わる。

 だから今の青い髪色に合わせて買ってしまうと直に使えなくなって……


「僕は馬鹿なのかな」

「そ、そんなこと、ない、です」

「そっか、ありがとう」


 また僕はアイリスをなでて、なんとなくその髪を一房手に取った。

 この髪が色を変えるなら、色を変えても合わせられるようにいくつか買えばいいという話だ。

 一つだけしか買ってはいけないなんて縛りはない。


「でも色んな色に合う色はあった方がいいよね。グレーか黒か白か。他には」

「あ、あの。それなら、グレーがいい、です」

「グレー? いいけど」


 髪から手をはなしてグレーのリボンを二つ取る。

 あとは赤青緑にオレンジとベージュがあればとりあえずは十分かな。

 過剰かもしれないけどどうせ重さがほとんどない小物だ。

 一つ二つ多くたって変わらない。


「ていうかそうだ、服も買わないと」


 今のアイリスの服はパウロナさんとミュリエルさんから融通してもらったものだ。

 彼女の服はまだない。

 買うならしっかりとした旅装にしないといけないからここでは買えないけど、この都市を出るまでにはその辺りも買いそろえておきたい。


 この前は強行軍だったから馬がいなかったけど、五人で旅をするのであれば荷物を載せる馬を連れているのが普通だ。

 前回のは荷物が少なかったのと力の強い探索者がいたからこそできた無茶。

 今回は馬を借りるだろうし前回より荷物が増えても問題ない。


「さて、そろそろ買いたいんだけど」


 もうこの店で買うものは選んだ。

 だからあとはお金を払うだけなんだけど、実は少し前に店員がいなくなってからまだ帰ってきていなかった。

 人がいるのに店を空けるとか不用心なんじゃないだろうか。

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