第二十六話 待ち合わせの理由
「わー、良く似合ってるねー。よかったねーアイリスちゃん」
「は、はい」
「きゅ!」
赤くなったアイリスは僕の後ろに身を隠し、そのせいでソラのいる袋がきゅっと押される。
それに抗議するようにしてソラはアイリスの頭の上に飛び乗った。
偶然だけど、袋に閉じこもっていたソラが出てきてくれた。
「はいソラ。ソラにもプレゼント」
さっき一緒に買っていた銀色に輝く小さめの腕輪をソラの左前足に嵌める。
うん、ぴったりだ。
……足に嵌めたから足輪になるのかな。
「ソラもよく似合ってるよ」
きゅ? と首を傾げたソラが足輪をの嵌められた足を持ち上げる。
「きゅ! きゅ!」
「うわっ! と、そんなに喜んでくれたのならよかったよ」
嬉しさが溢れて飛び込んできたソラを抱きしめる。
「こうやって客が喜んでくれるのが商人をやっていて一番うれしいことだよな」
「こっちもいい買い物ができたよ。ありがとうねマーチさん」
ソラに買ったのもただの足輪ではない。
つけると力が上昇する効果のあるものだ。
本を買って魔道具も買ってそれなりにお金は使ったけど二人を喜ばせられたなら安いもの。
それにまだ余裕はあるしね。
無限ってじゃないから稼ぐ手段は見つけないといけないけど。
「へぇ、色々面白いものがあるわね」
「あ、パウロナさん」
いつの間にか復活してる。
さっと見回すとミュリエルさんはいなくなっていて、少し離れたところでアレックスさんと何か話してる。
「あのな、道でへたり込むような真似はするな」
「何もわかってないわね。ソラクリアの可愛さの前ではそれも仕方がないのよ」
うげぇって顔して引いてる。
でも以前からの知り合いが様子を――おかしい方に――変えていたらそうなるのもしょうがない。
「こいつってこんなんだったか?」
「僕が知ってるのはこういうパウロナさんばっかりかな。ソラを見るとよくこうなってるし」
「……そうか、そういえば前から可愛いものが好きだったな」
にしてもと言いたそうな顔をしているけど実際これなんだ。
よほどソラがパウロナさんの琴線に触れてしまったのか。
「うん、これは良さそうね」
けれどそんな風に話をされているのを全く意にかけず、パウロナさんは並べられている商品を見ていっている。
「こんなところよね。マーチ、これ全部でいくらかしら?」
「あーっと、銀貨七枚ってところだ」
「七枚? 高くないかしら」
パウロナさんの手にあるのはいかにも魔術士然としたコートと捻じれ木の杖だ。
杖の先には紋様が刻まれた大きめの魔石が取り付けられている。
「高くないし交渉の余地もない。お前ら相手だから最初から限界まで値引きしてある」
「まあそうよね、その値段でいいわ。でも杖の本体はいらないから魔石を外して売ってくれないかしら」
「わかった。加工賃もとらないでおいてやる」
「あらそう? ありがとうね」
加工するのは本業じゃないから丁寧さは求めるなよと言いながらも、マーチさんは何やら道具を持ってきた。
それを使って少しずつ魔石を外していく。
「そういえば、なのだけれど」
その作業を眺めていたら、ふとパウロナさんが口を開いた。
「どうしてあなたと会う約束をしていたのかしら」
がっと変な音がした。
魔石を外すために使っていた道具が杖を置いていた板に突き刺さる音だ。
深く刺さっているそれを置いてマーチさんは顔を上げた。
「さてはお前、全部アレックスに任せきりだったのか」
「しょ、しょうがないじゃない! 難しいことは嫌いなのよ」
「嫌いで済ますなよ……」
おいおいと呆れているマーチさんが刺さった道具を引き抜いている。
「お前らにはそういうだらしないところがあるからな。そこを補うため別の国に行くなら同行するって話をしていただろ」
ああそういえばそうねと言いながら彼女は納得顔で頷く……ことなく、むしろ怪訝な顔をして首をかしげた。
「でもあなたってそういうのできるのかしら」
「私めは商人ですので。当然その程度――」
「気持ち悪いわね」
「おい」
再びため息をついている。
「あのな、知人にまであんな堅っ苦しい話し方してられるか――って危な」
「おっと」
ばきっと木が折れる音が鳴ってマーチさんの手元から飛んでいった魔石をキャッチした。
なるほど、近くでみると紋様の複雑さがよりわかる。
確かにここまでいいものはなかなか手に入らないだろう。
一方で持ち手の方はよく見なくとも古びているのが分かる。
いま魔石が飛んできたのも支えの部分が急に折れたからなんだし。
……なるほど、確かにこれは魔石しかいらないね。
木製の部分と魔石の部分の価値が明らかに釣り合っていない。
これなら付け替えた方が性能がよくなったはずなんだけど、そうしなかったってことは何か思い入れのある品なんだろうか。
まあどうであれ今それは分解された上で壊れたんだけど。




